秘め始め
「なぁ海馬 新春早々に見る縁起のイイ夢ってなんだ?」
「急にどうしたんだ?」
新年の挨拶そっちのけで訊ねて来る遊戯に隣で横になっていた海馬が問い返す。
冬休みに入り遊戯は、海馬の屋敷に泊まりに来ていた。
当初遊戯は、連日多忙を極める海馬の躰を気遣って客室に泊まると言い張っていたが「同じ屋根の下に
居る恋人の顔を見れんのは、精神的によくない!!」と海馬に押しきられ海馬の部屋を使わせて貰っている。
「相棒が年初めに縁起の良い夢を見るとその年は、良い事が起きるって言ってたから」
「だったら何故もう一人の方に聞かなかったのだ?」
「聞いたぜ でもそう言う事は、海馬に聞いた方が良いって言うから・・・」
そう言いながら遊戯は、休み前に<遊戯>と話していた事を思い出す。
『普段余り海馬君と話ししてないんでしょ?だったら他愛の無い事を会話のネタにすると良いよ』
『他愛の無い事?』
『そうだね・・・初夢の事とか・・・今年一年の抱負とかさ』
海馬君は、初詣とかに行きそうにないもんな・・・もう一人の僕とベッドの中に居そう〜
『初夢?』
『その年の最初に見る夢で縁起が良いとされている夢があるんだよ』
『どんな夢なんだ?』
不思議そうに訊ねて来る遊戯。
その年最初に見る夢なら全て初夢だと思う。
確かにそうなのだがその年最初に見る夢で縁起を担ぎたい場合に見る夢がある。
『それは、海馬君に訊ねるといいよ』
それが他愛の無い会話になるんだから
海馬の腕の中で急に黙り込む遊戯。
自分から遊戯の意識が反れている事が面白く無い海馬。
「貴様この俺の腕の中に居て上の空とは・・・」
不機嫌そうな声で海馬を見つめれば蒼い瞳には、嫉妬の炎。
「だって・・・オレは、縁起の良い夢って何なのか知らないんだぜ・・・相棒は、海馬に聞けば良いって言うし
海馬は、答えてくれないし・・・」
無意識のなのだろうか遊戯は、己の上半身を海馬の上半身に重ねてくる。
真直に見える紅い瞳。
何時も見ている紅い瞳に何故かドキドキさせられる。
しかも困っているその表情が余りにも可愛い。
「別に・・・教えんとは・・・言ってない」
思わず顔が朱に染まりそうになる。非ィ現実的な事だと解って居るが心の中で(赤くなるな赤くなるな)と
呪文の様に唱えてしまう。
簡単な台詞でさえ一気に言えない。
「だったら教えてくれよ」
「いいだろう・・・良く聞け。縁起の良い夢とは、一派的に〔一富士〕〔ニ鷹〕〔三茄子〕が代表なのだがこれ以外
にも〔四扇〕〔五多波姑〕〔六頭巾〕と続く。」
遊戯の小さな双丘の片方を鷲掴みし揉みしだく。
それが煩わしいのか何度も叩き落す遊戯。
今は、話しをしたいと言う意志表示なのだろう・・・
「初夢って6個も有るのか・・・って〔五タバコ〕って未青年がそんなの吸う夢を見ちゃいけないんだぜ」
「これは、その当時タバコが高価なモノだったと言う事とタバコの煙が空に向って行く様が上昇を意味し縁起が
良いとされたのだろう」
そう言われてみればタバコの煙が下に向って行く所なんて見た事が無い。
「それに当時のタバコは≪多波姑≫と書いたんだ」
サイドテーブルの引き出しからメモとペンを取り出し綺麗な字で書いて行く。
「今と違うんだな」
今のタバコは≪煙草≫と書くからだ。
メモとペンをサイドテーブルに置くと海馬は、遊戯の腰を抱き抱え上下の位置を変える。
「〔富士〕は〔不死〕もしくは、〔無事〕を意味し〔鷹〕は、〔高い〕そして〔茄子〕は、〔成す〕を意味していると
言われている」
海馬の手は、遊戯の躰のラインをなぞりながら遊戯をその気にさせ様としているが遊戯は、流されまいと何度
も海馬の手を叩く。
「じゃ〔扇〕や〔頭巾〕にも意味が有るのか?」
「〔扇〕は、末広がりで子孫繁栄や商売繁盛。〔頭巾〕は、法師を意味し法師には、〔毛が無い〕と言う所から
〔怪我無い〕と言う言葉に置きかえられて家内安全。と言われている。」
「〔頭巾〕だけ洒落なのか?」
「江戸時代には、既に〔一富士・ニ鷹・三茄子〕は、有ったと言うから残り3つは、その後に追加でもされたの
だろう さてそんな事より〔秘め始め〕と行こうでは、ないか」
「ひめ・・・んんん・・・」
