秘宝
温かい腕に抱きしめられる
安心出来る場所
躰の奥に感じる熱に眩暈が起きそうだ
互いに汗ばむ肌を重ねる
隻眼の潤んだ瞳に映ったのは自分の上に居る男の肩・・・
ティマイオスは息を弾ませながら肩に触れる
「クリティ・・・」
「ああ・・・鱗が生え替わる時期だからな・・・」
ドラゴンは個体差によるが数年に1度鱗が生え替わる時期があるティマイオスも
2年程前に鱗が生え替わった
ティマイオスがクリティウスの肩に触れた時鱗が数枚剥がれた
その内2枚程ティマイオスは握りしめる
そんな事に気付いていないクリティウスは意識が反れたティマイオスを今一度自分に
向けさせるために律動を開始する
急な動きに驚き流されるティマイオス
何時の間に眠ったのか意識がゆっくりとだが浮上してくる
微かに聞こえるシャワーの音
ティマイオスは、手に残る違和感に首を傾げながら
開くと綺麗な紺色の鱗が2枚握られていた
ああ・・・そう言えば
行為の最中に無意識のまま掴んだ事を思いだす
そしてクスリっと笑うと嬉しい気持ちになる
何も知らずシャワールームから出てくるクリティウスは濡れた髪をタオルで拭きながら
ベッドの端に腰を降ろし笑みを浮かべているティマイオスの
「何か良い事でも思いついた様な顔をしているな」
鼻を軽く摘まみながら言うと
ティマイオスは少し首を振って
「ああ オレにとって楽しい事を思いついた」
「それは、何だ?」
「教えてやらな〜い」
「気になるだろ」
ティマイオスに圧し掛かるクリティウス
「うわ〜タンマ!!お前 冷たい!!髪の雫が〜先に髪を乾かせよ!!」
クリティウスの顔を押しやるティマイオス
だがその表情は嫌がる所か楽しそう
「だったら教えてくれ」
俺はお前の事が全て知りたいのだ
「それは内緒・・・だってまだ決まってないから」
「?」
「これから決めるんだぜ」
悪戯っ子の様な表情・・・
表情をコロコロ変えるティマイオスにその都度ドキドキさせられる
午後になってクリティウスは、王立図書館に借りていた本を返却しに行く
きっとその行きか帰りに女の子に捕まって渋々と雑談に応じるのだろう
彼の性格を知っているからティマイオスも出かける
「ヘルモス!!」
元気に腕を振って相手の方に駆け寄る
「急に呼び出したりしてすまない」
「なぁ〜にイイって事よ で・・・俺に用って何だ?」
ティマイオスは腰に吊るしてある皮製の小袋から紺色の鱗を取りだしヘルモスに見せる
「これってクリティウスの鱗じゃないか?」
流石長年一緒に居るだけの事あって仲間の鱗を見分けられるとは・・・
「これで何か作ってくれないか?」
ヘルモスは手先が器用なので今迄も彫金とかして貰った事もある
「何か・・・ってアイツの鱗は硬いからな・・・ん???」
おもむろにティマイオスの耳に当ててみると
「これでピアスなんてのも良いんじゃないか?」
「ピアス・・・でもクリティウスの事だから・・・」
怒る事うけあいだ
「でもピアスなら肌身離さず着けて居られるんだぜ?」
言われてみればそうだ
ネックレスはチェーンを切られれば意味が無い
ピアスなら耳を切り落とされるか本当に落としてしまうかしない限り離す必要も無い
「解ったぜ じゃピアスに加工してくれ」
「任せとけって」
自分の胸を叩いて兄貴気取りのヘルモスにティマイオスはクスクスと笑みを浮かべる
まぁ・・・ヘルモスにとって幼い頃から知っているティマイオスは弟の様な存在
そんなティマイオスがクリティウスに好意を寄せていると知った時は驚きもしたが彼が
幸せになるのなら・・・といろいろと協力をしてくれている良き理解者なのだ
寄宿舎に戻ったティマイオス
私室に入ると早速薬局で購入してきた薬品を並べる
蝋燭に火を灯し針を焼き消毒薬に浸す
鏡を前に座り意を決して耳に穴を開け様とした時
カチャ・・・
「ティマ 居るのか?」
ビック!!!!!
