夜桜

夜桜


モクバが遊びに来た時言っていた

来週あたり海馬邸のサクラが咲くと・・・

 

海馬邸の桜

 

遊戯にとって初めて見た夜桜

そして海馬と互いが互いのモノであると桜の前で誓いあった思い出の木

 

今年もそのサクラが花を付ける

モクバが言うには

「今年の蕾が例年に比べてイイらしいんだ」

庭師がそう言っていた

素人目には解らないけど・・・と付け加えながら

 

週が開け今日海馬からメールが来た

【今夜 来い】

相変わらず素っ気無いメールだけど嬉しいメール

高校生でありながら大企業の社長をこなす超多忙な男からの誘い

滅多に逢えないから断る理由なんて無い

高鳴る鼓動

その日一日が上の空

もう一人の<遊戯>から

「まるで恋する乙女って感じだね まぁ君の場合恋する少年だけど」

しっかり海馬君に甘えておいで・・・

冷やかされもしたが彼は自分と海馬の間を理解してくれている数少ない人の一人

だから

「解ったぜ」

と顔を朱に染めながらも素直に返事してしまう

 

海馬邸に咲く桜は枝垂れ桜

江戸彼岸の変種らしい

童実野公園に咲く桜と同種らしいけど

(染井吉野は江戸彼岸と他の桜との交配により誕生した桜です)

 

夜になり武藤家の前に横付けされるリムジン・・・

当初リムジンやロールス・ロイスが来れば御近所さんで大騒ぎしてたんだけど

見慣れれば騒ぎも起きない

寧ろM&Wでは世界的に有名人なんだから当然扱い

(まぁ・・・海外の大企業からも声をかけられる事しばしだもね)

<遊戯>に見送られながらリムジンに乗り込むと腕を掴まれ引き寄せられる

抗議の声を上げ様にも柔らかく温かい感触に封じられる

口腔内を蹂躙される

抵抗する事も抗議する事も忘れてしまいそうだ

耳元で

「逢いたかったぞ」

と囁かれれば腰砕けにされしまう

己の気配を消し遊戯を驚かせた男・・・

「海馬・・・強引だぜ・・・」

そう言いながらも自分を抱き締める腕の感触も布越しの聞こえる鼓動も遊戯に安らぎと安堵を

与えてくれる

海馬邸に着くまでの間之と言った会話は全く無かった

何度も啄む様なキスを繰り返し

互いの温もりを感じる事に意識が行ってしまっていた

海馬邸に着くと遊戯は枝垂れサクラがある奥庭へ

本当は海馬から一緒に行こうと誘われていたけど車中の事を思い出すと気恥ずかしい

遊戯は一人奥庭にある枝垂れ桜の前に来た

綺麗にライトアップされた桜

元々綺麗な桜なのだが夜にライトの光を浴びた桜の何と幻想的な姿だろう

遊戯は、そんな桜の姿に魅入ってしまう

 

遊戯の視線を自分のモノとしその心まで自分に向けさせる桜

 

暫くしてラフな服装に着替えた海馬が来た

「ゆう・・・」

遊戯と声をかけ様としたが・・・

この桜に精霊が宿っているとしたら?

人外とは思えぬ綺麗な人物

男なのか女のか中性的は姿

その人物が衣を広げ今まさに遊戯を包み込もうとしている

「遊戯!何をしている!!」

人外のモノに遊戯を奪われるかと思った

怖かった

また遊戯を失う様な事になれば・・・自分の世界が壊れる・・・

そう思ったから海馬は遊戯の腕を掴み自分の方に抱き寄せる

 

「いっ・・・痛いぜ!!」

遊戯からの抗議の声

「煩い!」

それを一喝し黙らせると

「貴様は俺のモノだ何処にも行かせない」

呟く様な声

微かに震える躰

遊戯は自分を力いっぱい抱き締める男の背に自分の腕を回し

「去年約束しただろ?お前が18になったらお前の元に来るって・・・」

そう自分は去年この場所で誓ったのだ

「もう忘れたのか?」

甘える様な声に先ほどまで感じた恐怖が拭われる

抱き締める温かい感触に安堵する

「・・・貴様が俺の前から消えると思った・・・」

先ほど感じた恐怖を口にする

自分らしくないと思った

でも自分がどれほど彼の事を思っているのか知って貰いたかった

 

海馬からの告白は遊戯を驚かせた

決して弱い所見せない男が自分にだけ弱い所を見せたのだ

そしてそれが嬉しさに変る

「何処にも行かないぜ?・・・

さっき桜と話してたんだ・・・」

毎年綺麗に咲いても見てくれる人が無い

どれだけ寂しかったか

でも去年遊戯達が見に来てくれてどれだけ嬉しかったか

今年は去年以上に綺麗に花を咲かせば・・・

そう思い頑張って綺麗な花を咲かせた・・・と

桜の精霊は、ただ嬉しくて遊戯に抱きついたのだと

遊戯は海馬に説明した

 

確かに自分は去年までこんな綺麗な枝垂れ桜が在るとは知らなかった

一人でココにいるのは確かに寂しいかもしれない

この枝垂れ桜の直傍に他の桜の木も無い

どれほど孤独で居る事が辛いか

海馬も遊戯もその辛さの中で彷徨い苦しんだのだ

 

「この桜が寂しがっているのなら今年から従業員にもこの桜の下で花見をさせよう」

毎年場所取りに苦労しているだろうからな

それに散るにはまだ早いしな

そうすればこの桜も寂しい思いをしなくてすむ

海馬の提案に遊戯は驚き苦笑しながらも

「お前は相変わらず強引だな まぁ海馬らしいけどな」

「早いに越した事は無い」

「ああ・・・そうだな・・・」

桜の方を見やれば精霊は嬉しそうな笑みを浮かべている

 

この桜は、きっと来年も綺麗な花を付けるだろう

自分達も毎年2人でこの桜を見に来るだろう・・・

 

きっと来年も・・・





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