不機嫌のち好機嫌


 

「貴様・・・さっきから何をしている?」

いきなり会社に現れた遊戯

社長室にくるやいなやカバンから紙切れを取り出し何やら書き込み中で

海馬の事を無視している。

自分を見ようとしない遊戯に不機嫌を露わにする海馬

そんな海馬の問いかけに遊戯は、

「ん・・・履歴書を書いてるの」

気にする事なく答える。

「履歴書?」

 

一応海馬も遊戯も高校2年生

就職活動には、少し早いかもしれない・・・

 

「もう夏休みだからバイトをしようと思って」

「バイトだと?」

遊戯の家は、玩具屋を営んでいる

自分の家の手伝いなら履歴書は、必要ない筈・・・そう思っていると

「やった事の無い仕事をしてみたいと思ったの

ファースト・フードやコンビニとか・・・」

遊戯の言葉に思わず心が反応してしまう

遊戯が仕事とは、言え自分の知らない相手に笑顔を見せるたり話しかけたりする光景が脳裏を

過ったのだ。

「・・・でも、何処でバイトしても瀬人に邪魔される様な気がしたの

そこで瀬人に邪魔されない様に知りあいの勤め先にバイト募集してないか訪ねたら

募集は、してないけど私なら雇ってくれるって事になったのよ。

一応通いを希望したんだけど雇い主が通いにしてくれるのかどうかが不明なの」

海馬とて遊戯のバイトの邪魔をする気は、無い。

ただそれは、遊戯が自分の家の玩具屋を手伝うならの話しであってそれ以外なら邪魔をする気で

居た。

『瀬人に邪魔されない様に・・・』その言葉だけでも不愉快さが増すのに通いになるかどうか解らないと

言うのは、許せない事だ。

「貴様 どんなバイトをする気なんだ?」

不機嫌な表情を色濃く露わにしる海馬だったが

「う〜んとね メイドなんだけど・・・」

何処吹く風の様な遊戯

 

メイド・・・

 

「そこの御主人様っていうのが超が付くほど我儘で世界は、自分為に回ってるって感じで

嫌みったらしい人なのよね」

「貴様は、そこの主とやらに会った事があるのか?」

カタッ・・・

海馬は、自分の席を立ち遊戯の傍へ・・・

「会った事あるよ そうそう知りあいに履歴書は、当主に直に渡してくれって言われた」

自分の知らない間に遊戯がアルバイトを決めた事と雇い主と会った事がある事に苛立つ海馬

海馬は、遊戯の肩を掴むとそのままソファの上に押し倒す。

遊戯が誰のモノなのか解らせる為に・・・

だが押し倒された遊戯の表情は、至って普通。

寧ろ自分が持っていた履歴書を海馬の顔に付きつけて

「貴方の屋敷のメイドをする事になったの だからコレ貴方に渡しておくね」

「!」

「私は、まだ高校生だから住み込みは、パス!通いが条件。

それと仕事中は、主従関係を守って変な事しないでね」

余りにも突然の事に海馬の思考は、止まりかけていたが履歴書を受け取り

「貴様・・・この俺が貴様を帰すとでも思っているのか?

他のメイドがどうであれ貴様には、住み込みで働いて貰う

当然夜の仕事もしてもらう」

先程遊戯が言った「超が付くほど我儘で・・・嫌みったらしい人」の言葉は、既に蚊帳の外。

この夏 遊戯が自分の傍に居る事に浮かれ気持ちが飛んでしまっている

「瀬人・・・夜の仕事は、絶対にお断りよ」 

少しふっくれ面の遊戯の鼻先に軽くキスをすると

「何時からバイトに来るのだ?」

嬉しそうな海馬

既に遊戯と過ごす時間の事だけを考えているようだ

「明後日からの予定よ」

そんな海馬に戸惑う遊戯

「今日は、終業式だったんだろ?」

「うん・・・」

「だったら今夜からバイトに来い」

「そっ・・・それって今夜から夜の仕事をしろって言うの?」

住み込みは、したくない!と言う遊戯の言葉なんて聞き入れるつもりは、毛頭に無い

そして『通い』で『変な事』は、しないで欲しいと言う願いは、多分叶えられる事は無い

この男がどういう男なのか自分は、知っている筈なのに・・・

「明日からじゃダメ?」

今日は、一先ず帰りたい。

バイトの事をまだ家族に話してない遊戯は、その事を家族に話したいのだ

「俺は、貴様と一日でも長く一緒に居たい・・・

そんな俺の気持ちを理解してくれぬのか?」

そんなの自分だって同じ・・・

だから海馬邸のメイドとしてバイトする事を決めたのだから

「・・・でも一応家族に・・・」

「ここで貴様を抱いて疲れて眠る貴様を屋敷に連れ帰るのもいいかもな」

あくまでも帰らせる意思が無い海馬に溜息を吐きながら

「解ったわ・・・でも通い・・・」

「貴様は、住み込みだ」

一応ママには、夏の間家に帰れない事を電話しておかないと・・・

好きな人と一緒に居られるのは、嬉しいけど・・・ちゃんと休みをくれるのかしら?

「貴様は、使用人どもの部屋を使わず俺の部屋を使え!いいな?」

これじゃ休み無しって事ね

 

なかなか逢う事の出来ない瀬人と一緒に居たいから海馬邸でのメイドのバイトを決めたのに

些か不安を感じてしまう遊戯だった。


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