ぶかぶかの白いコート


手元に残るブカブカの白いコート・・・

このコートの本来の持ち主は、今ネオ童実野シティでキングと呼ばれている。

 

---サテライトにジャックがまだ居た頃---

彼がよく着ていた白いコートを隠れて何度か着た事があった。

着る時は、勿論誰も居ない時。

 

 

 

ジャックには、ちゃんと自分専用の寝る場所が在ったのに何時の間にかオレが居住している地下廃線場所に

住むようになった。

同じ地下に住んでいるとは、言えそれなりに距離があった。

でも気が付けば何時しかオレが住んでいる小さな小屋にジャックも住んでいた。

日中は、友が集まり一緒にジャンク工場で働いた。

でも夜・・・寝る時は、何時も一人だった。

それが当たり前だった。だから寂しいなんて思わなかった。

それに以前ネオ童実野シティの電波を傍受していた時に見たライディング・デュエルで颯爽と駆け抜けていた

D・ホイールに魅了され自分で製作をしていたから時間なんて気にならなかった。

ジャンクの修理も有ったし・・・

 

「貴様寝ないでそんな事しているのか?」

急に現れたジャックは、呆れた様な顔をしていた。

オレと言えば相も変らずD・ホイールの製作に時間を費やしていた。

あっ・・・今何時?」

「もう夜中だ。また日中に仕事があるんだ。寝た方がイイ」

呆れ顔のままオレが握っていたスパナを取り上げ工具入れに直してくれた。

何時もならアレコレと命令し気遣ってくれるそぶりも見せない男が自分を気遣ってくれている。

複雑な気持ちだったがそこは、素直に従う事にしオレは、汚れた顔を躰を洗う為にシャワーを浴びた。

何故ジャックがオレの所に来たのかなんて解らない。

もしかしたらD・ホイールの出来あがりを見に来たのだろうか?

それともオレが製作を止め不貞寝してると思い冷やかしに来たのだろうか?

温めのシャワーで全身を洗い終えバスタオルで水気を拭い上半身裸のままズボンだけを穿き寝室へ向う。

ジャックが居ても居なくても別に驚く事は、無い。

それは、用が有って居るのだろうし用が無くて帰ったって事だから・・・

 

寝室には、ジャックが居た。

ベッドの端に座っていた。濡れた頭のオレを手招きしオレを床の上に座らせるとタオルでガシガシと拭かれる。

「いっ・・・痛い・・・もう少し丁寧に拭けよ」

苦情を言えば。

「だったらちゃんと拭いて来い」

とムッとした様な言い方をされる。

 

その日を境にジャックは、オレと一緒に住むようになった。

一緒に住むのに理由なんて必要無かった。

部屋に増えるジャックの荷物。

しかも片付けが終わってない・・・

当のジャックは、荷物を片付けずに何処かに泊まりに行って暫く不在の日が続く。

その所為でオレがジャックの荷物を片付ける羽目に・・・

まぁ荷物と言ってもボストンバッグ2個分しか無いが日中働き夜は、D・ホイール製作に当てているオレとして

は、貴重な時間だった事に変りが無い。

たまたま開けたボストンバッグに入っていた白いコート。

別に着たいとは、思わなかったのに袖に腕を通してしまう。

ジャックが着るとカッコイイのにオレが着るとブカブカの白いコート・・・

同じ人間なのに別の生き物の様に思えてしまう。

その白いコートから微かにだが香る匂い。

サテライトには、香水なんてモノは、無い。

それ故に香るは、ジャックの体臭。

何故かその体臭にドキドキさせられるし何故か安心してしまう。

興奮剤に鎮静剤・・・

 

そんな複雑な気持ちを味わいたくてジャックが不在中に何度も何度も白いコートに袖を通す。

もしかしたらオレの匂いがコートに移るかもしれないと思いつつも・・・

 

 

ジャックが去ってからどれぐらいの日数が過ぎただろう?

今夜も隠し持っているジャックの白いコートに袖を通す。

もうジャックの体臭を嗅ぎ取る事は、出来なくてもこのコートにジャックが袖を通した事に違いは、無いのだから。


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