贈り物


---24日夜---

遊戯の部屋に訪れた瀬人が目にしたのは、少し嬉しそうな表情をした遊戯の姿。

その手には、綺麗にラッピングされた小さな箱。

誰かに貰った物かと思ったが

「これか?これは、オレの大切な人の誕生日にあげようと思って買って来た誕生日プレゼント

だぜ」

遊戯が好意を寄せている相手・・・名前は、知らないが遊戯がソイツの事を思っている時の表情は、

本当に綺麗だと思う。

その相手が自分であって欲しいと願うのは、いけない事なのだろうか?

もしいけない事だと言うなら俺は、それでも構わない。

遊戯の心を独占したいのだから・・・

「明日ソイツの誕生日なんだ」

渡せるとイイな・・・

何処か儚さを感じてしまう。

(海馬・・・明日来るかな?あっでも・・・女の子達も海馬にプレゼント渡すって言ってたっけ

オレのプレゼントなんか多分『その他大勢』の中に入ってしまうか運が悪ければ受けとてもらえないかも

って言うかもし海馬が来なかったら?ぐぁ〜どうしたらいいんだ?)

まるで恋する乙女状態の遊戯。

発想も次第に悪い方へと進んで行き自滅状態に・・・

そんな遊戯を見ながら瀬人は、(面白い)と思いながらも遊戯が誰にプレゼントを渡すのか気になった。

(明日で遊戯が誰を想っているのか判明する。

もしソイツが遊戯を悲しませる様な事をすれば酷い目に合わせてやる!!)

と思いは、するものの

(これでは、ソイツと遊戯の関係が上手くいく事を願っている様では、無いか!!)

遊戯が見知らぬ者の所為で悲しむ姿なんて見たく無い。でも遊戯が見知らぬ者と幸せそうにしている

姿も見たくない。

どうしたらイイのか解らずベッドの上で壁に向いながら心の中で苦悶している瀬人。

結局この夜2人は、寝つけぬまま夜を空かした。

 

---25日---

(はぁ〜結局眠れなかったぜ)

どうやって海馬にプレゼントを渡すか一晩中考えた。

そしてその都度渡せなかった時の事まで考えてしまったのだ。

まぁ男が男に誕生日プレゼントって言うのも変かもしれない。

多分普通なら家に行って渡したりするんだろう。

でも自分と海馬は、そんな関係でも無い。では、どんな関係?と言われたら答え様が無い。

海馬にしてみれば自分は、ただのクラスメートの1人でしかないと思うから。

それに男からプレゼント貰ったって嬉しくないと思う。

って言うか海馬は、大金持ちなんだ自分が欲しいと思うものは、簡単に買えると思う。

朝からマイナスな考えしか思いつかずドンドン暗くなって行く遊戯。

教室に着く頃には、見に纏うオーラがドンヨリして周りに居る人を怖がらせてしまった。

(はぁ・・・それに今日海馬が学校に来るなんて解んないモンな)

カバンの中には、海馬に渡す予定のプレゼント。

自分の教室前に来て驚いた。

だって教室からはみ出る程女子生徒が溢れているから。

しかも上級生や下級生まで混じっている。

一体何事かと思ったので急いで教室に入ろうとしたが後ろの扉から入る事が出来ないので前の

扉から入る。

何故女の子が多く集まっているのかその原因が解った。

海馬が来たのだ。

今日は、彼の誕生日・・・彼の恋人になりたいと思う女の子や彼のファンが集まり彼にプレゼント

を渡しているのだ。

こんなに多くの人からプレゼントを貰っているんじゃ自分のプレゼントなんて『その他大勢』で

片付けられそうだ。

「おはよう遊戯 相変わらずイベント事が興ると海馬君の席の周りは、凄い事になるね」

余り興味が無いと言わんばかりの杏子の態度。

「おはよう杏子 仕方が無いぜ 海馬は、滅多に学校に来ないし来ても直に帰ってしまう

来ている僅かな時間でも傍に居たいんじゃないのか?」

自分だって海馬に近付きたい・・・

「そんな事言ってていいの?遊戯だって海馬君の事好きなんでしょ?」

顔を近付け周りの人に聞こえないように話しかける杏子。

彼女なりの気の使い方なのだろう。

「なっ・・・杏子何をいきなり!!」

唐突に言われ慌てふためく遊戯の姿に杏子は、優しい笑みを浮かべながら

「何年幼馴染みやってると思うの?遊戯の気持ちぐらい気が付いてるわよ」

言うと

「でもオレなんかが海馬に相手されるわけないし寧ろ迷惑かもしれない・・・」

少し俯き加減になる遊戯に

「あんたを振るような男は、それだけ見る目が無いのよ。

それに当たって砕けたって良いじゃない。それをバネにもっと素的な人になればいいんだから」

(ああ・・・アタシって何て馬鹿なの・・・アタシだって未だ遊戯に告白してないのに!

