撮影の合間で・・・1
(紅玉-至高の宝-番外編)
「よう!!」
[紅玉-至高の宝-]の撮影が始まって早々、僕は、もう一人の僕に付き添ってスタジオ入りをした。
僕の出番は、もう少し先なんだけど1話目がどんな内容なのか知りたくって・・・
誰よりも逸早く話しの内容を知る事が出来るのは、出演者とスタッフの特権だよね。
今回の話しで出演が有るのかどうか不明だけど城之内君も誘ってみた。
撮影中は、何かとピリピリした空気が漂う。
それだけ緊張しているのだから仕方が無い。人によっては、休憩中もそのピリピリした雰囲気を持っている
人も居るのだけど・・・
「なぁ <遊戯>今回の撮影何だか異様な空気を漂わせていないか?」
何時も呑気な城之内でさえ気付く異様な空気。
<遊戯>は、城之内の腕を突っつきながら指指す。
その指先には、異様な空気を纏った海馬の姿があった。
「この異様な空気の根源は、アイツなのか?何で異様な空気を発してるんだ?」
普段から真ともなオーラを発しているとは、言えない海馬なのにこの異様さと言ったら・・・
背筋から否な汗が出そうだ。
「城之内君今回の台本読んだの?」
少し呆れ口調で言うと
「あっ?今回のドラマに俺の出番があるかどうか解んねぇから読んでない」
それでも城之内にもオファーがあった筈。
「一先ず これ1話目の台本なんだけど読んでみて」
台本を読んでない所は、城之内らしいと思う。
渋々と言った感じで台本を受け取り読み出す城之内。
「うぉぉぉぉ!!!!海馬のヤツ初っ端から女とヤリタイ放題かよ!!かぁ〜羨ましい」
ココにハリセンが有ったら1発バシっと入れたい所だけど・・・
「もう〜城之内君ちゃんと読んでよ〜」
「あっワリワリ・・・」
何時ものオチャラケタ感じで謝る城之内が何だか『可愛い』と思えてしまう。
暫く無言で台本を読んでいた城之内だったが
「今回 1話目からの海馬と遊戯の絡みが少なくねぇか?」
「そう それが問題なんだよ。只でさえ海馬君ってオカルト嫌いな上に普段から社長業が忙しくてもう一人の
僕となかなか逢えない状態なのに撮影でも2人で居る事が無いでしょ?だから欲求不満状態らしくって
モクバ君が溜息を吐いてたよ」
「オカルト嫌いで社長業が忙しいんならドラマに出なきゃいいのに」
「そうも言ってられないんだよ。この話しは、進むに連れてもう一人の僕とのラブシーンがあるんだって。
もう一人の僕が他人とのラブシーンをあの海馬君が許す筈無いでしょ?」
「確かに・・・」
海馬がどれだけ遊戯の事を想っているのか傍から見ていても一目瞭然なのだ。
もし他人とラブシーンを演じよモノなら相手が酷い目に遭う事この上なし。
「じゃ・・・そのシーンの為だけに海馬のヤツ忙しい仕事の合間をぬって撮影に挑んでるのか・・・
で・・・アイツ等何日逢ってないんだ?」
「撮影前だと2週間は、逢って無いし撮影が始まってからも撮影現場以外では・・・」
撮影前に逢ったのも海馬Co.が今度出すゲームのCM撮影の時なので多分プライベートな時間では、5週間
近く逢ってない筈。
「海馬のヤツ。撮影中に切れなきゃいいんだけどな」
「ははは・・・城之内君そんな恐ろしい事言わないでよ」
只でさえ海馬の纏うオーラに畏怖する人だって多いし真に受ける人だって居るのに。
「あの・・・<遊戯>さん遊戯さんの居所を知りませんか?」
恐る恐る訊ねて来るのは、助監督の三沢。
「もう一人の僕なら手洗いに行ってるから直に戻ってくよ・・・って噂してたら戻って来た。」
外からスタジオに入って来ようとしている遊戯。
三沢は、嬉しそうにイソイソと早歩きで近付いて行く。
「三沢君も大変だね。」
「?」
「多分 もう一人の僕に海馬君の機嫌を取って貰う様に頼んでいるんだと思うよ」
「何で海馬なんかに気を使うんだよ」
「誰も海馬君が怖くて近付けないんだよ。それに不機嫌な海馬君に堂々と近寄れるのは、もう一人の僕
ぐらいだろうからね」
僕が言っても聞く耳無いだろうし城之内君だと喧嘩になるから。
その点もう一人の僕が相手だと惚れた弱みで牙も爪も無くした猛獣でしかない。
「もう一人の僕は、海馬君専用の猛獣使いだもんね」
「海馬って・・・猛獣の類なのか?」
三沢に何か言われた遊戯が向った先は、海馬の元
「何 不機嫌そうな顔してるんだ?折角オレと逢えたんだもっと嬉しそうな顔をしろよ」
椅子に座る海馬を見下ろす紅い瞳。
「フン 貴様に触れられぬのでは、つまらん」
「子供みたいに駄々を捏ねるなよ」
「誰が子供なんだ?」
「お・ま・え」
「貴様ぁ〜」
何時もは、冷たささえ感じる蒼い瞳に熱が灯っている。
(ああ・・・コイツもやっぱり生きている人間なんだよなぁ)
そんな事を思わされる。
「明日撮影は、オフだけど海馬の方は、どうなんだ?」
海馬は、海馬Co.の社長業もこなしているそれ故になかなかオフと言うモノが無い。
「・・・空いているが・・・」
本当は、予定を入れるつもりだった。
でもなかなか逢えない遊戯を誘い2人っきりで過ごす時間が欲しくて空けていた。
だがどう誘って良いのか解らなかった。
