告白


磯野さんに海馬君のスケジュールを事前に確認していた。

だから今日、彼が屋敷に居る事を知っていた。

こんなやり方は、正直言ってフェアじゃない事ぐらい解っている。

恋のライバルは、既に冥界に帰って現世に居ない。チャンスだと思った。

それに僕は、もう一人の僕と瓜二つ・・・

海馬君の心が揺れ動くかもしれない。

 

淡い期待。

例え自分がもう一人の遊戯の身代わりだとしても構わない。

それが何時しか本物の恋に代わる可能性があるのなら・・・

もう一人の遊戯は、頻繁に海馬邸に出入りしていたのだろう。警備の者が簡単に通してくれた。

メイドも甲斐甲斐しく礼をしてくれる。

それだけでも彼との違いを感じてしまう。

海馬にとってどれほど遊戯の存在が大きく大切にしていたのか・・・

執事によって海馬の部屋まで案内される。

深呼吸をし気持ちを落ちつかせてから数回ノックをすると「入れ」の言葉が聞こえて来た。

煩いぐらいに鳴る心臓。耳を塞いでしまいたくなる。

それでもドアノブに手をかけゆっくりと開ける。

 

そこに居たのは、遊戯が今迄見た事も無い海馬の姿。

ソファに座りフレームの無い眼鏡をかけハードカバーの本を読む海馬の姿。

ドキドキがピークに達してしまいそうだ。

それでも確実に一歩一歩と室内に足を進める。

自分も座っていいのか迷っていると

「座れ。・・・で・・・何の用だ?」

淡々とし口調。目も本から上げない。

<遊戯>は、海馬と向きあう形で座ると

「海馬君 本を閉じてくれる?」

「貴様に指図されるいわれは、無い」

「僕の話しを聞いて欲しいんだけど」

「これでも充分に聞ける」

そう言って<遊戯>の方を全く見ようとしない。

そんな海馬を見て(海馬君らしいや・・・)と呆れてしまう。

海馬にとって興味を抱く相手は、後にも先にも遊戯しかいないのだ。

 

<遊戯>は、軽く深呼吸をすると

「そのままでいいから聞いていてね。僕は、海馬君の事が好きです。

海馬君にとって僕の事は、興味無いだろうけど・・・」

言葉の末尾が小さくなってしまう。

勇気をふり絞って何とか言えた言葉・・・

「それでそんな事を言って俺にどうしてもらいたい?『貴様を受け入れてやる』とでも言って欲しいのか?」

<遊戯>の告白を受けても動じる事の無い海馬の態度が何故かホッとした。

彼の心が遊戯への想いが全く揺らいで無い事が何故か嬉しかった。

「そうだね・・・確かに僕を受け入れて欲しいよ・・・でも何故か僕を受け入れて貰えない事が嬉しく

思えたんだ。」

「告白して振られたと言うのに嬉しいのか?ワケが解らん」

「本当は、ショックを受けるんだろうね。でもね・・・君がもう一人の僕の事を今も想っているって思うと何故か

振られる事に納得してしまったんだ。ゴメンね変な事言って・・・

でも君を諦める事が出きるよ」

もう自分の用は、済んだ・・・そう思うと<遊戯>は、立ち上がり扉へと向う。

そんな<遊戯>に何の言葉もかけない海馬。

彼にとって遊戯以外の人間には、関心が無いのだ。

バタン・・・

閉められる扉。室内には、<遊戯>の姿は、もうない。

結局海馬の瞳を自分に向ける事が出来なかった。

あんな状況で海馬を向かせる事が出きるのは、もう一人の遊戯でしかない事を痛感させられた。

自分の気持ちを打ち明けられる事が出来てなんだか胸の中がスッキリした。

多分、告白をして振られたらショックで泣くんだろうけど・・・何故か涙が全く出ない。

<遊戯>は、階段を降り出口に向う。

 

 

 

 

 

部屋で読書をしているとノックの音無く勢い良く扉が開いた。

「なぁ海馬 相棒が来たって本当なのか?」

姿を現したのは、海馬にとって最愛の人 遊戯。

<遊戯>が来た事情報を何処で仕入れて来たのか知らないけど・・・

この屋敷の者は、皆 遊戯には、相当甘い様だ。

「ああ 来ていたが今しがた帰ったぞ」

その言葉と同時に遊戯の足が廊下の方に向いたが行かせまいとする海馬の心の方が逸早く反応し

「何処に行くつもりだ?」

声をかける。

「折角相棒が来たんだ。話しぐらいしてもいいだろう?」

顔を海馬の方に向け少し口を尖らせて言う。

遊戯との距離を数歩で埋め海馬は、背後から遊戯を抱きしめながら。

「今のお前は、国籍が無いのだぞ?もし警察に職務質問をされてみろ何と答えるつもりだ?

馬の骨なんぞ。それこそ簡単に捕まりそうだな。

それにそんな貴様と<武藤遊戯>が会っていたら身元不明の貴様を匿ったと疑われ警察に捕まるだけだ。

人身売買をやっているヤツにしたってそうだ身元の解らない貴様ほど売りやすいヤツは、居ないだろう。

闇ルートで臓器売買をしているヤツに捕まれば貴様は、あっと言う間に臓器を奪われ残りは、海にいる

魚の餌だ。」

海馬の言葉を耳元で聞きながら次第に遊戯の躰が強張って来る。

「貴様は、俺の傍に居ればいい・・・俺が貴様の身を護ってやる・・・」

強く抱きしめられる。

「お前にだって警察の手が伸びるんじゃ・・・」

「伸びないさ」

「?」

「権力を振りかざす連中も所詮人間。金でどうとでもなる」

海馬の言葉には、背筋が寒くなりそうだ。

だが海馬なら簡単に金で解決させしまうだろう。

「遊戯 近日中にアメリカに発つぞ」

耳朶を噛まれ低い声で囁かれると背筋がゾクゾクする。

「何故?」

国籍の無い自分にパースポートなんて発行される筈なんてない。

「俺の自家用機でアメリカに向い挙式を上げる」

遊戯の考えていそうな事なんてお見通しだ。

「・・・国籍も・・・戸籍も・・・無い・・・ハァ・・・ンン・・・」

胸を弄られ思わず声が漏れる。

「そんな事 俺に任せておけばいい。貴様は、俺の傍に居ればいいんだ。」

「・・・でも・・・オレもお前も・・・男・・・」

「それがどうした?俺の心を捕らえて離さないのは、貴様だろう?

俺の心を捕らえているんだ。その責任をとってもらわんとな」

(遊戯貴様の国籍も戸籍も既に用意してある。

それに同性でも結婚が出来る国だってあるんだ。何を気にすると言うのだ。)

国際情勢に疎い遊戯が同性同士で結婚が出来る国や自治州があるなんて知る筈も無い。

(遊戯 貴様は、おとなしく俺の張った罠にかかっていればいい・・・)

 

 

 

 

そう蜘蛛の糸にかかり捕らえられた蝶の様に


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