初めての・・・

 


何時もの様に瀬人が遊戯の部屋にやってきた。

そして何時もの様にベッドの上で寛いでいると。

遊戯が何か言い難そうに自分の方を見ている事に気が付いた。

「ニャ〜」

と遊戯の方を見ながら言葉を促してやると。

「あっ・・・あのさ今日泊まって行かないか?」

絨毯の上から自分を見上げる遊戯。

その表情が何だか可愛い。

だからついつい要らぬ悪戯心が芽生えてしまい。

瀬人は、ベッドの上で軽く伸びをしベッドの際まで行くと軽やかに机に飛び乗った。

そして窓辺に近付く。

予め自分が出入りしやすいように遊戯が少し窓を開けてくれている。

瀬人は、出て行くそぶりを見せると。

「そうだよな お前飼いネコだもんな やっぱり主の所に帰るよな。」

何だか寂しそうな顔。

そんな遊戯の表情を見ていると何だか胸が痛い。

瀬人は、一瞬考えたフリをすると気紛れを起したネコの様にベッドの上に戻って来る。

ベッドの上に戻って来た瀬人を見て。

「えっ!!もしかして泊まって行ってくれるのか????」

一瞬にして満面の笑み。

遊戯のその笑みは、幾多の輝きを纏っていて瀬人には、まぶしくて仕方が無かった。

心臓が痛い程脈打つ。

鼓動が耳にまで聞こえて来る錯覚に陥る。

(何なんだこの煩いまでの鼓動は!!)

きっと人間の姿だと顔が真っ赤になっているだろうと想像出来る。

だから今は、ネコの姿がこんなに有難いモノだと感じずには、居られない。

「ニ・・・ニャ〜」

鳴き声まで上ずってしまう。

「今日な じぃーちゃんもママも居ないんだ・・・。

あっだから寂しいとかじゃなくて。」

(何でオレは、ネコ相手にこんな事言ってるんだ?)

家族が外出中?

もしかしてこの家に居るのは、遊戯を俺だけ?

そう言えば何時もなら聞こえて来るTVの音も聞こえてこない?

家に一人で居る事が寂しいから俺に泊まって行けと言ったのか。

何だか納得してしまう。

しかしこんな小さな家で一人が寂しいとは、何と言うガキ。

 

瀬人は、自分が住んでいる屋敷の事を思い出す。

日中は、使用人が動き回っている屋敷。

そんな屋敷も夜になると静まりかえっている。

まぁトイレに行きたいからと言って部屋を出る必要性が無いから静かさなんて気には、ならないが・・・

人を身近に感じて生きて来た者にとって一人で居るのは、寂しいのだろう。

 

ベッドの上で大人しくしている瀬人を自分の方に向かせながら抱き抱える。

(折角遊戯と2人きりなのに・・・ネコの姿とは・・・)

少し後悔モードの瀬人。

瀬人が意識をそらした一瞬近付いてくる遊戯の顔。

近付いてくる顔に気が付いた瀬人は、思わず横を向いてしまう。

だって瀬人の目に飛びこんできたのは、遊戯の愛くるしい唇。

そう遊戯は、瀬人にキスをしようとしていたのだ。

ペットと飼い主がするスキンシップのキス。

頬に感じる遊戯の唇。

(くそ〜!!ネコの姿じゃなかったら俺から仕掛けてやるのに!!)

しかしスキンシップとは、言え遊戯とのキスは、これが初めて。

何だかくすぐったい気もする。

瀬人が遊戯から気が反れたた一瞬・・・ほんの一瞬だった。

目の前に遊戯の顔があった。

何も考えられなかった。

まさか遊戯に唇を奪われるなんて・・・

「瀬人 お前が隙を見せるなんて珍しいな。」

してやったりと言わんばかりの笑顔。

瀬人は、ショックの余り放心状態。

(この俺が・・・この俺が・・・ネコとしてのファーストキスを奪われるなんて・・・)

内心プルプル震える瀬人。

何を思ったのか瀬人は、思わず遊戯の鼻先を舐めた。

犬じゃないけど瀬人は、遊戯の顔中を舐めまわした。

「瀬人〜それじゃまるで犬だぜ〜」

(そんなモン関係ない!!貴様の顔を舐め尽くしてやる!!!!)

犬が主人とスキンシップを取るのと同じ様に瀬人も激しく遊戯の顔を舐めた。

(ネコってこんなに激しいスキンシップをする生き物だったか?)

まるで犬の様だと思う。

余りにも激しい舐め攻撃に遊戯は、床に転がってしまうが瀬人の舐め攻撃は、なかなか納まらない。

それこそ瀬人が満足するまで続けられた。

 

瀬人と遊び疲れた遊戯は、今は、瀬人と一緒にベッドの中。

規則正しい寝息を発てているが瀬人の方は、寝つけない。

身近に感じる遊戯の体温。顔にかかる寝息。鼻を擽る香りが瀬人を興奮させてしまう。

遊戯の腕から抜け出した瀬人は、一度人の姿に戻る。

ベッドの際に座りスヤスヤと眠る遊戯の頬に触れながら。

(温かい・・・人の体温は、気持ち悪いと思っていた。でも貴様の体温は、心地イイ)

人の体温がこんなに気持ち良く、安心出来るモノだとは、思わなかった。

何故か心が躰がもっと遊戯に触れたいと懇願したのだ。

緩く開かれた口に親指を差し込めば遊戯温かい舌が絡みついてくる。

ドッキとしたがどうやら無意識の内にしている様だ。

時折チュウチュウと吸われてしまう。

一体どんな夢を見ているのか・・・

もし夢をみているのならその夢に自分が出ている事を願ってしまう。

海馬は、親指を抜くと遊戯の唇にそっと自分のを重ねる。

まるで穢れ無き魂に触れるかの様にそっと優しく・・・

触れて直離れるつもりだった。

でもそれだけで満足出来る筈も無く眠る遊戯の口に舌を差し込めば先程と同様に遊戯の舌が

絡まってくる。

(遊戯貴様がもし夢を見ているのなら俺と一緒に居る夢を見てくれ)

初めて自分からこんなに懇願したのは、初めての様な気がする。

ゆっくり遊戯から離れる海馬。

「・・・かいば・・・んん・・・」

微かに遊戯の口から聞こえた己の名前。

まさか俺の想いが通じたのか?

しかし遊戯の口から聞こえた名前は、後にも先にもその時だけ。

それでも海馬は、何処か満足な気持ちでいた。

 

ああ・・・そうか俺が何故貴様に拘るのか解った。

俺は、貴様に惚れているんだ。

人にこんな甘い気持ちを抱いた事なんて無かった。

遊戯貴様が俺にこんな気持ちを教えたんだな。

 

海馬は、今一度ネコの姿に戻り産まれて初めて感じた甘い気持ちを胸に抱きながら遊戯の腕の

中に戻って行った。

 

何時か貴様に俺の気持ちを言える時が来たら・・・

貴様が俺の気持ちを知ったらどんな反応するんだろうな・・・

 

そう想いながらも瀬人は、遊戯の腕の中で眠りについた。


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