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冥界での午前の公務を終えアテムは、バルコニーに出て祖国と全く同じナイルの流れを見て居た。
冥界での生活は生前の生活をそのまま送るから当然政務だって存在する 「ファラオ・アテムいかがされました?」
物思いに耽っている感じのアテムにセトが声を掛けると
「現世では今日は何日なんだ?」
「ファラオ・アテムが居られた所では確か6月4日だったと思いますが」
セトの答えにアテムは
まさか冥界で現世の暦が判るヤツが居様とは・・・
と言うかセトらしい
きっと現世の暦もこっちで勉強したのだろう
苦笑するしかなかった。
「ファラオ・アテム・・・」
ナイルを見つめるアテム・・・
否 本当にナイルを見つめているのだろうか?
まるで『心ここに在らず』の様に感じられる
今日は相棒の誕生日だったな・・・
去年は3日の午後から4日の午前中まで相棒が城之内君とのデートを楽しみ
4日の午後から5日の午前中は遊戯が海馬とのデートを楽しんだ
自分が何時生まれたのか全く知らないのに海馬が
「貴様は、武藤と二心同体なら貴様の誕生日は武藤と同じ日なんだろう」
って勝手に決め相棒がそれに納得していた。
当事者である遊戯を無視して・・・
だが遊戯にとって嬉しかったのだ
たとえそれが自分の本当の誕生日で無いにしろ自分という存在が認められた様な気がしたから
そう言えばオレが冥界に還ってから相棒達は如何しているんだろう?
海馬は相変わらず忙しい毎日を送っているのだろうか?
紅い瞳を細めながら物思いに耽るアテム
そんなアテムをセトは
「ファラオ・アテム 貴方に届けて貰いたい物が在るのですが頼んで宜しいでしょうか?」
「オレに?」
「はい 貴方にです。」
何時もなら従者に託けをするのに何故?
セトは遊戯に紐の巻かれた筒状のパピルスを手渡す
「これを届けて頂きたい所があるのです」
パピルスを受け取るが
「オレじゃなく従者にでも頼めば・・・」
「いいえ 貴方でなければならないんですよ」
そう言うと遊戯を横抱きに抱き抱え歩き出す
あまりにも突然の事で慌てふためく遊戯
「セ・・・セト!!何処に行くつもりだ!!」
バルコニーから通じる階段を降り細い通路を通るとそのまま川岸に立つ
「セッ・・・セト・・・これは何の冗談だ・・・」
背筋を伝う否な感じ・・・
まさか・・・と言う気持ちは在るが確認せざるえない
「冗談?私が今迄貴方に冗談など言った事が有りましたか?私は冗談なんて行動にも出した事ありませんよ本気で貴方をナイルに落とさせていただきます」
優しい笑顔で優しい口調で離される手
ドボン!!!!!!!
大量の息を吸い込む事さえ許されず遊戯は川へ
落とされ沈み行く状態のまま水面に揺れるセトを見つめる
何故・・・?
それでもセトから託されたパピルスを手放す事なく薄れ行く意識
このまま死んでしまうのでは無いのだろうか・・・と言う不安を抱きつつ
ただここで忘れては困るのは遊戯は既に冥界の人
これ以上死ぬ事は無いと思う
「アテム・・・貴方は死者で暗闇に居るより生者として光の中に居る方が相応しい・・・」
私のだけのファラオ・アテム・・・
――上空数千メートル――
カタカタ・・・カタ・・・
「コーヒーは如何でしょうか?」
キャビンアテンダントが恐る恐る訪ねてくる
近づく者総てに畏怖の念を抱かせるかの様なオーラを身に纏い者は、何かしらノートパソコンに入力をしている
「要らん」
短い単語だけ言う
キャビンアテンダントは、軽く会釈をするとその場を立ち去った。
きっと彼女の心臓は恐怖に高鳴っているだろう
男はノートパソコンに入力を終えると閉じ隣の座席に置き軽く溜息を吐く
窓の外は夜・・・目下には雲・・・
そう言えば今日は遊戯の誕生日だったな
誕生日を知らないと言うヤツに誕生日を勝手に決め祝ってやったな
その事を昨日の様に思い出す。
そして今頃は誰かに祝って・・・と思うと不愉快にならざる得ない
遊戯が自分以外の誰かに祝って貰いそれに対して笑みを浮かべ礼を言っていると思うと・・・
どす黒い感情・・・嫉妬心・・・
遊戯 貴様に逢いたい
そうすれば貴様に逢える?
軽く目を閉じ思い出すのは、遊戯の気の強い紅い瞳
勝気な発言
小さな身体なのに大きな存在感
遊戯の事を今も手に取る様に思い出す
・・・が・・・
??????????
膝の上が濡れている・・・????
しかも重い・・・・????
上半身に何か凭れかかる感触
しかも濡れている
目を開けようか開けまいか・・・
悩んだ結果 ゆっくりとだが目を開けると
!!!!!!
