- 結婚式  -

 
    勢い良くドアが開けられ、やつが飛び込んできた。
    「海馬、用意できたか!」
 
    凝った金の刺繍がほどこされた、オレと揃いの白の式服を身に纏い  
    いつもより高く跳ね上げた髪が揺れている。
 
    「ほう、上手く着こなせたようだな
     良く似合っている」
 
    妻になる相手を誉めておくのは礼儀なのだろうが
    そんなことは別にしても、細身の身体を浮き立たせるように仕立てた服は
    遊戯に良く似合っていた。
 
    「海馬、お前もだぜ・・・」
    じっとこちらを見詰めていた遊戯の顔があからんだ。
 
    「・・・男同士なんだし、別の部屋で着替えなくても良かったんじゃないのか」
    照れた顔を隠すように下を向く遊戯
    「それにオレの部屋、新婦控え室って書いてある
     ・・・言っておくが海馬、オレは新婦ではないぜ」
     今度はきっとした顔でオレの方を見据える。
 
    くるくると変わる遊戯の表情・・・
 
    「わかっている、新郎と新郎の式だ
     部屋の名前は形式上のこと、気にすることは無い
     それよりも自分の出番が来るまで部屋で待っていろ」
    「わかった、じゃあ後でな」
    
    入ってきた時と同じように、勢い良くドアが閉められた
 
    「・・・木馬、行って遊戯を見ていてくれ
     控え室には器がいるから大丈夫とは思うが、
     遊戯はまだ現世に戻って日も浅い
     それに・・・この海馬瀬人の妻となるべき人物が式前にあまり出歩いても困る
     部屋で大人しくしていろと言っておけ」
    「わかったよ、にい様」
 
    やはり木馬も、遊戯と同じように勢い良く部屋を出ていった。
 
    遊戯とオレは今日、式をあげる。
    日本の法律では、同姓婚はまだ見とめられていない。
    これはセレモニーニでなんの効力もないのだが・・・
 
    他の国で式を挙げるという手もあったのだが
    これを機に、オレたちのような者がこの先次々とでてくれば、国も動かざるをえないだろう
    そうなればオレと遊戯も法の上でも夫婦になる
    今回のことはその先駆けと言うわけだ
 
    「瀬人様、式場内部に記者が数名侵入したとの情報が」
    「・・・警備担当の落ち度だな」
    「申し訳ありません」
    「まあいいだろう、このハレの日に失業者を出すこともないだろう
     即刻侵入した記者とやらをたたき出せ
     どうせ、もぐりの4流記者だろう」
 
    大手の新聞、雑誌社などにはこの式が終わったら
    正式に会見の場を設けることになっている
 
    そこから漏れた輩が特だねを狙ってきたのだろうが・・・
 
 
 
 
    「もしかして、君が遊戯君?」
    「ああ、そうだが、お前は?」
 
    控え室の目前、オレの前にどこに隠れていたのか茶の色眼鏡の男が
    声を掛けて来た。
 
    「失礼、私はスポツキの茶山、新聞記者です
     いや〜君が遊戯君」
 
    気に障る視線をオレに投げかけてくる
 
    「・・・何か」
    「いや、ホントのところはどうなのかと思ってね
     君、あの海馬社長とホントに寝てるの」
    「・・・」
    「いや〜今度のこの式なんだけど、KCの宣伝活動の一環で
     海馬社長にはホントはあんたと結婚する意志なんてないんじゃないのかってのが
     大方の意見でさ、ほら、KCが重点を置いているアメリカじゃ、同姓婚のことで、
     いろいろ話題になっているじゃないの、で、その話題つくりの為にあんたと
     式を挙げるんじゃないかって
     まあ君はデュエルキングってことだから、式が終わってもすぐには
     お払い箱にはせず、いろいろ利用するんだろうけど・・・」
    「・・・海馬はそんな男ではない」
    「へ〜随分と社長さんのこと信用しているみたいだけど
     だって変だってあんたも思うだろう、この日本じゃ同姓婚は見とめられていないのに
     なんでわざわぜ今、式を挙げるんだ、法律が整備された後でもいいだろうに」
 
