キングとペンギン-3-
頭が痛い・・・意識が朦朧とする。
ズキズキする頭を押えながら躰をゆっくりと起す。
辺りを見渡すと何時も寝室で見る光景と異なる。
どうやら自分は、リビングのソファをベッド代わりにして寝ていた様だ。
テーブルの上には、空になったボトルが数本横たわっている。
完全に飲み過ぎだ。二日酔いを起している。
躰に掛けられている毛布は、狭霧の配慮なんだろう。
彼女の体力では、ジャックを寝室まで運べないからせめて風邪を引かない様に気を使ってくれたのだ。
向いのソファには、ぐったりと横たわる『遊星』。
『遊星』もまた毛布を掛けられている。
「『遊星』・・・」
声を出すだけで頭に響く。
何時もなら飛び起きる『遊星』なのだが今日に限って起きない。
余ほど眠りが深いのか・・・
だが自分の声に反応を見せない『遊星』に苛立ってしまい
「『遊星』!!」
と怒鳴ってしまう。
だがその声に驚いたのか『遊星』は、躰を起し左右に首を振るとけたたましく
「アーラ アーラ!!!」
鳴き声を上げ小さな翼をばたつかせながら扉に向ってヨタヨタと走る。
まるで何かに警戒しているかの様な仕草。
その仕草に苛立ちを覚える。
必死になって逃げ様とする姿・・・ココ最近やっとなついてくれていた『遊星』・・・
翼を振る『遊星』の姿にジャックは、思わず目を見張った。
右の翼に何やら赤い痣らしきモノが霞んで見えるのだ。
まるで自分の腕の《竜の痣》らしきモノが・・・
「『遊星』!!」
居ても立ってもいられないジャックは、二日酔いで痛む頭を押えながら『遊星』を追いかけるが自分に迫り来る
ジャックに恐怖を抱いている『遊星』は、必死になって逃げる。
「アーラ!!アーラ!!」
どんなに逃げ様が身長30cm・・・しかも短足の『遊星』では、捕まるのは時間の問題。
程無くして捕まった『遊星』だったがそれでも抵抗する意志が萎えて無いのか必死に躰をくねらせ逃げ様とする。
「大人しくしろ!!」
「アーラ アーラ」
「!!」
首を振る『遊星』の左側に見なれない模様が・・・
まるで犯罪者に付けられるマーカーの様な・・・マーカー・・・
++++
「アトラス様おはよう御座います。」
花瓶に花をいけていた狭霧は、ジャックの姿を見ると綺麗な各度で会釈をする。
心無しか機嫌の悪そうなジャックの小脇に抱えられ疲れからか幾分弱々しい抵抗をしている『遊星』。
そんな『遊星』が痛々しく見えて来る。
機嫌の悪いジャックの後を付いて行く狭霧。
「アトラス様 『遊星』ちゃんが落ちかかってます」
抵抗しすぎてかろうじて足だけで腕に引っかかっている『遊星』既に鳴く気力も失せている様だ。
【治安維持局長官室】を無造作に開けると怒声を上げながらレクス・ゴドウィンに詰め寄る。
何時会っても物静かな顔をした初老の男。何を考えているのか全く解らない。
「どうされましたキング?」
「これは、一体どう言う事だ!?」
ぐったりとした姿のまま机の上に置かれた『遊星』。
(キングは、一体このペンギンに何をされたんだ?)
狭霧の昨日の報告では、元気に室内で一匹遊びをしていると聞いていたのに・・・
「余ほど疲れている様に見えますね」
「違う!!コイツの顔のマーカーだ!!」
顔の左側に黄色いマーカーでラインが入れられている。
しかしゴドウィンは、眉間に皺を寄せただけで驚く素振りも無く
(まさかこのマーカーをセキュリティの者がやったと思われているのか?キングのペットに悪戯描きなんてする勇気
が在るの者が居るとは、思えない・・・まさかとは、思うがこのマーカーを犯罪者に付けるマーカーと勘違いされて
居られるのでは?)
「文房具店で売られているマーカーで落書きをされるとは・・・何と痛々しい」
大人しい『遊星』の頭を撫でてやる。
そして目に止まった腕の赤い模様。
(まさかココにまで落書きをされているとは・・・一体誰が?)
「では、この痣は?」
ゴドウィンの目にも止まった落書き。
(こ・・・これを痣とは・・・)
「キングこれは、痣では在りません落書きです。イェーガー君直にぬるま湯と石鹸と柔らかいタオルを2枚用意
してください」
「わかりました」
局長の指示で早速用意に走るイェーガー。
「キング先ほどから気になっていたのですが・・・夕べ意識が無くなるまで飲酒されていたのでは?」
彼の躰からアルコールの臭いからにして彼自身二日酔いになっている可能性がある。
それ故にハッキリとモノが見えていないかまともな判断が出来ていない様子。
全てのやり取りを見ていた狭霧は、複雑な心境だった。
・・・真相は・・・
酔ったジャックが最近なついてくれた『遊星』を呼び『遊星』は、机の上に置いてある刺身を貰えると思いヨタヨタとジャックの元へと行ったのだ。
だがジャックの手には、2本のペイントマーカーが握られており近付いて来た『遊星』を捕まえるとその顔に黄色い
マーカーを押し当て様としたのだ。
危機感を察した『遊星』は、渾身の力を振り絞り何とかジャックの魔手から逃れたものの酔ったままのジャック
に室内を追いかけられる羽目に・・・
力尽きた『遊星』は、簡単にジャックの手に捕まり顔や腕に落書きをされる事になったのだ。
しかも『遊星』に落書きをしているジャックの楽しそうな顔といったら・・・
だが狭霧がその事を知ったのは、今朝出勤して来てからの事。
何時ものように『遊星』用の監視カメラをチェックしていたらその光景が一部始終映されていたのだ。
(アトラス様酷いです!!いたいけな『遊星』ちゃんに無体を強いるなんて・・・)
と心の中で言いながらもその光景に頬を染め萌ていたのだった。
(ああ・・・それしても鬼畜なアトラス様ってス・テ・キ)
「ところで狭霧君 あのペンギンは・・・」
「『遊星』ちゃんです」
「・・・『遊星』君は、オスなのかね?それともメスなのかね?」
「?」
「判らないのかね?キングのあの執着ぶりか見てもしペ・・・『遊星』君がメスだった場合『遊星』君の身に
危険が及ぶと思うのだが」
「いっ・・・いくらアトラス様でも『遊星』ちゃんを襲う様な事は・・・」
「・・・しないと断言できないでしょ」
「・・・はい・・・」
確かにあの異常なまでに『遊星』を溺愛しているジャックが襲わないと言いきれないがオスだから襲わないとも
言いきれないと思う。
「多分オスだと思います」
気休めだと判っていても口に出してしまう。
(ああ・・・動物園で確認しておけばよかった・・・でも出来る事なら性別関係無しで襲って欲しいです!!)
狭霧の意識が別世界に飛んでいる間、『遊星』はぬるま湯に付けられマーカー落しを決行されていた。
そして小さいスクリーンで昨夜監視カメラで撮影されていた映像を見ていたジャックは、ショックを受け床に伏してい
たと言う。
(はぁ・・・心労で皺が増えそうだ・・・)
一人溜息を吐くゴドウィンであった。
『遊星』の鳴き声が「アーラアーラ」となっていますがこれは、検索した時「イワトビペンギンの鳴き声」って項目があり。そこで「アーラアーラ」と書かれていたんです。