道
躰が重い。
手を動かそうにも動かない。
沈んでしまいそうだ。
光が全く見えない。
ああ・・・目を閉じているから光が見えないんだ。
ココが何処なのか確認出来ない。
瞼でさえ重くて・・・開ける事が出来ないのだ。
でも不愉快だなんて思えない。
寧ろ心地良い。
きっと敗北に怯え勝利する事に執着した報いなんだろう。
まぁ俺には、光の世界なんて似あわないがな。
しかし・・・心残りが全く無いわけでは、無い
一目でもいい明日香に逢いたかった。
別れを言っておきたかった。
ああ・・・でも彼女の泣き顔を見ないで済むなら逢わない方がいいのかしれない。
「・・・う・・・り・・・」
誰かが自分を呼んでいる?
誰が?誰が俺を呼んでいるんだ?
逢いたい・・・
そう思った時あれほど重かった躰が軽くなり。
開かなかった瞼が開き光が差し込む。
全てが軽く感じる。
「ん・・・」
差し込む光がこんなに眩しいなんて
目が痛い。
「亮 気が付いたのね」
「あす・・・ここは・・・」
ハッキリしない意識の中自分の傍に居る人物を見やる。
心配そうに自分の手を握り少し困った様な嬉しい様な複雑な表情を浮かべている明日香。
「ここは、私の部屋よ」
「明日香の?」
「本当は、保健室のベッドの方が良かったんだろうけど兄さんが亮をココに運んできたの」
霞む明日香の顔・・・
彼女の顔がハッキリ見えないでも彼女が涙ぐんでいるのが解る。
彼女の両手から自分の手を離すと彼女の頬に手をあてがう。
「何故泣く・・・?」
「なっ・・・泣いてなんかないわよ」
どんなに強がっていても亮の指先が明日香の涙で濡れている。
亮は、その涙を親指で拭ってやる。
「ねぇ 私を貴方の傍に居させてくれる?」
明日香は、自分の頬にあてがわれている亮の手に自分の手を重ね亮の温もりを感じる。
「・・・どうしたんだ急に・・・」
明日香の言葉に困惑してしまう。
「私に貴方の世話をさせて欲しい」
今だ要点が掴めない亮
「十代達から聞いたの貴方の心臓の事・・・貴方の心臓が良くなるまで私を貴方の傍に置いて
欲しいの
ううん 一生貴方の傍に居させて欲しいの」
明日香からの告白。
彼女に自分の病気の事が知れている。
知られたくなかった。
彼女の心配する顔なんて見たく無かったから。
明日香からの申し出は、亮にとって嬉しい事。
誰しも最愛の人を一緒に居たいと思う感情。
でもこんな自分と一緒に居たら彼女に余計な負担が掛かってしまう。
彼女の人生を自分に縛りつけるなんて亮には、出来ない。
「ダメだ。俺なんかの為に自分の人生を棒に振る様な事をするな」
彼女には、自由であって欲しいのだ。
辛い表情を浮かべる亮に対し明日香は、微かに笑みを浮かべながら
「どうしてそんな事言うの?私の為を思って言ってくれるのなら貴方の傍に居させて。
貴方と離れ離れのままだと不安で仕方が無いの
貴方の傍に居る事で私は、安心するのよ」
「あすか・・・」
「ねっいいでしょ?」
最愛なる人の言葉は、正直嬉しい。
それに亮だって明日香と一緒に居たいと思っている。
それでも素直になれない。
「一緒に居させてくれないのなら余りの不安に私は、毎日泣いてしまうかもしれない。
笑顔を忘れてしまうかもしれない。それでもいいの?」
明日香には、笑顔が似あうと思っていた。
それに彼女の笑顔でどんなに勇気づけられた事か・・・
「俺と一緒に居たら明日香が苦労するだけだと思う」
彼女に苦労なんてさせられない。
彼女には、自由であって欲しい。
「どうしてそんなマイナスな未来予想をするの?訪れていない未来にどうしてそんなに怯えるの?
もしかしたら楽しい未来かもしれないじゃない」
「!!」
明日香の言葉に亮は、デュエルで負ける事に怯えていた自分を思い出す。
人生は、デュエルと同じ様なもの。
先の事なんてドローしてみないと解らないのだ。
それなのに今の自分ときたらドローする前にサレンダーする事を考えていた。
そして明日香の強い決心を知った。
「俺でいいのか?お前と共に歩む相手は」
「貴方以外誰が居るの?」
打てば響く音の様に率直に返って来る反応に嬉しさが込み上げてくる。
「明日香、アカデミアを卒業したら俺の傍に居てくれ」
「卒業してからでいいの?」
「ああ、それまでに俺は、明日香に相応しい男になるから」
明日香が安心出来る様な強い男になる
今でも貴方は、充分に強い。
でもそれは、言わない。
私も貴方に相応しい女になるね。
だから貴方の歩む道に私も連れて行ってね