ノックも無くクリティウスが入って来る
そんなクリティウスの急な入室に驚くティマイオス
「ノックぐらいしろよ! それにしても帰ってくるの早かったな?」
何時もならもう少し遅い筈なのに
「あっ・・・いや・・・」
まさか街中で会った非番だった王宮の侍女からティマイオスが薬局で薬を購入したなんて
聞いたとは言い難い
それによってティマイオスが自分と別れた後体調を崩したのか?
それとも怪我をしたのかと不安に駆られたとも言えない
しかし机の上に並べられた薬品と火の灯った蝋燭を見て
「何をしていたんだ?」
聞かずには居れない
「ん・・・ああ・・・これか?ピアスを着け様と思って」
なっ何!!!ティマの綺麗な躰に傷が!!
「ティマ この綺麗な躰に傷を着け様と言うのか?」
「傷なら戦の時にも着いているぜ」
だから綺麗じゃない
「戦では互いに傷つき合う だが・・・」
「オレは決めたんだ」
自分以外の者がこの綺麗な躰に傷を着けるなんて許せない
例えそれが戦であっても・・・
なのに今この躰は小さな針によって傷つけられ様としている
「だったらクリティウスが開けてくれるのか?」
差し出される針
戸惑う
「今朝オレが『オレにとって楽しい事を思いついた』って言っただろ?
それをする為に穴を開けるんだぜ」
クリティウスの鱗で出来たピアスは明日ヘルモスが持って来てくれる
それまでは、代わりのピアスを着ける事になるのだが・・・
「その答えを俺にも教えてくれるのか?」
「明日になればな これはその為の準備だぜ」
「明日・・・だったら開けるのも明日で良かろう?」
「い・や・だ!今開けないと意味が無いんだぜ」
ティマイオスは一度決めた事はなかなか変えない
それに機嫌を損ねると後が厄介だ
「解った・・・少し我慢しろ」
「解ったぜ」
そう言うと耳朶にチクッと痛みが走る
「誰が耳朶を齧ろと言った?」
「感覚を麻痺させただけだ」
「耳の中舐めるのは関係無いと思うが」
「気が付いていたのか? ティマの柔らかくて美味しそうな耳を前に味見したく
なったのだ」
「オレの耳は食い物じゃないぜ」
そんな事は夜だけにしてもらいたいもんだ
だがそんな事を口に出して言えば何をされるのか解らないので心の中で呟いていた
暫くしてクリティウスがティマイオスの耳朶に触れると
「何か感じるか?」
「微かに触れられている感触がする」
「じゃ 針を刺すぞ」
「ああ やってくれ」
その言葉を合図に刺し込まれる針
ティマイオスの耳朶から血が小さな球の様になってくる
その血に魅入られ誘われるかの様に舌先で舐める
「何してるんだ?」
「止血ついでにお前の血を舐めていた」
「そんなモノ舐めるな!!」
机の上に置かれているピアス
何の飾りも無い金のピアス
これが自分の躰の一部から造り出されたモノならどんなに嬉しい事だろ
クリティウスはティマイオスの耳朶に開けられた小さな穴にピアスを通しながら複雑な
心境を胸に抱いていた
「もう片方も開けるのか?」
「当然だろ?」
その言葉によってもう片方の耳朶も穴を開けられる
両耳朶にピアスを着けた後クリティウスは脱脂綿に消毒薬をつけてティマイオスの
耳朶を消毒する
「2〜3日は消毒する事だ アレルギー反応が出たらピアスを諦めるんだ」
「アレルギーが出ても人間界の合成樹脂ってので作られた・・・」
「ダメだ!」
人間と我々ドラゴンでは体質の問題がある
人間に適したモノでもドラゴンに適さない場合がる
またその逆だってあるのだ
「でも・・・明日が楽しみだぜ」
明日になればティマイオスがピアスをした理由が解る
まさかティマイオスが自分の鱗でピアスを作ってもらっているとも知らないクリティウス
翌日昼過ぎティマイオスが自分の私室で浮かれている最中クリティウスは昨日からの
複雑な心境のまま浮かれているティマイオスを見つめていた
コンコン
「ティマ 昨日約束してたヤツ持ってきたぜ・・・ってクリティウス居たのか?」
「居て悪いか?」
「別に悪くないぜ ほらティマ」
ティマイオスに差し出された小さな箱
まさかヘルモスがティマにプレゼントだと?
