束の間
「なぁ・・・」
「ん?」
「なぁってば」
「何だ?」
少し困った様な表情を浮かべる遊戯。
そんな遊戯を心の中で(可愛い)と思う海馬。
遊戯に向って「可愛い」なんて口にすればきっと彼は、拗ねるかもしれない。
真直に見える紅い瞳。
直に感じる体温。
遊戯が吐く吐息でさえ直傍に感じる事が感じる。
「あのさ・・・オレを抱き抱えたままじゃ仕事がはかどらないだろ?」
少し頬を染める遊戯。
今自分が居るのは、海馬Co.社長室。
しかも海馬瀬人の膝の上。横抱きの状態なのだ。
「そんな事は、無いが」
事もなげに言い放つ海馬。
(貴様が傍に居るだけで活力がみなぎって来るのだ。
それに貴様に逢うのも触れるのも本当に久しぶりなのだ。)
もっと触れていたい。
もっと温もりを感じていたい。
仕事で世界を飛びまわった。
それは、それなりに満足だったと思う。
でも精神面的には、限界だった。
遊戯に逢えない事に・・・彼に触れられない事に・・・
電話は、何度もした。
遊戯の声聞きたさに。
休日まで後1日我慢すればよかった。
だが既に限界だった心は、遊戯を求め部下に遊戯を連れて来るように命じた。
何の抵抗もする事なく連れて来られた遊戯。
俺の顔を見ると「何だかヤツレタ様に見えるぜ」と言いながら近付き俺の顔に触れてきた。
(触れたい・・・触れたい・・・)
そんな気持ちで遊戯の腕を掴み抱き寄せた。
バランスを崩した遊戯は、すんなりと胸の中。
余りにも抵抗してこない遊戯。
彼の膝に腕を差し込み抱え上げ膝の上・・・横抱きにした。
海馬に逢いたかった。
声だけじゃ満足出来ない。
荒々しいコイツに抱きしめられたかった。
だから海馬の部下が迎えに来た時直に応じた。
久しぶりに見た海馬の顔は、疲れの色が濃く正直心配だった。
でも抱きしめられた瞬間「心配する程弱ってないんだな」って悪態を心の中でついた。
それでも久しぶりに感じる体温と彼の匂いが自分の心を満たして行くのが解る。
そして彼に抱きしめられていることに安堵した。
しかし今海馬は、仕事中。
未だ会社に居るのだ。遊戯としては、気が気でない。
「海馬 仕事が終わるまでソファで待っているから・・・」
降ろして欲しいと思った。
何時・誰が来るのか解らない。
こんな格好は、恥かしい。
それなのに「貴様は、ココにいろ」と言われてしまう。
しかも肩を抱いていた手を首の後ろから回し顎を持ち上げ触れるだけのキスをそて来たのだ。
こんな甘い行動が似あわない男に甘い行動をされると嬉しいと思ってしまう。
だって海馬がこんな行動するのは、遊戯だけだから・・・
でも少し不満を言わせてもらえばオレだって海馬を抱きしめたい。
自分からキスをしたい・・・
今2人が居るのは、海馬Co.の社長室。
甘い時間は、ほんの束の間。
逢えなかった分きっと嵐の様な一夜になるだろうから。