温もり
「うん・・・」
程よい温もりに包まれながら目が覚めた。
それでも完全に目が覚めたワケでは、ない様で少しばかりボンヤリしている。
適度に調整された空調。
カーテンの隙間から挿し込む淡い光。
遊戯は、自分が何処に居るのか解らなかった。
ただボンヤリと背に温もりを感じながら・・・
ああ・・・ソウカここってあの部屋ナンダ
海馬が遊戯と逢うためだけに用意した部屋。
誰にも気がねする事が無い部屋。
自分の胸元に在る手を見て気が付いた。
シーツから見える手。
綺麗な長い指。
遊戯は、そっと自分の手を重ねてみる。
自分の手より大きい。
まるで夢を全て掴み取る為に大きくなった様な手。
そしてその夢を着実に叶えている手。掴み取った夢を握り離さない手。
自分にいろんな悪戯をイッパイしてくる手。
(この手にどれだけ翻弄された事か・・・)
そう言えば今の自分の姿・・・
何時も海馬のベッドで寝る時は、全裸なのに今夜に限って寝夜着を身に纏っている。
ゆっくりと寝る前の事を思い出す。
久しぶりに海馬が休みを取った。
別に連絡が在った訳じゃない。
ただ何となく海馬がマンションの方に居ると思い出向いただけ。
海馬が遊戯と逢う為だけに購入したマンション。
部屋のカギは、掛かっていた。
合鍵で入ると海馬は、英字だらけのハードカバーを読んでいた。
テーブルの上には、2人分の煎れたてのコーヒーとケーキが1人分。
まるで客人が居たのか来るのか・・・そんな感じで。
「何時までつっ立て居る気なんだ?」
こっちを全く見る事無く話し掛けて来る海馬。
目許を覆い隠す眼鏡を掛けながら。
「何かオレが来る前まで客人でも居たような感じだな」
自分が余り見る事が無い海馬に対し少しばかり苛立ってしまう。
「客人なんか来る訳ないだろ これは、貴様の為に用意したのだ」
「オレが来る事が解ったような言い方だな」
もしかしたら至る所に監視カメラでも設置され46時中監視されているのでは・・・と一瞬本気で思った。
「別に驚く事もあるまい俺がココに来たのだから貴様も来て当然だろう?」
至極当たり前の様に言われ言葉を失ってしまう。
そう言えば現世に復活を遂げたのにも関わらず過去の記憶を持った自分の存在に不安を感じていたら
『俺がこの世に存在しているから貴様もこの世に存在している当然だろう』なんて事を平気で言っていた事
を思い出す。
でもその言葉がどれだけ嬉しく安心出来たか。
遊戯は、海馬の向いにカバンを置きソファに座ろうとしたら
「貴様の席は、常に俺の隣と決まっているだろう」
と眼鏡越しに睨まれた。
何て恥かしく・我儘な男なんだ・・・と思っていた。
遊戯は、海馬の望むまま彼の隣に腰かける。
甘めのコーヒーを口に含みケーキを手に取るとそのまま海馬から伸ばされた腕に抱き寄せられてしまう。
フォークに刺さったケーキを思わず落としてしまいそうになる。
「海馬 急に危ないだろ!」
「貴様が注意していれば大丈夫だと思うが」
う〜・・・
言い返したいが口では、絶対に負けてしまう。
だから黙ってケーキを口に運んだ。それに腰に回されている腕が優しいから・・・
そうやってどれだけの時間が経っただろう?
出されたコーヒーもケーキも無くなった頃
「今日は、泊まって行くのだろう?」
何時もなら有無を言わせず勝手に泊まらせる海馬が確認してきた。
どう言う風の吹き回しかと思っていると
「今日は、何もしないだから俺の傍に居て欲しい」
と言って来た。
真意は、解らないけど泊まる事は、家族に言って来ているから問題は、全く無い。
確かにその後食事時でも風呂の中でも何もして来なかった。
ただ抱きついたり膝枕を要求してくるだけ・・・
そして気が付いたのだ。彼は、ただ甘えたいだけなのだと・・・
まぁ幼い頃に実の両親を死に別れ親戚中をたらい回しにされ挙句の果てには、施設行き。
イカサマで勝ち取った家族は、信じられないぐらいのスパルタ教育。親の愛なんて無縁の義父。
甘える術を知らずにして育ったのだ。
「遊戯 もう寝るぞ」
ソファに座っていた遊戯の腕を引っ張り寝室に促す。
(この男は、きっとベッドの中に入ってもオレに手を出してこないだろう。)
そう思い腕を引っ張られるまま寝室に向う。
そして2人ベッドの中・・・
遊戯が目覚めるまで本当に何も無かった。
本当こいつは、素直じゃよなぁ・・・
でも何だか可愛い〜
思わずクスクスと声を殺しながらを肩を揺らし笑ってしまう。
その振動の所為か
「貴様が俺より先に目覚めるなんて珍しいな」
背後から聞こえる声。
眠そうな声。
「起こしてしまったか?」
眠そうな声の海馬に申しワケ無い気持ちになる。
「イヤ構わんが起きるのには、まだ早い。もう少し寝ていろ」
更に強まる拘束。
暑苦しく感じる筈なのに何故か嬉しいと思ってしまう。
何故ならこの男が甘えるのは、後にも先にもオレにだけだから・・・
そしてこの温もりは、オレだけに与えられるモノだから・・・