まさか!これは夢だ!!ありえん!!!
目の前(膝の上)の現実
しかし頬を触れれば温かく現実だと伝えてくる
だが何故 全身びしょ濡れなのだ?
大事そうに抱き締められたパピルスに目が留まる
取り上げようにもしっかり握られているので取り上げられない
男の様子がおかしい事に気が付いた側近が
「瀬人様いかがされました・・・・!!」
瀬人と呼ばれた男の膝の上には少年の姿が
「遊戯様・・・」
瀬人は自分の口に人差し指を当て『静かに』と合図を送る
側近は軽く頷くと何を思い付いたのかその場から離れキャビンアテンダントと何か話しをしだした。
暫くして戻ってくると手には一枚の毛布が・・・
側近はそれを広げると遊戯を瀬人包み込む様に掛けて小声で
「瀬人様よっかたですね」
とだけ告げ嬉しそうにその場から離れた。
瀬人は、傍に置かれたノートパソコンに目をやると
今やっている研究が無駄になったかもしれんな
だが貴様がもし冥界に還る様な事になればこの研究が役に立つかもしれん
出来る事なら貴様を手放したく無い
このまま俺と共に生きて欲しい
温かい感触・・・
心地良い・・・
浮上する意識
ボヤケてハッキリとしないけど見慣れない風景
ボヤケて見える人の顔・・・
「・・・セト・・・」
微かに動く口から零れた言葉
「き〜さ〜ま!!よもや俺に抱き締められておきながら他の男の名前を呼ぶなど
どう言うつもりだ!!」
聞き慣れた声
嗅ぎ慣れた匂い
自分を抱き締める腕の強さ
「かっ・・・海馬・・・なのか・・・?
本当に海馬なのか!!」
遊戯は飛び起きる様な慌しさで小さな両手で海馬の両頬を挟む
ムッ!!とした表情の顔
海馬の顔を見た遊戯の瞳からは大粒の涙が
まさか遊戯の泣き顔を見るとは思わなかった海馬はどうしたものかと焦りだす。
「ゆっ遊戯泣くな・・・貴様に泣かれては、どうしていいのか判らないではないか・・・」
海馬は優しく遊戯を抱き締めながらぎこちないまでも遊戯をあやし始める
暫くして泣きやんだ遊戯・・・
「貴様が俺の膝の上に居た時は正直驚いた。
夢かもしれないと思ったぞ・・・」
「オレだって・・・セトにナイルへ落とされた時 死ぬんじゃ無いかって思った」
「貴様は死んだ身なんだろう?だったらもう死ぬ事は無いと思うが」
海馬のツッコミに遊戯はグの音も出ない
確かに死んだ身なんだからもう一度しぬ事なんて無いだろうがしかしナイルに落とされた時の息苦しさと言ったら言葉に言い表せない
「貴様が後生大事に握っているそれは何だ?」
先程から気になったパピルス
「これか?これはセトがオレに届けて欲しいものだと言ってた」
「誰に?」
セトがこの現世に知り合いなんている筈が無い
遊戯は『まさか』と言う思い出
紐を解きパピルスを広げると
《ファラオ・アテム
私から貴方への誕生日の贈り物です。》
まんまとして遣られた事に気付き赤面する遊戯
ヒエログリフが読める海馬はニヤリ・・・
流石は、もう一人の俺・・・
これで遊戯を手放す心配は無い
海馬は、ノートパソコンの傍にあったカバンから器用に片手で小さな箱を取り出す
何時か遊戯が還って来たら渡すつもりだったモノ
(無理矢理冥界に行って遊戯を連れ戻す事も前程に置いて)
「遊戯 貴様がこの現世に戻って来たときに渡すつもりだった俺から貴様へのプレゼントだ」
遊戯に手渡された小さな箱
「開けても良いのか?」
「かまわん」
小さな箱を開けるとそこにはサファイアの付いた小さなプラチナの指輪が収められていた
もう一人の遊戯と二心同体だった頃TVで男が女に指輪を贈る
シーンがあり気になって訪ねた所 返って来た答えが「好きって言う意味もあるんだけどこの場合は将来を約束する為に贈られたんだよ」と言ってた事を思い出す。
もしかしてこの指輪は・・・
顔が熱くなる
自分の顔が赤くなっているのだろう
「遊戯 その反応だと意味を理解している様だな
俺と未来と共に歩むのだ拒否なんてさせぬからな!」
「オレなんかでいいのか?」
「?」
「オレは現世の事には疎いんだぜ・・・それでもイイのか?」
「そんな事 気にするな
それより返事は?」
「拒否なんてさせないんだろ?だったら答えは一つだぜ
お前の歩む未来 オレも一緒に歩むぜ」
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何とかして書いたけど・・・
結局 海馬へのプレゼントになってしまったような・・・(汗)