HAPPY LOVERS


「う・・・」
俺は浅くなる眠りの淵で自分の身体が思うように動かないことに気が付いた。
なん・・だ・・。
金縛り・・これが世に言う金縛りというヤツか!?
いや・・まさか・・そんな非ィ現実的な・・・!!

「いば・・かいばっ・・かいばっ!!」
耳に慣れた心地の良い声に名を呼ばれゆっくりと重たい瞼を引き上げると間近に深紅の大きな瞳が飛び込んでくる。
「・・・っ」
「起きろよ海馬!もう6時だぜ?」
俺の胸倉を掴んで殺す勢いで揺すっている可愛い俺の愛妻。
早朝にもかかわらず、このテンション・・・。羨ましい限りだ。
そして、どういう訳か腹の上に遊戯。
丁度俺の臍の上に腰を下ろし紅い瞳をキリキリ吊り上げて見下ろしている。
フ、いい眺めだ・・・。と言いたいところだが、いくら身体の軽い遊戯と云えども力の抜けた身体に全体重をかけられると重たい。
しかもこの起こし方はいただけん。
「遊戯、再度、二人でベッドに戻らねばならんような起こし方はよせ」
俺は軽く息を吐き、後ろに手をついて上半身を起こす。すると丁度、膝の上に遊戯を抱く形になり視線があった。
遊戯は形の良い小さな唇を尖らせて
「お前が何回呼んでも起きないからだぜっ」
と不満を漏らす。
しかし奴の格好・・・いつもの黒いシャツに純白のレースのエプロン。
く、鼻血が出そうだ。裸ならなお良かったが・・・。今晩させるか。
「とにかく!そういう姿勢は夜だけ可だ。起きぬけは禁止だ!仕事に行かねばならんからな」
するとやっと意味を理解したのか遊戯の顔色が途端に朱に変わる。
「なっ・・オレは別にっ」
慌てて膝から下りようとする遊戯の腕をとり、軽く唇を合わせる。
「んっ」
「シャワーを浴びてくる」
遊戯をベッドの上に下ろし俺はバスルームに向うべく床に足をつけ歩き出す。
・・・おのれ、朝でなければ押し倒したものを・・。いや、朝だからと言って遠慮する俺ではない。
しかし、この2,3週間、遊戯との結婚式の日取りやら披露宴の準備やら新婚旅行やらで社長業は開店休業状態だった。公な派手な場を嫌う遊戯をなんとか宥めすかし(これが一番骨が折れた)一世一代の結婚式を行ったのが9日前。(ちなみに総費用3億だ。デスTに比べると安いものよ)そけからすぐにヨーロッパにハネムーンに出かけ、帰ってきたのは昨日の深夜だった。
木馬と磯野に会社を任せていたとはいえ社長不在の約10日。
とにかく俺の性格上、人に任すなど言語道断もってのほかだ。
会社の事が気になって仕方がなかったのだ。
ざっとシャワーを浴び、ダイニングに顔を見せるとすでに机の上には炊きたての白米と鮭の塩焼き、玉子焼きそして番茶が用意されていた。
遊戯は鼻歌混じりにキッチンに立ちながら俺が傍に来たのを確認する味噌汁を注ぎ始めた。
「めし、できてるぜ?」
ご機嫌な遊戯の声に一つ頷いて新聞片手に椅子に座った。
(くく、できた嫁だ)
結婚が決まってからと云うもの、遊戯も相当努力したようだ。
米の研ぎ方一つ知らなかった奴が俺のことを思い、俺の為だけに飯を作るかと思うとそれだけで勃ちそうになる。
まあ・・これでもう少し旨ければ言うことはないが、これは徐所に上達するだろう。
毎朝、コーヒーだけだった俺が規則正しく朝食をとる。
磯野あたりが泣いて喜びそうだ。

「むっ・・・なかなか出来ないぜ」
時計は7時30分を指している。8時には磯野が迎えにやってくる。
遊戯はたどたどしい指使いでネクタイを結ぼうとするが、どういうわけか上手く結べないようだ。
そのままデュエルでも始まりそうな真剣な眼差し。しかし、一向に首に締まる気配すらない。
「不器用な奴め」
「なんだとっ!」
キッと深紅の瞳に射抜かれるように睨み上げられる。
・・・心地良い・・・。
そのキツイ眼差しを受け止めながら俺は遊戯の細い指に自らの指を絡めネクタイを締める。
我ながら鮮やかに結び目をつくるのを遊戯は不思議そうに見つめ一つ溜息をついた。
「すごいぜ、かいば」
その感心しきった表情に呆れつつも可愛いと思っている自分が怖い。
「そろそろネクタイの締め方くらい覚えんか、貴様は」
「難しいんだぜ?ややこしくてさ」
拗ねたに笑う遊戯からスーツの上着を受け取り袖を通した。
一つ、遊戯の頬に唇を落とし磯野の待つエントランスへ向うべく玄関に足を進めた。
その間に唯の海馬瀬人から海馬コーポレーション代表取締役社長海馬瀬人の顔へと変えていく。
玄関先、靴を履いて遊戯を振り返り一言、
「行ってくる」
とだけ声をかけた。すると遊戯は何を思ったのか素足のままで下りてきて俺の肩に両手を置き背伸びをすると口付けてくる。
「・・・!」
一瞬、触れるだけのキス。「行ってらっしゃいだぜ、あなた」
天使のような笑顔に、そしてウィンク一つ。
「ちょっ海馬っ!?・・・んんっ!」
気がつけば遊戯の細い肩を、背中をかき抱くように抱きしめ唇を塞いでいた。
まるでコトの前戯のような濃厚なキス。
腕の中の遊戯は始めこそ抵抗していたが俺の舌が遊戯の上唇をなぞった瞬間、大人しくなった。
互いに舌を絡め歯茎をくすぐり、喉の奥を舌で犯す。
やがて、ゆっくり唇を離すと唾液の糸が零れ遊戯の顎に伝った。
「あっ、はぁ・・はぁ・・」
遊戯は呼吸も荒く頬を朱色に染めぐったりと俺の胸にもたれ掛かっている。一種の酸欠を起こしていた。
このまま、ここで抱いてしまいたかったが、如何せん時間がない。
今日は8時30分から重役会議が待っている。
「続きは夜だ。戸締りをきちんとしておけ遊戯」
熱を持つ身体を断腸の思いで引き離し家を出る。

大股でマンションのエントランスに下りると磯野が心配そうに待っていたが俺の顔を認めた瞬間、歩み寄ってきた。
「瀬人さま。おはようございます」
「ああ」
いつもの指定席に身体を滑り込ませアタッシュケースから今日使用する書類を取り出し目を通す。
身体は昂ぶっていたが気力と精神力で黙らせた。
「磯野」
「はっ」
「今日、俺の午後のスケジュールはどうなっている」
「は・・12時より佐々木さまとの会食の後は新型の体感型デュエルディスクのテスト。17時より企業用広告の最終チェックが入っております」
「そうか・・・」
俺は今日も遊戯の手料理を食べるべくスケジュールの調整をこの華麗なる頭脳で始めることにした。


キリ番500hitGETで「新婚生活」を書いてもらいました。
闇遊、海馬の為に花嫁修業したんですね・・・涙ぐましいかぎりです。
それを召し上がる海馬が羨ましいかぎりです。
大砂様素敵なSS有難う御座いました。

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