でも遊戯が幸せになってくれたらそれでいいわ)

顔で笑って心で泣いてしまう。

「杏子ありがとう 時間がかかるかもしれないけど海馬には、ちゃんと自分の気持ち

伝えるぜ」

まだ告白する勇気が持てないでも応援してくれる人がいるんだから言える気がする。

しかしそんな気持ちも海馬を取り囲む女の子達の前では、崩れてしまいそうになる。

 

+++

 

午後から天気が曇り出し何時降り出すか解らない状況

降らないで欲しいと願う。

 

海馬は、珍しく一日学校に居たのに遊戯は、海馬にプレゼントを渡す事が出来なかった。

(はぁ・・・何か疲れたぜ それにやけやたらと緊張する一日だったな・・・

ああ・・・結局海馬にプレゼント渡せなかったし・・・)

今尚カバンの中にあるプレゼント。

 

(今日一日遊戯の行動を観察していたが遊戯が例のプレゼントを誰にも渡さなかった。

もしかして忘れたとか?否もしかしたら登校時に既に渡したとか?)

海馬にしても疲れる一日だった。

興味の無い女に囲まれ欲しくも無いプレゼントを渡されその都度作り笑い。

これなら仕事している方が楽かもしれない。

 

ホームルームが終わりカバンを机の上に置きながら帰り支度をする遊戯。

カバンの中のプレゼントを見ながら

(ただの御荷物になってしまったな・・・)

海馬への誕生日プレゼント・・・今日渡せなければ意味が無い代物。

軽く溜息を吐くと下駄箱へ。

靴を履きかえ外に出てみればポツポツと冷たいモノが顔に当たる。

懸念していた事が現実に・・・雨が降って来たのだ。

杏子と城之内は、バイトがあるので急いで帰ってしまい本田も用事があるとかでやはり早く帰ってしまった。

こんな日に限って折りたたみ式の傘を忘れてしまうなんて最悪だ。

少しマシになったら走って帰ろうと心に決める。

 

遊戯が教室を出て行く姿を見送りながら海馬も帰り支度をする。

下駄箱に行くと空を見上げている遊戯の姿が・・・

靴に履きかえ遊戯が何を見ているのか見てみると空から降ってくるモノに気を取られている様だった。

「貴様 こんな所で何している?」

ドッキっとした。まさか不意に声を掛けられるなんて思ってもみなかったから。

「べっ別に・・・雨止むの待ってるだけだぜ・・・」

「傘は、持ってないのか?」

「忘れた・・・」

きっと笑われる・・・そう思った。でも返って来た言葉は、

「送ってやる」

耳を疑ってしまった。

だって殆ど話した事が無いのだ。

「何をやっている 来い」

そう言って腕を掴まれ雨の中を走り出す。

 

 

初めて遊戯の腕を掴んだ。

まさかこんなに細い腕だとは、思わなかった。

このまま力を込めたら折れてしまうかもしれない。

 

 

初めて触れられた・・・

胸が張り裂けそうな程脈打つ鼓動。

きっと顔が真っ赤になっているかもしれない。

だから心の中で《赤くなるな赤くなるな》って呪文の様に何度も唱えた。

 

 

夢かもしれない。

好きな人がこんなに近くに居るなんて・・・

腕を伸ばしたら触れられる距離・・・

 

 

 

「あっ・・・あのさ・・・海馬」

「ん?」

「お前今日誕生日だろう?」

「ああ・・・」

「誕生日おめでとう」

「!!」

(俺の誕生日を知っていたのか?)

まさか祝いの言葉を貰えるなんて思ってみなかった。

だから心の準備が全く出来ておらずそのまま海馬は、どう切り返して良いのか解らなかった。

「お前さぁ そのもっと学校に来れないのか?お前人気あるしきっと女の子達も喜ぶ・・・」

(ああぁ〜オレは、何を言っているんだぁ〜

でも海馬が学校に来る回数が増えたらその分オレも海馬を見るチャンスが増える・・・)

まともに働かない思考回路。

だっていきなりこんな近くに意中の相手が居たらまともな思考なんて出来ないと思う。

「そ・・・そう言えば今日女の子からもらったプレゼント・・・あれどうしたんだ?何か沢山貰ってただろう」

「部下に預けた。あれだけの量を持って帰れないからな」

(本当に欲しい相手からじゃないプレゼントは、只のゴミ。即廃棄処分してやる。

本当に欲しいのは、貴様からのプレゼントのみ・・・)

遊戯が誰かの為に買ったプレゼント・・・その行方が知りたい。

海馬は、先程遊戯を掴んだ掌を見ていた。

初めて人の姿で意識がハッきりしている遊戯に降れた。

今迄ネコの姿で遊戯に抱きしめられる事は、あったし寝ている遊戯に人の姿のまま触れる事は、あった。

 

