Thought
中庭から少し離れた所にある小さな建物
その中央には水鏡が設置されており神力が有る者が使えば望むモノを映し出す力があった。
「セト何を御覧になっているのです?」
青い法衣を身に纏った長身の男の背後から白い法衣を身に纏った女が声をかけて来た。
彼女の名はアイシス・・・
セトと同じ神官団の一人であり未来を見通す千年タウクの所有者
「貴女には関係無い事です。」
「大方 現世に戻られたファラオ・アテム様の御姿を見て居られたのでしょう?
そんなにファラオ・アテム様の事が気になるのでしたらこの冥界に留まってもらえば宜しかったのに」
女は、凛とした態度でセトに話しかけると
「貴女には関係無いと言った筈 それに私ではダメなのだ・・・私では・・・」
私では、あの方を留めておく事が出来ない
私では・・・
「どうして貴方では、ダメなのでしょうか?」
「私の傍に居たとてあの方は幸せにはなれない・・・」
「三千年前の事を気にかけているのですか?」
「・・・」
図星だったのだろうセトは、グッと息を飲み込んだ
「ファラオ・アテム様は、貴方を信じ国を託された筈ですよ」
「だがアテムを失ったのは、私が闇に心を奪われた所為
神官で有りながら闇の誘惑に勝てなかった・・・不徳故に」
三千年前セトは闇に心奪われ最愛の人・・・
アテムにディアハを挑んだのだ
「セト 自分を責めるモノでは有りませんよ 人は誰しも心に光と闇を併せ持つもの
しかりそれは神官とて同じ事 神の子と言われし王とてそれは同じなのです
貴方は一度闇に心を奪われながらも自身の力で心に光を点された・・・」
心に光を点してくれたのはキサラ・・・
彼女の自愛に満ちた心が自分の心に巣くっていた闇を打ち滅ぼしたのだ
「私の力では無い・・・」
「貴方の力ですよ それが例え他者の力であったとしてもその者にそこまで慕われた貴方の力なのです」
「・・・アイシスよ 今アテムは幸せなのだろうか?」
「水鏡を拝見する限りは幸せなのだと想います」
水鏡を覗くとそこには現世で遊戯と名乗り友と戯れるアテムの姿が
「私は臆病者だ・・・アイシス 貴女の言うとおり私はアテムにこの冥界に留まってもらいたかった
私の傍に居て貰いたかった。
でも私の傍に居ては、アテムは幸せになれない・・・もしかしたら私は、また同じ過ちを犯してしまうかもしれない
それが怖かった・・・」
セトの懺悔なのだろう誰かに聞いてもらいたかった
心に留めて置くには、辛かった本音・・・
「セト 過ちに怯えていては先に進めないのでは無いでしょうか?
過ちを犯しそうになればそれを止めてくれる誰かが傍に居る方がいいのでは?
海馬瀬人・・・彼の者の魂が現世で役目を終え冥界に戻って来た時 貴方の一部になるのですよ
そしてその魂と一緒に貴方はファラオ・アテム様と来世に旅立つ」
アイシスが水鏡に指を浸すと海馬瀬人の姿が映し出された
「彼の者も又現世において多大なる過ちを犯した
でも彼は、それに怯えず前を見据え進んでいる
彼がもし同じ過ちを犯す時それを止める事が出来る仲間が居る・・・兄弟が居る・・・
セト 貴方は海馬瀬人を見習う必要があるのでは?」
アイシスは自愛に満ちた瞳でセトを見やる
セトの生い立ちからすれば彼が誰かを頼る事なんて思いつきもしないだろう
そしてそれ故に心から相談出来る相手が居なかった
自分の弱い所なんて見せたくなかったのだろう
最愛のアテムにでさえ・・・
寧ろアテムの前だからこそ自分の弱い所を見せられない見せたくないだろう
それが心に闇を受け入れる隙を作ってしまった
「アイシス アテムは来世でこんな私と共に歩んでくれるだろうか?」
「貴方がファラオ・アテムを信じている限りは・・・」
否 自分を信じていなくてもアテムはセトと来世を共に歩んでくれるだろう
「この水鏡に映し出されている者共々来世で逢えるだろうか?」
「それは神のみが知る領域・・・」
「そうだな・・・
海馬瀬人が冥界に戻って来る間の僅かな時間に私は私を変えなければならない
彼に恥じない様に・・・来世でアテムと共に過ごす為に・・・」
アテム 私は、もしかしたら同じ過ちを犯すかもしれない
それでも私の傍に居て欲しい
貴方には重荷かもしれないが私が道を誤った時修正をして欲しい
・・・私には貴方が必要だから・・・