傍
「遊戯 何がしたい?」
海馬が読んでいた書類を取り上げ遊戯は、海馬の膝の上に座った。
手にした書類は、宙を舞い床の上に散乱する。
その様に不快な色を瞳に乗せる海馬だがそれを微塵にも顔に出さない。
それが遊戯の癇にさわる。
「お前がオレを呼んだくせに一体何時まで待たせるつもりなんだ?」
「仕方が無いだろう?俺は、貴様と違って暇では、ないのだから」
多忙でなかなか逢う時間が出来ないのだ。それでも時間を作った。
だから少しぐらい待っていて欲しい。そう思う。
でも遊戯が海馬の元に来て既に2時間が経っていのだ。
幾ら海馬が多忙だと言っても逢う時間を作ってくれたと言っても待たせ過ぎたのだ。
「仕事の都合がつかないのなら呼ぶな!」
「貴様に逢いたいと思う気持ちを抑えていろとでも言うのか?
それとも俺に逢いたく無いとでも言うつもりなのか?」
眼鏡越しに睨まれる。冷たい蒼い瞳。
冷たいと感じるのは、瞳の色の所為。その奥には、苛立ちからか怒りにも似た青白い炎が見える。
「そんな事言ってない。オレだってお前に逢いたい!
でもそれは、海馬Co.総帥の海馬瀬人じゃない。オレと同じデュエリストでライバルの海馬瀬人に
逢いたいんだ!海馬Co.総帥のお前なんかに逢いたく無い。」
オレが好きになったのは、海馬Co.総帥じゃない。なのにお前は、オレの知らないお前のまま逢おうと
する。
それが嫌だった。
住む世界が違うと言われている様で・・・
スムセカイ・・・違うのは、当たり前か・・・
オレハ、元々コノ時代ニ属シテイナカッタ存在。
不確カナ存在。
幾らこの時代に復活を果たしたと言えど・・・
この時代で自分の足で歩いている海馬とは、違う。
急に黙りこむ遊戯。その表情は、不安気に哀しそうな色を浮かべて。
海馬は、そんな遊戯が愛おしく想い抱きしめてしまう。
「そんな顔をするな・・・」
自分の胸にスッポリ納まる華奢な躰。
「貴様にそんな顔をされると俺は、どうしてイイのか解らなくなる」
好きだから傍に居て欲しいと思う。
少しでも彼の存在を傍で感じたいと思う。
強く抱きしめてくる腕の強さに苦しさよりも安心感が心を躰を支配する。
「なぁ・・・オレお前の傍に・・・」
居ても良いのか?
最後まで言葉に出来ない想い。
否定されたら自分の心は、壊れてしまう。
だから海馬に顔が見られないように自分からも抱きつく。
何時もより早い鼓動を聞きながら・・・
「貴様以外 俺の傍に居る事なんて出来ない。」
俺が魂の底から望むのは、貴様のみ・・・
寧ろ貴様の傍に居るのは、俺でいいのか?
「だったらオレが傍に居る時は、オレだけを見ろよ。」
「貴様が望むのなら」
そう言うと海馬は、かけていた眼鏡を外しテーブルの上に置く。
「貴様も俯いていないで俺の方を見ろ」
至近距離で互いの顔を見あえば瞳に写るモノは、互いの姿のみ。
「『お前・貴様』の瞳に『オレ・俺』が写っているな」
無意識の内に浮かび上がる笑み。
短い時間なのか長い時間なのか互いの瞳に写る自分を見る。
次第に薄れる不安な想い。
そして新たに『傍に居て共に今の時間を歩みたい』と芽生える想い。
でもその想いは、決して口に出す事は、無い。
口に出さずとも互いが同じ想いだと思うから。
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ねえ 貴方にしか出来ない事だから我儘言ってイイからしら?
滅多に逢えないのだから一緒に居る時だけでイイの。
貴方のその瞳に私を写して
貴方のその口から私の名前を言って
貴方の事で私を満たして
貴方を私のモノだと感じさせて
そして私を貴方のモノだと思って
2人で居る時だけでいいか・・・
貴方の時間を私に頂戴。