夢
何度と「これが夢だったら・・・」と思った事か・・・
目が覚めれば今迄隣に居た人が居ない。
彼が去ってからベッドの上が冷たい。
心には、隙間風が吹いているかの様に冷えている。
2年前にサテライトを去りネオ童実野シティでライディング・デュエルのキングとなったかつての友。
遊星は、自分が整備しているD・ホイールを前に最終調整に入る。
2年前の自分・・・
何時も目を覚ませば紫の瞳が優しく自分を見つめていた。
それが嬉しくもあり恥かしさでもあった。
時折寝起き様に鼻先を摘ままれる事もありそれを擽ったい気持ちで払う。
そして掛けシーツに顔を埋めると彼の手は、それ以上の事をして来なかった。
少しだけシーツから顔を覗かせると優しい瞳が今尚自分を見ている。
「まるで子供の様だな」
楽しそうに言われると恥かしさの余り顔が赤くなってしまう。
「子供じゃない」
掠れた寝起きの声で文句を言えば。
「充分 子供だ」
と言われてしまう。
少しムッとしたけどそれは、口には出さない。
口に出しても言い返される事は、容易に解るから。
自分は、きっと口喧嘩しても彼には簡単に負かされるだろう。
「さぁて もうそろそろ顔を洗いにでも行くか・・・」
そう言って出て行くジャック。
何故か彼は、己が行動を一々口に出す。
(ジャックの方こそ子供みたいだ)
思わずクスクスと声には、出さないけど笑ってしまう。
「何がおかしい?」
揺れているシーツを見て笑っていると判断したのだろう。
その問いに
「別に何も」
と答えてやると「変なヤツ」と言われた。
暫くして聞こえて来る水の音。
彼が顔を洗っているのだろう。
その間に彼が寝ていたシーツの上に寝そべると微かに香る彼の匂い。
その匂いが何故か擽ったい。
彼に抱きしめられている気持ちになり幸せな気持ちだ。
御互いに親の温もりを知らない。気が付いたら一緒に暮らしていた。
傍から見れば兄弟か恋人か・・・
気にした事は、余り無い。ただこの幸せが続けば良いと思ってたし続くものだと思ってた。
それなのに
「俺は、ココを出て行く。遊星 俺と共に来い。必ず貴様を幸せにする」
まるでプロポーズの様な言葉を言われるがその言葉に首を縦に振る事が出来なかった。
「スマナイ・・・仲間を置いて行く事なんて出来ない・・・」
俯く遊星にジャックは、優しく抱きしめ。
「貴様は、優しい心を持っている。その優しさが貴様をダメにするかもしれない。だがその優しさに俺は、
惹かれたんだ。今は、無理強いは、しない。貴様がその気になったら俺の所へ必ず来い。来るようにこのカード
は、俺が預かっておく」
そう言って遊星のデッキフォルダから『スターダスト・ドラゴン』のカードを抜いた。
「ジャック・・・」
「何年かかっても良い。俺は、お前が来るのを待っている」
そう言ってサテライトを後にした。
ジャックは、デュエル・キングになる事を夢見てた。
それを現実にする為にサテライトを後にしネオ童実野シティへと向った。
事前に彼が辿るルートを2人でシュミレーションしていた。
パイプラインのメンテナンス。
セキュリティに捕まらなければジャックの腕だと簡単に突破出来る。
遊星は、ジャックが無事にネオ童実野シティに着く事を祈った。
今の自分に出来る事は、それだけだから。
そしてTVで無名だったジャックがいろんなデュエリストと対戦し勝利を収める様をサテライトで見ていた。
最後にデュエル・キングになった時 彼の夢が叶ったんだ・・・と喜んだのを覚えている。
2年前子供だった自分・・・
仲間を理由に彼の手を取る事を拒んだ。
そして彼が居ない部屋やベッドの上で彼の面影だけ追いつづけた。
もうオレは、子供じゃない今度はオレが自分の夢を叶える為にネオ童実野シティへと向う。
彼が持って行った『スターダスト・ドラゴン』のカードを取り戻すと言う夢。
ジャック待っていろ必ずお前の元へ行くから・・・