ティマに好意を持っての事か?
嬉しそうに小箱に手を出すティマイオス
「開けてもいいか?」
「当然だろ」
期待に胸一杯の表情で箱の蓋を開ける
そこには、紺色の小さなピアスと同色の石がはめ込まれたチョーカが入っていた
「オレ チョーカなんて頼んでないぜ」
「ああ それは余った材料で作ったんだ クリティウスの目の前でそのピアスを着けてみろよ
こっちのチョーカはオレが着けてやる」
ティマイオスは嬉しそうに卓上鏡を取りに行く
「まさかお前がティマに好意を抱いているとは思わなかったが」
不機嫌そうな顔のクリティウス
「ティマはオレにとって弟の様な存在だ お前の様に恋愛感情なんて小指の先程も持って
無いから安心しろ」
「だったら何故・・・」
「その石 よく見てみろ」
「ヘルモス鏡持って来たぜ」
クリティウスがピアスに触れる前にティマイオスに横取りされる
早速昨日着けたピアスを外し紺色のピアスを装着する
その間にもヘルモスがティマイオスの首にチョーカを着けてやる
その光景を忌々しい気持ちで見ていたクリティウスだったがその石に見覚えがある事に
気付くと照れ臭い気持ちに替わって行くのが自分でも解る
何故ならその石と思われていたのは自分の鱗だから
そんなクリティウスの変化に気が付いたヘルモス
「昨日ティマに頼まれたんだ 2年前のお前の様にな」
「なっ!!!!」
2年前ティマイオスの鱗が生え替わる時今回のティマイオス同様クリティウスもティマイオスの
鱗をヘルモスに加工してもらっていたのだ
しかも今回のティマイオスと同様ピアスとして
だが今のクリティウスの耳朶にはピアスは刺さっていない・・・と幻覚で見せかけてしっかりその
耳朶にはティマイオスのエメラルドグリーンの鱗で作られたピアスがはまっている
「へ〜クリティウスもヘルモスに何か作ってもらったのか?今度オレにも見せてくれよな」
大したモノでは無いと言いたいが自分にとって大したモノなので
「ああ・・・今度な・・・」
濁す様な言い方しか出来ないでいた
そんな2人をヘルモスは楽しそうに見ていたが
「オレ ちょっと人と約束してるから行ってくるわ」
邪魔をする気なんて無いのでそそくさと退散する事にした
「まさか俺の鱗で・・・何時・・・」
「この前の夜」
まさかあの時に?
先日の夜 目の前のティマイオスに心奪われ気が付かなかった
「2枚程頂戴したぜ」
それで作られたピアスとチョーカ
何ともくすぐったい感じがする
「しかし何故チョーカなんだ?」
「首筋を隠す為だと思うけどな お前が着けた痕を時折ヘルモスが消してくれてたから」
あれ程首筋に痕を着けるなと言っても着けてくるクリティウス
行為の最中故にティマイオスも気付かない場合もあり
翌日痕を見つけたヘルモスが消してくれていたのだ
ティマイオスにしてみれば気の利く兄貴分なのだ
「それよりお前がヘルモスに作って貰った物 オレにも見せてくれよ」
近付くティマイオスの顔
思わず小さな口に軽く啄む
クリティウスは、そのままティマイオスの手を掴み自分の耳朶に触れさせる
「!!」
「幻覚で隠しているが俺のもピアスだ」
触れるか触れないかの距離で囁かれる
くすぐったい気分だ
「オレ達の思考は近いって事か?」
「一緒に居るから似てきたのだろう」
何度も啄む様なキスを繰り返す
「俺の躰の一部がお前の躰の一部になるなんて不思議な気がする」
「ああ・・・オレも」
「ティマ 俺の躰の一部を身に着けるだけではなく受け入れてくれないか?」
その言葉の意味に気付き頬を少し染めながら
「お前の熱を全部くれるのなら構わないぜ」
「ああ・・・」
クリティウスはティマイオスを横に抱き上げるとそのまま隣の寝室へ・・・
まさか自分が抱いていた不安感の原因を作っていたのは自分の躰の一部から
作られたモノとは・・・
危うくそれに嫉妬する所だったな・・・
内心苦笑するクリティウスだった
ただイチャついてるだけの2人・・・
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