重奏
コンコン・・・
部屋をノックする音。
しかし部屋の主は、そのノック音に対して返事を返さない。
ノックしている相手が誰だか解っているからだ。
この家には、2人しかない。
返事を待たずにして扉が開かれる。返事が返って来ない事が解っているから待つ必要が無いと言う事だろう。
「こんな時間までデッキの構築?余り根を詰めると躰に毒よ」
ニコヤカに入って来るのは、学生時代からの恋人にして家族以外に安らぎを与えてくれる相手、天上院明日香。
彼女は、アカデミアを卒業後、亮の元に転がり込んで来た。別に行く宛てが無いわけでは、無い。
駆け出しとは、言え彼女もプロのデュエリストなのだ。
彼女に言われ窓の外を見ると既に外は、暗く月が顔を覗かせている。
「ああ・・・もうこんな時間なのか。カードを見ながらいろんな可能性を見出そうとしていたら時間が経つのが
早いな・・・」
「デッキには、いろんな可能性があるものね。でもその可能性を引き出す貴方が躰を壊したら元もこうも無いと
思うんだけど」
亮は、翔が自分のデッキをアレンジし勝利した事を思い出す。
自分でもう成長も進化もしないと思っていたのに翔は、自分達もカードも成長と進化をすると教えてくれた。
そんな翔の想いに自分のサイバー・デッキは、答えた。
そして無限の可能性を見せてくれたのだ。
カードの枚数分だけ確かにいろんなコンボが見出せる。
そのコンボの分だけ進化も成長もある。
「翔君にデッキを託した事後悔してる?」
明日香は、亮の真横に達カードを眺める亮の姿を見つめる。
「いや 後悔は、していない。俺は、この新しいデッキで自分の可能性を導き出すつもりだからな」
「でも新しいデッキとの絆を築くのは、並大抵の事じゃないわ。」
「でも最初は、誰しもが通る道だ。最初から有る絆なんて血の絆ぐらいだろう」
「そうね・・・繋がりは、これから築けばいい・・・」
明日香もデッキを新たに構築した時の事を思い出す。
カードの数だけある可能性。その可能性にどれだけ想いを寄せた事か・・・
今もその気持ちを忘れていない。
デッキは、小さなオーケストラ。
幾重もの想いと乗せフィールドで華麗な音楽を奏でる。
「じゃ そのデッキが扱える様に早く元気にならないと。」
その指揮者が指揮を取れないのでは、意味が無い。
「そうだな」
(今のままじゃ。カードを扱えない。早く元気になって新しいデッキの可能性を見てみたい。)
亮は、テーブルの上に出してあったカードを集めデッキホルダーに収納した。
早く このデッキを使いたい。
亮がデッキを直し終わると明日香は、車椅子の押しながら
(貴方のデュエルをもう一度私に見せてね デッキが貴方の光なら私は、貴方を羽ばたかせる翼になりたい)
口に決して出す事の無い想いを胸に秘めながら。