     オレに口を開く隙を与えず、次々と言葉を浴びせ掛ける男
     男の台詞が頭の中で何度も繰り返される。
 
            <なんでわざわざ今、式をあげるんだ>
            <なんでわざわざ今、式を・・・>
            <なんでわざわざ・・・>
 
 
    「おっ、いたいた、君が遊戯君だね」
    また一人別の男がやってきて、否応無くオレにフラッシュを浴びせる。
 
    「オイオイ、先に捕まえたのはこっちだぜ」
    「まあいいじゃないか、で、ホントに寝てるって?」
 
    じろじろと茶山と同じ容赦のない視線・・・
 
    「いや、さっきから黙りこくっちゃって返事無しなんだ
     もしかしたらホントに寝てるのかもな」
 
    オレにそそがれる視線が卑猥さをおびたものに変わっていった。
 
    「へ〜海馬社長も物好きだ
     彼なら、どんな女でもとり放題だろうに、なんで男なんだ
    「よっぽどいいのかもしれないぜ、こいつの身体・・・
     どうだい、君
     海馬社長にポイされたら俺んところにこないか
     それなりの金は払うぜ」
 
    何を言っているのだろうこの男達は・・・
    なんだか頭が思い、身体が沈む・・・
 
    「おい、なにやってるんだお前たち!!!」
    「もう一人のボク!」
 
    「ちっ、誰か来たぜ、つかまったら厄介だ逃げるぜ」
    「ああ」
 
    薄れゆく意識の中で遠ざかる足音と近づく足音
    そして木馬と相棒の声が聞こえたような気がした・・・
 
 
 
 
    「あっ、相棒」
    「大丈夫、もう一人のボク」
 
    優しい笑顔を向ける相棒の顔
    オレは自分の控え室に運ばれたらしい
 
    「ああ、すまない相棒・・・心配かけて・・・」
    「あの人たちは木馬君と警備の人が追っていったからすぐに
     捕まると思うけど・・・
     ホントに大丈夫?
     現世に戻ってきたばかりの君はまだ身体も心も不安定なんだから、注意しないと・・・
     本当なら、もうちょっと君が自分の身体に慣れてから式を挙げれば良かったのに
     海馬くんたら急ぐから・・・」
    「・・・やっぱり、そうなんだろうか、その必要も無いのに
     海馬が式を急ぐ理由・・・やっぱり宣伝・・・」
 
    なんだか海馬がわからなくなってきた
    急に両目から涙があふれ出てきて・・・
 
    気づいたときには止めようとする相棒の手を振り払って部屋を飛び出していた。
 
 
    「あっ、もう一人のボク!
     ちょっと待って・・・」
 
    
    海馬に本心を聞きたい
    もしそれがあの記者たちが言うとおりだとしたら、
    そのときオレは・・・
 
    駆け出した足が止まってしまった。
 
    もし本当にオレはただの宣伝材料で、海馬が飽きたら不必要な者として捨てられるとしたら
 
    また涙があふれて来る
    たまらずその場に座りこんでしまった
 
    ・・・海馬・・・
 
    オレはそれでも、それでも好きなんだ
    たとえ宣伝材料でも、それでも海馬の側にいることが出来ればそれで・・・
 
    そうだ、そのためにオレは現世に戻ってきたんじゃないか
    どんな形であれ海馬の側にいられたら
    それが
    「たとえ宣伝材料でも・・・」
    思わず口に出た言葉・・・
 
