キングとペンギン-1-
気紛れだったと言えば本当に只の気紛れだった。
治安維持局に行く用事があったので秘書の狭霧が運転する車の後部座席に座っていた。
何時もなら自分で運転するのだが今日は、何故か秘書に運転させたのだがたまたま車窓を
流れる景色に目を向けていると偶然とも言うべきなのか動物園が見えた。
自分でも「何故?」と思ったが狭霧に車を止めさせ扉を開けると足が勝手に動物園へと向って
いったのだ。
別にこの年になって見たい動物なんて無い。
狭い自由の無い檻の中でただ生かされているだけの存在。
自分で餌を取ると言う本能を忘れ餌付けされ媚を売るそんな存在に興味なんてなかった。
これと言って目新しい動物も無く何故自分は、こんな所を時間を無駄にしてまで歩いているのか
気でも触れたのか?
それとも疲れているのか?
癒されたいのか?
出ない答えを求めてしまう。
野外展示されている動物に殆ど目もくれずそのまま室内展示されている施設へと向う。
不可解な顔をして狭霧が後を付いてくる。
別に秘書だからと言ってこんな所まで付いてくる必要なんてないと思うが・・・まぁゴドウィンの指示で
俺を監視でもしているつもりなんだろう。
ゴドウィンのイキの掛かった連中を信用してない。
何を考えているのか解らないからだ。
だがそれを言うならば連中も俺が何を考えているのか解らないだろう。
自分の心の奥に潜む本当の想いなんて誰も知らない。当の本人でさえも。
室内展示場もこれと言って楽しくも何とも無い。
来るだけ無駄の様な気がしたが何処からともなく感じる視線。
それは、ファンからの視線でも無くデュエリストの挑む様な視線でも無い。
何の視線なのか辺りを探ってみると。
ガラスの向こう側から感じる。
ガラスの向こう・・・
自分を鋭い目つきで見た居たのは、小さなペンギン。
頭部を逆立て黄色いラインを入れた目つきの悪いペンギンだったが何故か目が放せなくなってくる。
(誰かに似ている・・・)
そう思った時脳裏を霞めたのは、自分のライバルであり恋人だった人物。
今も尚最下層であるサテライトに居住しているヤツの姿が浮かんだ。
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治安維持局のゴドウィンの元に狭霧から急に行けなくなったとの連絡が入る。
理由を問えば彼女は、困った様な表情を浮かべて返答に行き詰まってしまう。
自分の目で確認をするべくゴドウィンがジャックの部屋に訪れるとペタペタと歩く小さな動物が
目に入る。
「スミマセン・・・アトラス様がどうしても・・・とおっしゃるので・・・」
かしこまっている狭霧。
ペタペタと歩く生き物・・・ペンギン・・・
首には、プレートが下げられて居る。
どうやら既に名前が付けられている様だ。
プレートに刻まれた名前は『遊星』・・・
ペンギンの種類は、イワトビペンギン。
時折ベッドの上やクローゼットに置かれているヌイグルミと同じ種類・・・
(確かキングの目覚まし時計もコレと同じ形をしていた筈・・・何故このペンギンに拘る?)
否ペンギンだけでは、無い。蟹のグッズも時折見かけるが・・・キングにそんな趣味でもあるの
だろうか?
(今度その事に付いてキングに訊ねなければ・・・)
「ところでキングは?」
「アトラス様でしたら寝室に・・・」
恐る恐るジャックの居所をゴドウィンの後を着いて行きながら答える。
「・・・」
始末した筈のイワトビペンギンのヌイグルミが所狭しを置かれたベッドの上。
その中でも飛びっきり大きなイワトビペンギンのヌイグルミに抱きつき眠るジャックの姿。
しかも枕は、蟹のヌイグルミ。
(キングともあろう御方が・・・)
顔が引きつってしまう。
しかしこんな状況で安眠出来るのか?と不思議に思ったがジャックの寝顔は、いたって普通。
多分このヌイグルミ達を排除してもまた増えるだけ。
しかも今回は、本物のイワトビペンギンまで買ってきたのだ。
「このペンギンは、何処で?」
「動物園で直接・・・」
ガラスの向こうでジャックを見ていた1匹のイワトビペンギン・・・
だがこのイワトビペンギンは、ジャックを見ていたのでは無く自分達を見に来ていた人間を見ていただけ。
ジャックの思い違いから引き取られただけなのだ。
「動物園へ返却・・・」
「しない方が賢明だと思います。」
「・・・」
返却してもまた連れ戻すでしょうから・・・と狭霧に言われ何も言えなくなるゴドウィン。
「仕方がありません今回のは、多めに見ましょう」
溜息を吐きながら部屋を出て行く。
意味が理解出来ていない『遊星』は、ただただペタペタと歩いて慣れない初めての環境に戸惑っているだけ。
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狭霧の報告によれば『遊星』は、数時間後にジャックのベッドでジャックと一緒に眠ていたがその寝姿が余りにも
可愛かったそうだ。
(余りにも可愛かったのでアトラス様と一緒に眠る『遊星』ちゃんを写メしてしまいましたvvv)