〔秘め始め〕って何だ?と問うつもりだった遊戯。しかしそんな事にまで一々丁寧に答えていたら行為に及べ
ないと判断した海馬は、遊戯の口を封じた。
頭を振りなんとか口付けから逃れ様とするがそれを許そうとしてくれない仕方が無いので海馬の舌先に噛み
ついてやる事にした。
「っ・・・」
舌先に感じた痛みに離れる海馬。
「まさか年明け早々に貴様に噛みつかれるとはな・・・」
「はぁはぁはぁ・・・海馬がいけないんだぜ・・・」
「ほ〜うどうしてだ?」
俺は、言葉でヤル事を宣言したのだ。ヤルのは、当たり前。言葉の意味を知らぬ無知な貴様が悪い。
そう言いたそうに遊戯を見つめるが
「モクバに新年の挨拶をしてないぜ」
ってそう言えば海馬にも新年の挨拶してなかった・・・(滝汗)
「確かに・・・モクバに挨拶が終わってから貴様を頂いても遅くは、無いし御馳走は、腹を空かしてから食べると
美味しいらしいからな」
ニヤニヤしだす海馬に何か嫌な予感がする。
それでもモクバが居たら夜まで襲われる心配は、無いと思った遊戯は、汚れた身を清めるべくシャワーを浴びた。
一人でも入れると言うのに何故か海馬まで一緒だ・・・遊戯の抵抗もモノともせず大事な所を解して来たのだ。
数分後・・・・
「兄さま・遊戯明けましておめでとうだぜ!!」
勢い良く新年の挨拶をしてくるモクバに遊戯は、燻る熱を身の内に抱えたまま挨拶をする。
海馬も遊戯の隣で何時もと同じ態度でモクバに挨拶をするとお年玉を手渡す。
お年玉と言っても小切手と数枚の万札。
小切手をお年玉にするあたり海馬らしいと思ったが海馬が言うには、現金をそのまま渡すとお年玉袋に入らない
から小切手も入っているそうだ。
それに満額小切手にすると年明けそうそう銀行が開いてないので換金出来ないので小切手と現金を渡している
そうだ。
遊戯からも海馬程では、ないがモクバにお年玉を渡すと満面の笑みで
「ありがとう」
と喜ぶモクバの顔に遊戯もつられて笑みを浮かべる。
「あっ兄さまオレ出かけてくるね」
「えっ!!!出かけるって・・・」
そんな話し事前に聞いてない遊戯。それは、海馬も同じだったが全く驚く様子がない。
寧ろモクバの思惑に気が付いているようで
「怪我が無い様にするんだぞ」
「は〜い」
元気良く玄関の扉から出て行くモクバ。そうして見送る海馬。
遊戯は、顔面蒼白になりながら唖然としてしまう。
(どうしよう〜このままココに居たら海馬に喰われてしまうぜ・・・モクバが居たらゲームとかで海馬を御魔化した
のに)
モクバは、海馬の弟なのだ。海馬が何を望んでいるのか小学生ながらに解っている・・・解っているのだが
それって小学生らしくない行為だと思う。
「新年早々兄さまの機嫌を損ねるつもりなんて毛頭に無いぜ」
微動だにしない遊戯を海馬は、お姫様だっこで抱き上げると階段を上がり自室に向う。
「かっ海馬!!」
抱き抱えられた事に驚いた遊戯がジタバタ暴れ出す。
「そんなに暴れては、バランスを崩し落としてしまうかもしれんな」
遊戯が暴れる事に対し何とも思わないが大人しくしていて貰う事にする。
案の定大人しくなる遊戯。
遊戯にだって海馬が本気で言っているとは、思えないが用心にこした事は、無い。
それに襲われそうになったら逃げたらいいのだ。
ベッドの上に静かに寝かされる遊戯。落される口付けを甘んじて受け入れる事にした。
それは、この行為を承諾したからでは、無い。
海馬自身を油断させる為だ。この男が油断しないと自分が危ない。
しかし遊戯は、大事な事を忘れていた。海馬から施されるキスは、遊戯を蕩けるさせるには、充分で今迄
何度もその罠に落ちている事を・・・
「ふぅん・・・んん・・・」
海馬の胸元のシャツに皺が出来るほど掴んでしまう。
(くそ〜気持ちが良いぜ・・・このままじゃ何時もの通り流されてしまう・・・)
そう思うと頭を左右に振り抵抗を試みる。
大人しかった遊戯からの抵抗に訝しむ海馬。
(この俺を拒否しようとでも言うのか?拒否なんてさせない貴様は、俺のモノだ)
裾から忍び込む手にゾクゾクしてくる本当にこのままだと流されてしまう・・・そんな気持ちから遊戯は・・・
!!
