戸惑い-その後No.1-


両想いになったもののキス以上になかなか進めず付き合い出して1ヵ月半が過ぎ様としていた。

遊戯から返事を貰ってその後直にキスに及んだのだからその後の展開が早いと思われていたが幾分

海馬自身仕事が多忙故になかなか逢えない。

只こまめに海馬からメールが来るらしく遊戯は、ニコニコしている。

夜になると2日に一度携帯に電話が掛かってくる。

しかも掛かってくるのは、21時〜22時の間。

それ以降は、決して掛かって来ない。

「あの常識外れの海馬君が夜中に掛けてこないなんて変だよ!!」

と相棒に言われているが多分掛けてこないのは、弟モクバの助言が在ったからだと思う。

兄が奇抜な性格故に弟は、見事なまでに常識人に育ったようだ。

でも電話越しに聞こえる声だけじゃ寂しい。

逢いたい気持ちが募るばかり・・・

(こんな気持ちで居るのオレだけなのかな?海馬は、平気なのかな?)

不安な気持ちになってくる。

「もう一人の僕・・・」

2段ベッドの上から携帯を見つめる弟の姿を心配そうに見る〈遊戯〉。

(海馬君・・・もう一人の僕を大切にしてくれるんじゃないの?)

 

 

2日後、海馬から来たメールに『土曜日に逢いたい』と短い文面が書かれていた。

短いながらも遊戯の顔は、ほころび何度もその文面を見なおす。

弟の事を心配した兄の行動が海馬にメールを打たせのでは、無い。

海馬自身遊戯に逢えない事に限界を感じていたのだ。

それになかなか逢えなかったのは、遊戯と過す時間を作る為・・・

海馬も自分が送信したメールを何度も見ながら

(遊戯に逢える・・・俺がどれだけ貴様の事を想っているかその事を貴様に教えてやる)

甘くて温かい気持ちに心が支配されていくのを感じていた。

 

 

+++

 

当の土曜日・・・

金曜日の夜に来たメールには、時間だけが書かれていたが待ち合わせ場所等については、全く書かれてなかった。

「以心伝心じゃないんだから待ち合わせ場所とか書いてくれると有り難いのにね」

海馬のメールを見ながら苦言を言う兄だったが遊戯は、

「書かれてないって事は、家で待ってろって事だと思うけど」

と苦笑している。

遊戯は、待ち合わせ場所が書かれてないって事は、自分の家が待ち合わせ場所だと思ったのだ。

「書き忘れかもしれないよ?」

(遊戯の言う通りだったとしても『家で待っていろ』ぐらい書いて欲しいよ)

「相棒は、心配性だな。大丈夫だって必ず海馬は、来るぜ」

満面の笑みを浮かべている遊戯だが全く心配していないワケでも無い。

海馬に逢える嬉しい気持ちが有る反面、もし急な用事で反故されたら・・・と逢えない事が心配になって

居たのだ。

実際(多忙なヤツを好きになるんじゃなかったのかも・・・)なんて事を何度も思った。

両思いになったとは、言え逢えない時間が余りにも多い。

それに多忙でなかなか休みが取れない海馬の躰が心配で仕方が無い。

こまめに来るメール、2日に一度の電話・・・顔や姿が見えないやり取りだけでは、相手の本当の様子なんて

解らない。

それに海馬に抱きしめて欲しいいキスをされたい。

他の恋人達の様なデートとかは、望まないけれど他の恋人達同様に甘い時間を過したい。

時計を見ながら海馬が来るのを待ちつづける。

待ち続ける間の1分1秒が何と長い事か・・・時間が流れる度に募る想いで胸が押しつぶされそうになる。

家の前を車が通る度、バイクのエンジン音が聞こえる度、何度も窓の外を見てしまう。

そんな弟の姿を〈遊戯〉は、微笑ましく見ている。

(何だか僕にまで君のトキメキが伝わって来そうだよ)

何度も服装をチェックしたり髪型を気にしたり今迄見る事の出来なかった遊戯の行動。

(恋をすると本当に変るもんなんだね)

 

「遊戯ぃ〜御友達が来たわよ」

階下で聞こえる母親の呼び声。

それにビクッと躰を震わせ緊張に慄く顔。

「海馬君が来たんだね。そんなに緊張しなくても大丈夫だよ。存分に楽しんでおいでね」

緊張してなかなか動かない弟を部屋の扉前まで押し出し手を左右にヒラヒラと振って送り出す。

「オウッ・・・行って来るぜ・・・」

声が強張って震えているのが可愛い。

「遊戯ぃ〜」

「今行く!!」

ドタドタと慌ただしく駆け降りて行く遊戯の足音を部屋の中で聞きながら

(そう言えば今日って初デートの日なんだ・・・両思いになって1ヶ月以上経ってからの初デートって遅い気も

するけど・・・まぁ仕方が無いと言えば仕方が無いんだけどね)

