気持ち


 

心の部屋。

<遊戯>は、もう一人の人格闇の遊戯の部屋の前に来ていた。

自分の心の部屋とは、違う息苦しい感じがする部屋。

まるで彼の心の様に重くのしかかってくるような感じの扉。

その扉に触れると冷たささえ感じてくる様だ。

それでもこの部屋の主は、自分の知っている人物。

それゆえに恐怖なんて感じない。

<遊戯>は、その扉を数回ノックする。

暫くするとゆっくりと開けられる扉。

相手を確認する声なんて聞こえない。

この部屋を訪れるのは、自分以外いないのだから。

彼の恋人である海馬君が知ればジタンダ踏みかねない。

「どうしたんだ?相棒」

「君とゆっくり話しがしたかったんだ」

そう言って手に持っている買い物袋を彼に笑顔と共に見せる。

少し戸惑う様な表情を見せる彼。

彼の心の部屋は、幾何学的な迷路になっている。

それを見られたくない様だ。

僕は、一度この部屋に入った事があるのに・・・

それを思い出したのか

「いいぜ」

と言って遊戯は、<遊戯>を迎えいれた。

 

冷たい石畳上<遊戯>は、持参してきたクッションを数個置き遊戯にも座る様に促す。

買い物袋の中からお菓子とジュースを取り出す。

遊戯は、コーラを選び<遊戯>は、オレンジジュースを手にした。

 

そう言えば城之内君が言ってたっけ

タイプ別けで言うと僕は、可愛いらしいタイプで もう一人の僕は、美人タイプだって。

それに僕は、守りたくなるのに対して彼には、対等でありたい存在なんだって。

 

<遊戯>は、もう一人の遊戯を見ながら城之内が言う事も肯けてしまう。

もう一人の遊戯は、見た目で言うと守り守ると言う様なタイプじゃない。

でも本当の彼は、人が思う程強く無い。

そんな彼を恋人にもつ海馬は、きっとそんな彼の本性を無意識の内に見ぬいているんじゃ

ないかと思う。

海馬は、遊戯に対し優しい言葉なんてかけないあくまで対等の立場を取るくせにいざと言う時しっかりと

彼を守っている。

「急にどうしたんだ?」

黙っている<遊戯>に不安を感じたのか遊戯が話しかけてくる。

その表情に戸惑いの色を見せる遊戯。

そんな遊戯に<遊戯>は、

「君とゆっくり話しがしたかったんだ。

ねぇ君は、海馬君の事どう思っているの?」

とんでもない質問に遊戯は、飲みかけていたコーラを思わず吹いてしまう。

「ゲホゲホ・・・相場急に・・・」

「あははは・・・ゴメンゴメン 何か急に知りたくなって」

まさかこんな遊戯の姿を見る事が出来るなんて城之内君が知ったら驚くだろうな〜

もしかしたら海馬君もこんなもう一人の僕の姿を見た事無いかも・・・

 

自分の口元を拭いながら遊戯は、

「海馬の事は、好きだぜ・・・」

顔を朱に染めて答える。

「あいつの前向きな生き方とか自分の信念を曲げないあたりとか人には、厳しいけど自分に対して

更に厳しい所とか・・・」

まぁアイツの性格は、正直人の迷惑かえりみずで困りモノだけどな。

「それって・・・」

恋人とかそう言う以前の言葉だと思う。

彼らしいと言えば彼らしいけど。

僕が海馬君の事好きって言ったら彼は、どんな表情を見せてくれるんだろう?

ささやかな悪戯心。

「ねぇ もし僕が海馬君の事好きって言ったら君は、どうする?」

一瞬驚いた様な表情を見せる遊戯だが直に穏やかな表情になり。

「解らない」

と答えた。

<遊戯>にしてみれば予想外な言葉。

てっきり否定的な言葉が返ってくると思った。

「相棒が言う好きって友達として好きなのか恋愛感情から来る好きなのか憧れ的な意味を持った

好きなのか解らない・・・

それに相棒が誰を好きになったとしてそれをオレがどうこう言えないぜ」

遊戯の言う通り自分は、遊戯に『好き』と言っただけでどう言う好きかは、言ってない。

それに遊戯の最後の発言は、自分自身が『曖昧な存在』と言う所から来ているのかもしれない。

 

