キングとペンギン-2-


私 狭霧深影には、密かにアトラス様より命じられた特殊任務がある。

その任務の為なら些かな義性もいとわない。

例えそれがアトラス様を傷つける様な事であっても・・・

 

 

 

 

「キング・・・その顔の傷と腕の傷は、いったい・・・」

頬にバンソウコを貼り腕には、大小の傷痕。しかもその傷は、狭霧にも付いている。

ゴドウィンは、眉間に皺を寄せジャックに問うものの彼は、聞く耳持たぬと言う感じで余所見をしている。

視線で狭霧に問うものの彼女は、ジャックに遠慮しているのか答え様としない。

これでは、埒があかないと思いそれ以上の追求は、諦める事にしたがそれでも、

「今度のライディング・デュエルまでにその頬の傷を治しておいて下さい。キングの威厳に傷が着いてしまう」

「わかった。」

用件は、終わったと感じたジャックは、狭霧を連れ局長室を後にする。

「局長いいのですか?」

「何がです?」

「キングの怪我の事です。」

「あれ以上問いただしてもキングは、何も答えないでしょう。それに大方見当は、ついてますし・・・」

(多分最近キングが飼われているペンギンが関係している事でしょうから・・・やれやれ困った御方だ・・・)

 

 

+++++

 

「何故ゴドウィンに報告しなかった?」

自室に向う時、疑問に思った事を口に出してみる。

そんなジャックを不思議そうに見る狭霧。

局長に何を報告すると言うのだろう?キングである彼の素行は、今までと何等変りが無い。

変った事と言えば『遊星』ちゃんと一緒に住み出した事ぐらい・・・

そこまで思ってみて彼が何を言いたいのか理解する。

「『遊星』ちゃんは、ペンギンです。ペンギンの一日の行動を観察している余裕は、有りません」

本当は、監視カメラを取り付けてちゃんと観察している。

それは、『遊星』ちゃんが怪我をした時、逸早く病院に搬送出来るようにする為であって報告する為では、

無い。

 

ジャックが自室に戻ると『遊星』がクッションの上を飛び跳ねて遊んでいた。

監視カメラの映像でもこの光景がよく写し出されている。

多分飼われているとは、言え眠っている野生の本能がさせているのだろう。

扉の開く音が聞こえたのか『遊星』は、羽をバタ付かせながらヨチヨチとやってくる。

体調わずか30cmの小さなイワトビペンギン。

 

『遊星』は、ジャックの足元に来るといきなりジャックの脛めがけて嘴で攻撃をしかけてくる。

「グッ・・・『遊星』何時になったらこの俺の事を覚えるんだ?」

警戒心故に攻撃的なイワトビペンギン。

この性質故にジャックも狭霧も生傷が絶えないのだ。

だが『遊星』にしてみれば2人は、縄張りに入って来た不審者。それを追い払うのが本能と言うモノ。

「アレを用意しろ」

その言葉に狭霧は、いそいでキッチンに向い冷蔵庫からタッパを取り出しジャックの元へと向う。

リビングでは、『遊星』の攻撃を何とか交しながら相手をしているジャックの姿。

何時も畏怖堂々としている彼からは、想像も出来ない光景だ。

「アトラス様!!」

微笑ましい光景をもう少し見て居たかったがそんな事をしていたら怒られてしまう。

いそいでジャックにタッパの蓋を開け渡すとジャックは、その中から白い滑るモノを取り出し『遊星』に見せつける。

その途端ジャックを攻撃していた『遊星』は、白い物体に意識を移しそれを啄もと小さな羽をバタつかせ出した。

ジャックが『遊星』に見せつけたモノは、イカを縦に切った切り身。

そう『遊星』は、イカを食べたい余りジャックに対する攻撃を止めたのだ。

 

 

ジャックは、傍に在ったソファに腰を降ろし『遊星』にイカを与える。

無表情ながらもジャックから与えられるイカを口に入れてもらうその姿の何と愛らしい事か。

狭霧は、ポケットに忍ばせていたカメラを取り出しシャッターチャンスを狙う。

これは、ジャックに言われてやっている事。

(この私に撮れない『遊星』ちゃんのベスト・ショットなんて在りは、しない!!!)

 

『遊星』とジャックがツーショットで撮れるのは、極僅かそれが餌を与えている時間。

しかし餌を与えている最中だとジャック自らの撮影が不可能。

そこで狭霧が『遊星』とジャックのベストツーショットと『遊星』単体のベストショットを撮る様に命じられいるのだ。

本来自分の仕事と異なる事だが狭霧自身『遊星』の虜になっているのだ喜んでその任務を遂行しているのだ。

実際ジャック専用のパソコンに保存されている『遊星』写真の大半は、彼女が撮影したもの。

ジャックは、その中から気にいったモノをプリントアウトするか自分の携帯に入れて持ち歩いている。

他人は、言えない事だがジャックの携帯の待ち受けは、『遊星』の寝ている姿なのだ。

そしてジャックの許可を得て狭霧も『遊星』の写真を待ち受けにしている。

 

 

その日一日撮影した『遊星』の写真が収められているメモリーをジャックに渡すがそこに収められているデータ

の大半がジャックと『遊星』の格闘(?)シーンばかり・・・

だがそれでもジャックからの怒声を浴びせられないのは、格闘シーンの全てがツーショットだからだ。

そしてメモリーを見ている時のジャックは、何処か満足気で狭霧に話し掛ける。

(『遊星』ちゃんのお影でアトラス様と共有の話題が出来て嬉しいよ〜vvv)

 

これからも彼女の『遊星』専属カメラマンとしてジャックの秘書として仕事は、大変そうだけどそれはそれなりに

萌の世界で乗りきりそう・・・


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