海馬が纏っていた異様なオーラは、遊戯に触れられぬ欲求不満と撮影現場で逢ってもなかなか2人っきり
になる事が出来ずストレスが溜まり出していた所に降って湧いたオフの話し。
遊戯と一緒に居る時間を折角手にしたのに最愛の人 遊戯と一緒にオフを過ごそうと思ってもどう誘って良い
のか解らずモヤモヤしているところだった。
そんないろんな思いが入り混じった異様な空気・・・
幾ら頭脳明晰でも人の心は、どうしようも無いのだ。
特に恋心は・・・
「だったら泊まりに行くから久しぶりにデュエルしようぜ」
「デュエル・・・」
「ああ 最近全然してにないだろ」
無邪気な笑顔を海馬に向けながら誘う遊戯だったが・・・
「俺は、貴様との夜のデュエルなら大歓迎だ」
なかなか遊戯に触れられない海馬にしてみればアンティじゃないデュエルには、気持ちが動かない。
好きなM&Wなのに・・・そこまで欲求不満状態なのだ。
「お前って本当にヤル事しか考えてないのか?」
思わず海馬の片頬を摘まみながら言うと、それが鬱陶しいのか頬を摘まむ指を払いながら
「どれだけ貴様に触れていないと思う?」
「う〜ん・・・かれこれ2ヶ月かな?」
上向き加減でおどけた様に言うと
「かな?・・・じゃない!!2ヶ月もだ!!いい加減俺も己が欲求を抑えられん。
貴様の蕾を広げその中に入り貴様の蠢く熱を感じたい。
貴様の蜜も味わいたい」
そこまで言われて遊戯の顔が次第に朱に染まり出す。
「そっ・・・そんな事アッケラカンと言うなよ。恥かしいヤツだな」
「虚偽ならぬ真実だからな。貴様は、俺に触れたいと思わないのか?」
蒼い瞳が自分だけを写す。
何て心地良いんだ。このまま写して居て欲しい。
「触れたくないワケじゃないぜ」
「だったら・・・」
先を言おうとする海馬の口に人差し指を押し当てて
「クランクアップしたらしようぜ。それまでお預け・・・御馳走は、お腹を空かしてこそ美味しいんだろう?」
「うっ・・・」
確かに遊戯程の御馳走は、空腹になればなるほど旨味も増すがそれじゃそれまでに餓死してしまいそうだ。
「俺に餓死をしろと言うのか?」
「お前が餓死する様に見えないんだけど」
先ほどまでの異様な空気が薄れて行く。
「遊戯が海馬に話しかけた途端空気が変ったな」
「そりゃ〜そうでしょ?恋焦がれている相手に話しかけられて否な顔出来ないよ」
(海馬君って有る意味扱いやすいのかもしれない)
遠捲きで成り行きを見守る城之内と<遊戯>。
「貴様に聞いておきたい事がある」
「?」
「俺が女とベッドシーンをしても貴様は、平気なのか?」
恐ろしいぐらいに見据えてくる蒼い瞳。
どんなに神経が図太い人でもこの蒼い瞳に見据えられたら畏怖するだろう。
そんな蒼い瞳を物ともせずに紅い瞳は、涼しげに
「仕事だから仕方が無いぜ」
「何だと・・・」
それとは、対象的に怒りに満ちる蒼い瞳。
「これがプライベートならただじゃ済ませないけどな。
あっもしかしてお前ベッドで相手した女の子に惚れてしまい易いのか?」
・・・プライベートなら・・・遊戯は、嫉妬してくれるのか?
「フン ベッドを共にしただけで惚れる程俺は、易くないが」
口をへの字に曲げて言う海馬。
「まぁ お前が浮気するとは、思えないけどな。
だってお前のココは、オレの物だからな」
遊戯は、海馬の胸に指を差しながら自信満万に言う。
海馬は、一つの事に対して物凄く執着する。
それは、人に対しても同じだと思う。そしてそんな海馬が執着しているのが遊戯なのだ。
「では、貴様のココは、俺の物なのか?」
海馬も遊戯の胸を指差すと。
「オレの心を拘束出来るのは、お前だけだと思うんだけど」
自信に満ち溢れた笑顔。
その笑顔に胸の鼓動が高鳴る。
只でさえ有りえない事だがプライベートで遊戯以外の者とベッドに共にしたら遊戯は、嫉妬してくれる。
そう思うと気持ちに抑えが効かなくなりそうだ。
「次の撮影を始めます。」
三沢の声に持ち場に戻り出すスタッフと出演者。
短い時間とは、言え折角遊戯と2人っきりで話していたのに・・・不機嫌そうな顔をしつつも遊戯になだめられ
渋々とセットに戻る海馬。
<遊戯>は、遊戯に海馬と何を話していたのか訊ねると
「泊まりがけでデュエルをする約束をしてたんだぜ」
の言葉。
(君は、デュエルだけで済ますつもりなんだろうけど海馬君がそれだけで済ましてくれるかどうか・・・)
「なぁ Hシーンって・・・」
「別撮りだから僕は、知らないよ」
「あっそうなんだ・・・ってそうじゃなくて!!もう一人の遊戯は、海馬が他のヤツとする事に怒ってなかったのか?」
「表面上は、怒ってないよ」
「表面上?」
海馬が女性との絡みシーンが余りにも多い事に遊戯がショックを受けているのでは・・・と危惧した<遊戯>
は、遊戯にその事で訊ねてみると
『仕事だから仕方が無いぜ』
複雑な表情を浮かべていたが
『これが現実だと別れるぜ』
と言ってた。
本当は、仕事でも海馬君が他の人と絡むシーンなんて許したくないんだろう。
(当然といえば当然だと思う)
素直じゃないね君も・・・