僕が海馬君に抱く好きは、恋愛感情から来る好き。

でも海馬君は、もう一人の僕を選んだ。

そしてそれに対しもう一人の僕は、応えた。

言葉では、無く気持ちで・・・

(だって2人とも告白とかしてないんだもん)

 

「じゃ〜君にとって海馬君ってどんな存在?」

「海馬は、永遠のライバル。それに共に高みへ目指す存在と言うか相手・・・」

高み・・・って僕を選んでくれないのね・・・

「ねぇ 城之内君や杏子の事は?」

「う〜ん友達として好きだけど・・・お兄さんお姉さん的存在」

城之内君や杏子が家族的存在なら僕は?

「ねぇ 君にとって僕は?」

少し不安になる。

<遊戯>は、遊戯にとって自分こそ家族的存在だと思っていたから。

「相棒か・・・」

少し遠くを見るような感じで。

「空気かもしれない」

「え〜それって存在感ゼロじゃない!!」

まるで居ても居なくてもイイよな感じを受けてしまう<遊戯>だったが。

「違うぜ 何時も傍に居て当たり前なのにその存在が無いと生きられない・・・

空気って在って当たり前の様に感じるのにその空気が無いと人も動物の生きられない

大切な存在なんだぜ」

その時<遊戯>の方に振り返った遊戯の笑みが綺麗で思わず<遊戯>は、頬を染めてしまう。

 

ああ・・・彼のそんな無意識な邪気の無い笑みを見せられたらあの海馬君だってイチコロだろうな・・・

 

海馬が遊戯を大切にする理由が何となく解った。

きっと海馬もこの笑みを見てしまったのだろう。

そして無意識の内にその笑みを守りたいと・・・また見たいと思ったのだろう。

 

君が僕の事をそんな風に思っていてくれたなんて嬉しいな・・・

「・・・相棒にとってオレは、どんな存在なんだ?」

<遊戯>の躰を勝手に間借りしている自分の存在。

きっと疎ましい存在なのかもしれない。

遊戯も<遊戯>に聞きたかった。

でも聞くのが怖かった。

それでも聞いたのは、今しか聞けないと思ったから。

「そうだね 僕にとって君は、光かもしれない」

「光?」

闇を司る自分が光・・・遊戯は、<遊戯>の方を不思議そうに見ていると

「もし君と出逢わなければ僕は、何時まで経ってもイジメられっ子の<武藤遊戯>だったかもしれない

今みたいに大切な友達が出来たどうかなんて解らないもん」

じぃーちゃんから貰った千年パズル・・・

そのパズルを組みたてながら願った。

『友達が欲しい』と・・・決して自分を裏切らない友達そして決して裏切れない友達を・・・

遊戯が現れた事でその願いが叶った。

今では、城之内と言う親友も本田と言う友達も出来た。

雲の上的存在で普通なら話しなんて出来ないかもしれない海馬とも対等に話せる。

世界に居る強豪とも仲良くなれた。

それは、遊戯と出逢ってから訪れた。

もし彼と逢わなければ城之内達と仲良くなれたかなんて解らない。

もしかしたらまだイジメられていたかもしれない。

闇を司ると言うもう一人の僕。

僕にとって君は、光だよ。

光へ導く案内人の方が正解かもしれない。

「君が居てくれたお陰で僕は、良い事が沢山あったんだ。

ありがとう・・・僕の傍にいてくれて・・・」

ああ・・・そうか僕は、この言葉を言いたかったのかもしれない。

当たり前の様に僕の傍に居てくれる君。

だからこそ恥かしくて御礼が言えなかった。

「オ・・・オレの方こそありがとう・・・」

 

「ねえ今日は、ここで一緒に寝よう」

「石畳で痛いぜ?」

「平気だよ だって君といっぱい御話しして寝るんだもん」

石畳の痛さなんて気にならないし忘れてるかもしれない。

 

 

君みたいな素的な人が恋のライバルじゃ僕には、勝ち目がないね・・・

それに僕は、君が困った様な顔は、見たくないし僕の海馬君への気持ちを知ったら君は、僕の為に

海馬君と別れてしまうかもしれない。

そんなのは、嫌だから僕は、海馬君への想いは。僕の心の中で眠らせるね・・・


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