 
    「だれが宣伝材料だと?」
    「か、海馬!」
    「遊戯、探したぞ
     式前に花嫁に逃げられたかと
     オレとしたことが少々焦った」
    「・・・」
    「ヤツラの言葉を気にしているのか?」
    「?」
    「木馬がヤツラを締め上げて、吐かせた。
     記者に囲まれ青ざめている貴様の顔を見て、
     何か良からぬことを貴様に吹きこんだのだろうと思ったらしい。
     まさか遊戯、ヤツラの言葉を信じているのでは無いだろうな?」
    「・・・」
    「遊戯、確かに今回の式
     法律的にもなんの意味も無いし、
     貴様もまだ現世に慣れていないのだから
     もっと後でも良かったのかも知れない
     しかしオレたちが今やらないで誰がやる」
    「海馬・・・」
    「遊戯、オレは誰かが敷いたロードを後から歩くのはまっぴらだ
     確かに先陣を切ることはいろんな障害がつきもの
     今日のように好奇の視線を浴びることもあるだろうし
     出来た道を後から行くほうが確かに楽だ。
     しかしそれでは道を切り開いていく喜びは得られん
     誰よりも先を行き
     自らの手で道を切り開く
     オレはそういう人間だ、遊戯、貴様もそうなのではないのか
    「海馬・・・
     オレ、オレ・・・すまない、お前のこと疑って」
    「いや、俺も焦りすぎた
     もう少し貴様の身体を考えれば良かったのかもしれない」
    「海馬・・・」
 
 
    「あっ、いたいた、もう一人のボク
     話しの途中で飛び出ちゃうんだもの
     最後まで人の話は聞いてよ!
     あのね、海馬君は心配なんだよ
     心配で心配、また君がどこかに行ってしまうんじゃないかって
     だから君が自分の側にいつでも、そう朝から晩までず〜といっしょにいられるように
     式を挙げるんだよ。
     君はもうどこにも行かないってわかっているのに」
    「ふん、既成事実を作っておかないとわからんでは無いか
     いつ、あのわけの解からん神官どもが現われて、こいつを返せなどと
     ぬかすかもしれん!」
    「ふふふ・・・海馬くんってホントに心配性なんだから
     もう一人のボクも余計なこと考えすぎ!
     回りのことなんか気にしないの!
     こうして二人並んで一緒にいるんだし
     ねっ、もう一人のボクは海馬君の元へ嫁ぐ、それでいいじゃない」
 
 
 
    KCが脅威の一週間という工期で作り上げたその式場で
    海馬瀬人とアテム、海馬は未だに遊戯と呼び、武藤遊戯は未だにもう一人のボクと言っては
    いるが、その二人の式が無事挙げられた。
 
    そして式場の庭につながる大階段に二人が姿を現すと
    待ち構えていたように湧き上がる祝福の拍手
 
    「なっなんだ、この人達・・・」
    「海馬瀬人の妻を世間に知らしめるセレモニー
     全国、いや全世界から選ばれた者たちだ」
    「だから、妻じゃないって
     夫と夫だろ、オレたち
     でっ、いったいどのくらいの人数なんだ」
    「さあな」
    「さあなって、海馬
     レオンとデュエルしたあのドームより多くないか?」
    「良くわかったな」
    「お前、人数知ってるんじゃないか!」
    「当たり前だ、どんな些細な数字でも報告されたものは記憶に残す。
     遊戯、そんなことより早くブーケを投げろ
     皆待っているぞ」
    「なんでオレが投げなきゃいけないんだ
     海馬、おまえがやれよ」
    「こういうものは得て不得手というのがある
     貴様のほうが似つかわしい」
    「・・・」
    「遊戯、ブーケを投げるときはもっとにこやかに笑え」
    「・・・」
 
    遊戯の投げたブーケが弧を描き、集まった人々の中に飲み込まれていった。
    湧き上がる喝采
 
    「さあ、これで公然と人前でいろんなことができるぞ、遊戯!」
    「・・・海馬、まさか式を挙げるホントの理由って・・・」
 
    KC社長とその花嫁、残念ながらドレスではないが、二人の姿を一目見ようとあつまった
    群集の前で返答の代わりに海馬が返してきたのは
    熱い抱擁と、ここは寝室ではないぞとつっこみたくなるような
    絡みつくような口付けだった。
 

 


キリ番10,001hitGETで「結婚式」を書いてもらいました。
アニメで「遊戯王デュエルモンスターズ」が終わった頃に無理言ってしまいました。
(本当は、キリ番では無かったのですが御好意に甘えさせてもたいました)
ヘルムート様素敵なSS有難う御座いました。

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