急に遊戯から離れた海馬。
その口の端からツーと紅い筋が流れ出る。
その流れる筋を指で拭いながら
「貴様 どう言うつもりだ?」
「それは、こっちの台詞だぜ」
潤んだ瞳で海馬を睨みつける遊戯。
自分だけを写し出す遊戯の紅い瞳が心地良い。
それが怒りであれなんであれこの瞳に写る事が出来る・・・それが海馬を興奮させる。
「『秘め始め』って何なんだよ!!」
まさかそんな質問されるとは・・・
仕方が無いが簡単に答えてやると
「じゃ・・・その年初めてする事が『ひめ始め』って言うのか?」
「ああ・・・性行為を意味する様になったのは、ココ近年の事だ」
そんな事より自分は、早く遊戯と『秘め始め』をしたい。
身の内に溜まった熱を発散させたい。
今一度遊戯に圧し掛かろうとすると
「『ひめ始め』しよう・・・」
その言葉に動悸がする軽くだが眩暈もしてくる。
やっと遊戯がその気になってくれた・・・そう思いたかった。しかし
「オレ達の『ひめ始め』は、こんな事じゃないぜ」
そう言って遊戯は、海馬の下から抜け出し床の上に座る。
「オレとお前の『ひめ始め』は、ベッドの上じゃ出来ないぜ」
床の上から挑発してくる遊戯。
「俺と貴様の『秘め始め』は、ベッドの上でするのだが?」
まさか遊戯は、床の上でヤリタイのか?
海馬の脳内では、艶めかしく悶える遊戯の姿が・・・
「お前・・・Hな事をする事しか思いつかないのかよ?オレ達の『ひめ始め』は、デュエルだぜ」
デュエル・・・その言葉に反応しない海馬では、無いが・・・まさか年初めに行う事が性行為では、無くデュエル
と言うのが納得出来ない。
「・・・そんな顔をするなよ。ただのデュエルじゃないんだぜ?」
ただのデュエルじゃない?
「アンティ・デュエルなんだぜ」
アンティ?
「お前が勝てばオレを好きなように出来るんだぜ?それでも嫌か?」
遊戯とデュエルが出来て勝てばその華奢な躰を堪能出来ると言うのか?
「1回勝てば1発しか出来ないと言うオチは、無いだろうな?」
例えそうだとしても何発でもしてやる!!
「そんな事無いぜ。お前の場合1回で済ますつもり無いだろう?」
「当然だ」
そんな事自信満万に言わなくても・・・
「じゃ・・・デュエルするよな?」
「貴様との性行為が賭てっているからな」
そんなの賭けてないぜ
でも新年早々海馬と本気のデュエルが出来る事が嬉しい。
急いでデュエルの準備をする海馬と遊戯。
当然の事だがこの2人のデュエルこそ1回で終わらず午前に始まったデュエルは、翌日まで続いた。
その勝利は,どっちが納めたかは、当人とカードのみが知る・・・
---「ひめ始め」の別の言葉---
・飛馬(ひめ)始め - 乗馬初めの日。
・火水(ひめ)始め - 火や水を初めて使う日。
・女伎(ひめ)始め - 衣服を縫い始める日。
・秘め始め - 夫婦が初めて秘め事をする日。
・姫糊始め - 女性が洗濯・張物を始める日。