 

+++++

 

家から離れた場所に止められているリムジン。

「本当は、貴様の家の前まで行くつもりだった。」

とボソッと呟かれる。

どうやらリムジンやベンツで家の前まで行く事をモクバに注意された様だ。

確かにこんな大きな高級車が家の前に止まったら御近所から注目される事間違い無しだし海馬個人や

会社に恨みを持っているヤツに狙われそうだ。

車中での微妙な距離。

海馬と一緒に車に乗るのは、両思いになった日以来で、どう接したらいいのか解らない。

(こんな時は、もっと近くに行っていいのかな?でも迷惑がられたりしたら・・・)

いろんな想いが駆け廻る。

それに今日の海馬の服装は、滅多に見る事が出来ないラフなもの。

TV誌で見る海馬は、何時もスーツ姿で遊戯自身もそっちの海馬を見なれているから・・・・

「遊戯そんなに離れて座らなくても」

そう言って海馬が近くに来て遊戯を抱き寄せる。

(うわ〜そんなに近くに居たらオレの心臓の音が海馬に聞かれてしまう〜!!!!)

もうどうしようも無くドキドキと高鳴る心音に耳を塞ぎたくなる遊戯だったが顔を真っ赤にして強く瞳を閉じて

いる遊戯がとても可愛く見え思わず笑みを浮かべる海馬。

そんな遊戯の髪を優しく撫でながら

「可愛い反応を見せるな。欲情してしまうだろう?」

耳元で優しく囁くと閉じていた瞳がカッと見開かれ

「・・・かっ・・・よっ・・・よく・・・」

(欲情って・・・欲情って・・・)

唐突な内容に遊戯の思考回路は、パンク寸前。

赤かった顔が更に赤みが増す。

そんな遊戯に海馬は、更に笑みを深め遊戯の額に軽く口付けた。

(本当に可愛い反応を見せる。コイツ程俺を楽しませてくれるヤツは、居ないな・・・否コイツ以上に俺の

心を捕らえられるヤツは、居ない。この俺が生涯むに認めた相手だ。

「そっ・・・そうだ・・・」

「?」

急に大きな声を上げる遊戯。

「今から何処に行くんだ?」

車窓を流れる景色は、どう見ても海馬邸に行く時に見る景色と異なる。

方角からにして海馬Co.っているとは、思えないし・・・それにこの景色は何度も兄や友人と見た

景色だ。

「海馬ランドに向っている」

遊戯との初デートだと言うのに何処に連れて行ったら良いのか解らなかった。

だからと言ってそう言う事を書かれている雑誌なんて見る気にもなれない。

ネットで検索をして海馬なりに調べてみた。

その中に〔遊園地〕があったのだ。

だが自分が遊園地に行くとなるとデートと言うより視察になってしまう。

仕事が優先されてしまうのでは?と思ったが遊戯の喜ぶ顔が見てみたい。

今より親密になりたい・・・と言う思いから遊園地を選んだ。

 

数分で到着した海馬ランド。

車から降りた遊戯は、まだ園内に入ってないと言うのに嬉しそうにしている。

「そんなに嬉しいのか?」

まるで来た事の無い子供の様に見える。

「嬉しいのに決まってるだろ」

「まさか初めて遊園地に来たワケでは、あるまい」

「当然だぜ。ココには、相棒と友達とで何回も来てる」

「だったら・・・」

遊戯の言葉に少しムッとしてしまう。

「でも好きになったヤツと来たのは、初めてなんだ」

胸の中で渦を捲き掛けた黒い思いが散って行くのが解る。

「しかもこんな有名人と一緒にこれるなんて思ってもみなかった。」

海馬は、女の子に絶大な人気のある男だ。

そんな男を独占して太陽の高い時間帯に2人で居られるなんて夢の様だ。

今日のデートは、てっきり海馬邸でデュエルをしたりゲームをしたりして過すだけだと思っていた。

本当は、それだけでもイイと思っていた。だって変な雑誌週刊誌に追いかけられ写真を撮られる事を考えたら

その方が安全だと思う。

でも海馬は、初デートを外に選んでくれた。

それは「人の目を気にするな」と言っている様に思える。

堂々としていいのだと思えた。

「行くぞ」

そう言って握られる手の温もり。

恥かしい様な嬉しい様な複雑な気持ちになったけどそれは、決して不愉快なモノでは、無く心が温まる思い。

遊戯は、引かれるまま海馬の後に満面の笑みを浮かべて付いて行った。


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