チョコっと期待
「ねぇ 海馬君にチョコあげないの?」
スーパーの特設コーナー
女の人が所狭しと陳列されているチョコを品定め
気に入ったのがあればカゴの中に入れ御会計
ラッピングされたチョコを買った人は、そのまま立ち去り
それ以外の人は、番号札を貰い店員さんにラッピングをしてもらう
その女性群の中に杏子の姿も有る
<遊戯>達は杏子に頼まれて着いて来たのだ
まぁ正確に言えば
「遊戯の事だから何か切欠が無いと海馬君へのチョコを買わないと
思うのよ だから私がチョコを買いに行くお共として・・・」
と言う杏子の案に<遊戯>も肯いた
確かにもう一人の僕の性格からして言えば買わないだろうなぁ〜
<遊戯>としてみれば出来るだけ来たく無い場所の一つだけど遊戯の
為だと思えば・・・
「海馬のヤツ 甘いの嫌いだぜ・・・」
それにきっと沢山のチョコを貰うんだろうし・・・オレなんかのチョコなんて・・・
きっと要らないと思う・・・
そう思うと何だな胸元ギュ〜と締め付けられ寂しい感じに・・・
「海馬君きっと大喜びするかもしれないのに」
「オレなんかのチョコを海馬が喜ぶのか?」
「チョコって好きな人から貰えてこそ価値があるんだよ?」
「そ・・・そうなのか?」
オレからのチョコを貰って海馬は、喜んでくれるのか・・・
海馬の喜んでくれる姿 見てみたいぜ
そう思うとさっきまで寂しかった気持ちが嬉しい気持ちにスリ変る
女の子に混じっていろいろとチョコを物色する遊戯
元々遊戯は中性的な要素を持っていたけど女の子に混じって
チョコ探ししている姿に全く持って違和感が無い
杏子にいろいろと訊ね
どうやらどんなチョコにするのか決まったらしくカゴを持って御会計に・・・
暫くして戻って来た表情は、嬉しそうでいて恥かしそうでいて
何だか魅力的だと思った
「兄さま 何だか嬉しそうだね?」
兄の嬉しそうな顔
他の者から見れば何時もと何等変りの無い社長様
「ああ・・・嬉しいと言えば嬉しいのかもしれないな」
海馬の机の引き出しに隠されているモノ・・・
海馬は、遊戯が来るのが待ち遠しい
カレンダーを見れば未だ今日は13日
早く明日になればいいのに・・・
翌14日・・・
授業を終え帰り支度をしている遊戯の元に<遊戯>が来て
「今日は、泊まって来るといいよ」
「あ・・・相棒・・・」
朱に染まる遊戯の顔
「だって君が『帰りたい』って言っても海馬君の事だから帰さないと
思うよ」
確かに海馬の性格なら・・・有りえるかもしれない・・・
「さっきモクバ君にメールしたら 海馬君は会社の方に居るって」
根回しがいいぜ相棒・・・
「きっと海馬君喜んでくれるよ」
「ああ・・・」
大事に抱き抱えられるカバン
その時の遊戯の顔がまるで恋する乙女の様に見えた
なんて言ったら君は怒るかな?
海馬Co.
何時もと少し違う海馬の雰囲気に何かしら噂が流れ出す
しかし海馬が機嫌がイイのは社員にしてみれば嬉しい事
出来る事ならこのまま機嫌がイイ状態で一日過ごして貰いたい
受付けに現れた遊戯に受付け嬢は会釈をする
「社長でしたら社長室に居られます
今の所 予定は入ってませんからそのまま社長室に入られても
問題は有りませんよ」
受付け嬢の所には事前に秘書の方から
「遊戯様が御見栄になったらそのまま御通しするように」と指示が
出ていたのだ
そして更に決して遊戯にチョコは渡してはならないと御達しまで・・・
もし遊戯が他人から貰ったチョコを持っていようなら海馬の機嫌は
たちまち急降下しかねないからだ
遊戯は、言われるがまま社長室に行くための専用エレベーターに
乗る
最上階に有る社長室
ドキドキする胸元に手を宛てながら
大丈夫・・・何時もと同じ様にすればいいんだ・・・
と自分に言い聞かせながらドアをノックする
それは、室内に居る海馬とて同じ心境・・・
開かれる扉に・・・その先に居る存在にドキドキしてしまう
「あっ・・・海馬・・・」
室内には所狭しと置かれた段ボール箱の山々・・・
足を踏み入れた先に見たものは・・・閑散とした・・・えっ???閑散?
室内には、予想に反して全く置かれていないチョコの山・・・
思わず室内を見渡してしまう
しかしどれだけ見渡そうが置かれてない物は置かれてないのだ
まさか海馬程の男にチョコを贈らない女なんて居ないだろう
挙動不信の遊戯に目を細めながら
「何をキョロキョロしているのだ?」
「あっ・・・いや・・・その・・・この部屋にチョコが無いのが予想外だったので・・・」
「フン チョコは全て養護施設に寄贈した」
貴様以外甘いのは、この部屋に必要は無い
否 この俺にとってと言っても過言では無いだろうな
女性から贈られたチョコの行方
捨てる事を考えればマシかもしれないけど・・・
もしかしたらオレが贈ったチョコも同じ運命を辿るのか
もしれない
そうなると寂しい気持ちと悲しい気持ちになる
一向に自分の元に来ない遊戯
しかも表情が次第に曇りだす
「遊戯何時までそんな所でつっ立っているつもりだ?」
早く俺の傍に来い
早く貴様の匂いを貴様の温もりを感じさせろ
「あっ・・・うん・・・」
本当は、帰りたい心境だった
でも・・・折角逢えたのに帰りたく無かった
遊戯は海馬に誘われるがまま海馬のデスクの傍まで行く
「俺の隣に来い」
デスクを回り海馬の隣に言われるがまま行くと腕を掴まれ
引き寄せられる
急に引っ張られバランスを崩し倒れ込む
頬に感じる布・・・
その布越しから聞こえる規則正しい鼓動
何故だか安心してしまう
海馬は遊戯を膝上に座らせ啄む様なキスを何度となく
繰り返す
「遊戯 目を閉じ口を開けてみろ」
「?」
それでも言う通りにすれば口腔内を硬い塊が入ってくる
少し舌先で舐めれば甘く口腔内の温度でトロトロと溶けだして
来る・・・
チョコ・・・!?
「海馬・・・」
「今日はバレンタインだからな
俺から貴様へのチョコだ」
何だか嬉しい
こういうイベント事が嫌いな男が自分の為に・・・
「あっ・・・ちょっと待って・・・」
遊戯も抱き抱えられた状態のままカバンに入っているチョコを
海馬に指し出す
「おっ・・・オレからのチョコ・・・あっ・・・その・・・受け取ってくれるか?」
蒼い瞳に驚きの色が浮かび上がるがそれも次第に温かみを持った
様に細められて
「当然だ 貴様からのチョコを俺が受け取らないとでも
思っているのか?」
胸が温かくなる
嬉しくて仕方が無い
まさかこんな気持ちになるなんて想ってもみなかった
「海馬・・・」
遊戯は包装紙を開けチョコを一口咥えると海馬の口にチョコを
届ける
海馬もそのチョコを自分の口腔内に収めると同時に遊戯の
柔らかい唇を堪能する
イベント事は、好きではない寧ろ嫌いだが遊戯とこんな時間が
過ごせるのなら少しは好きになってもいいと思える・・・
「甘いのは、貴様だけで充分だな」
「?」
甘い想いと愛しい遊戯を抱きしめながらそう思えて来た