(今・・・海馬にプレゼントを渡すチャンスなんだ・・・でも・・・)

渡す勇気が持てない。

そうこうしている内に遊戯の自宅に着いた。

遊戯は、降りる直線に前々から気になっていた事を訪ねる。

「あのさ このメアドと番号ってお前のなのか?」

以前知らない間に登録されていた『Seto Kaiba』の名前。

遊戯は、海馬に携帯電話を見せると

「ああ紛れも無く俺のだ。貴様が不愉快だと思うのなら削除すればいい」

淡々と言う海馬だったがその言葉の裏に隠された想いは、どれほどのモノか。

そうとも知らない遊戯は、少し嬉しそうに

「そうか・・・あっ送ってくれてありがとう!」

そして元気に礼を言って家の中に入っていく。

 

遊戯が自宅に入ったのを確認すると海馬を乗せた車は、ゆっくりと走り出す。

 

アノママ遊戯ヲ屋敷ニ連レテ帰ル事ガ出来タナラ・・・

遊戯ニ自分ノ想イヲ伝エラレタラ・・・

 

遊戯が自分だけに見せた笑顔それが今の自分の胸をどれだけ甘くしているか・・・

 

 

++++

 

雨の中 白い躯を濡らして瀬人が来た。

「お前 こんな雨の日まで出歩かなくても」

そう言いながら用意していたタオルで瀬人の躰を拭いてやる。

気持ち良いのかゴロゴロと喉を鳴らす瀬人。

床の上に置かれているカバンから見えたのは、昨日見たプレゼント。

(遊戯は、これを誰にも渡さなかったのか?それとも渡せなかったのか?)

瀬人は、カバンの中にあるプレゼントを引っ張り出す。

「瀬人!!こら 出すんじゃない! それは・・・捨てるんだから・・・」

(今日渡さなければ意味が無い・・・そして既に意味を無くしてしまっている・・・)

瀬人は、それを口に咥えたまま離そうとしない。

必死に低紅してくる。

(何故俺は、こんな誰とも解らぬ者に贈られる予定だったプレゼントに拘る?)

離してしまえばいいのに・・・でも気になる・・・

瀬人の低紅に観念したのか遊戯は、溜息を吐くと

「解った それ瀬人にあげる。でもネコのお前が貰ったて使い道は、無いんだぜ?

それは、人間が使うモノだから・・・ってオイ!!」

瀬人は、プレゼントを口に咥えたまま雨の中を自分の屋敷に向って走り出した。

濡れる事なんて何とも思わない。

早くコレを開けたいのだ。

心が急く・・・早く開けろ・・・と。

その心に逆らう事が出来ない。

 

瀬人は、屋敷に戻ると器用に木をつたって部屋の中に入る。

軽く身震いをすると伸びをし人の姿に戻る。

濡れたままの躰。

こんな姿をモクバが見たら急いでタオルを持って来るだろう。

躰を拭くより先にプレゼントの包装を剥がす。

小さな箱を開けると二つ折りにされたメッセージと蒼い石の付いた高価な代物では、無い

ネクタイピンとカフスボタン。

明らかに男に贈る予定だった事が解る。

(遊戯が好意を抱いているのは、男なのか?)

見知らぬ誰かに渡す予定だったモノそれなのに不思議な事に悔しいとは、思わない。

二つ折りにされたメッセージを見るとそこに書かれてあったのは、

『海馬へ

誕生日おめでとう』

祝いの言葉・・・

 

蒼い瞳が大きく見開き食い入る様に何度もそのメッセージを読みなおす。

まるで書かれている内容が理解出来ないとでも言う様に。

(このプレゼントは、俺宛ての・・・遊戯が・・・俺に?)

 

夕べ遊戯が言っていた言葉を思い出す。

「これか?これは、オレの大切な人の誕生日にあげようと思って買って来た誕生日プレゼント

だぜ」

遊戯にとって大切な人と言うのは、俺の事なのか?

遊戯は、俺に好意を抱いてくれているのか?

 

俺ハ、期待シテ良イノカ?

 

今迄いろんな人からプレゼントを貰った。

でも嬉しいなんて感じた事無い。何も感じなかった。ただ鬱陶しいだけだった。

それなのに今は、嬉しいと感じる。

もしここに遊戯が居れば抱きしめキスをしただろう。

時計を見れば23時56分・・・

日付が替わる前に最愛の人から貰う事が出来た。

正直諦めるつもりだったのに。

 

 

 

後日 海馬は、それを身に付け仕事に励みながら時折カフスボタンを見ながら遊戯を思い出す。

(早く貴様に逢いたい・・・俺の気持ちを貴様に伝える為に・・・)



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