キングとペンギン-4-


「『遊星』ちゃん別にアトラス様は、悪気があってやった事じゃないの・・・解ってくれる?」

『遊星』の小さな頭を撫でながら狭霧が諭す様に言うが如何せん相手は、ペンギン。

話しが通じるとは、到底思えない。

それでも大人しく聞いている『遊星』は、狭霧に頭を撫でられながら在るのか無いのか解らない首を

竦めながら紅い瞳を瞼の内側に隠し撫でられている。

「君の別名知ってる?《ジャンピング・ジャック》って言うんだよ〜

アトラス様と同じ《ジャック》って付くんだから」

仲直りしてねvvv

気持ち良さそうな表情を浮かべている『遊星』に狭霧の顔にも笑みが浮かぶ。

 

数週間前酔った勢いでジャックに落書きをされた『遊星』。

石鹸でイェーガーにゴシゴシと洗われたがマーカーが今尚消えておらず顔や腕に残っている。

とても嫌な事だったと記憶しているのか暫くは、ジャックを見ると警戒し威嚇してくるのだ。

まぁ・・・それでもだいぶ落ちついたのか警戒心が薄れ威嚇もそれほど酷く無くなったのだがそれ以降ジャック

は、飲酒を控え『遊星』の御機嫌取りに躍起になっている。

今もキング自ら『遊星』の為に新鮮な餌を買いに魚市場へとD・ホイールで向っているのだ。

(そう言えば・・・D・ホイールの改良は、進んでるのかしら?)

『遊星』を乗せて走る事を夢に描き出したジャック。

それをゴドウィンに言った所猛反対を食らったらしいがそれでもその夢は、費える事なく更に脹らんだ様だ。

「アーラ・・・」

何かの音に反応したのか『遊星』は、鳴き声を上げお気に入りのクッションの上へと移動する。

「アトラス様が御戻りになられたのかしら?」

出迎えに行こうとした時勢いよく扉が開き声高等かに

「『遊星』今帰ったぞ!!貴様の好物な小魚にホッケを買って来たぞ」

保冷用の発泡スチロールの中にびっしりと詰めこまれている小魚に甲殻類にホッケにイカ・・・

鮮度を保つ為の氷も半端じゃない。

これをD・ホイールに乗せて走って来るなんて相当『遊星』に入れ込んでいる証なんだろう。

「『遊星』おやつは、もう貰ったのか?」

「未だ召されません」

狭霧は、ジャックが買って来た鮮魚を与えるつもりだったので用意していなかった。

「今からこの俺自ら用意してやろう!!」

休む間もなくキッチンに向い調理に入る。

『遊星』が来てから初めて知った事なのだがジャックは、器用に何でも作ってしまう。

魚だって三枚に降ろすのも簡単にやってのける。

狭霧だって料理が出来ない訳では、無い。花嫁修行の一環で料理全般は、習得しているのだがジャック程

上手く出来ないのだ。

ジャックは、タンクトップ姿で小魚の鱗を取り刺身の様に綺麗に捌いていく。

捌いた身は、綺麗に皿に盛り付けられる。このまま刺身醤油をつけて食べたいくらいだ。

 

機嫌良くキッチンから出て来たジャックは、そのままクッションの上に居る『遊星』の元に行き。

「『遊星』今日は、アジだぞ」

多分魚の種類を『遊星』に言っても解ってないだろう。魚の種類より食欲を満たす方が先決なのだから。

一撮み撮んで『遊星』の嘴の傍に持って行くとジャックの指を啄む事なく器用に刺身を食べる。

それを何度か繰り返し『遊星』の気持ちが魚に向いている最中に触ろうと試みるが触れる直前で『遊星』が

自分に触れようとするジャックの手に気付き断念せざる状態に・・・

今尚警戒されていると思っているジャックと狭霧だが『遊星』は、全く警戒しておらず自分に触れようとしている

ジャックの指先に餌があると勘違いして振り返っているだけなのだ。

そう既に『遊星』は、ジャックの事を仲間だと思っているのだ。

おやつを貰いお腹イッパイの『遊星』は、夢現・・・ウトウトとしてクッションから落ちかける。

その光景を微笑ましい気持ちで見守っていたがこれから数分後またまた大騒ぎが・・・

 

 

++++

 

『遊星』が寝ている間にデュエル・スタジアムで対戦を行っていたジャック。

そんなジャックが意気揚揚と帰って来るとリビングの扉付近で出迎えてくれている筈の『遊星』の姿が無い。

見渡せば未だクッションの上で寛いでいる様子。

近付き抱き抱えると何時もの抵抗が無く『遊星』が寝そべって居た場所には、見なれない物体が2個置かれて

あった。

その物体を見たジャックの思考回路は、一瞬にして凍結してしまい。

「『遊星』!!これは、どう言う事だ!!貴様は、俺以外の男と・・・」

ただならぬジャックの声を聞き慌ててやって来る狭霧。

その狭霧が見た光景は、両手で小さな躰を抱え上げられて何やら説教をされている『遊星』の姿。

そして目線をずらせばクッションの上には、白い様な物体が2個・・・

「『遊星』ちゃん!!!」

女の子だったの!!!

「アトラス様落ちついて下さい!!」

「落ちついてなど居られるか!!」

「あれは、無性卵です!!」

事の次第を察した狭霧は、ジャックから『遊星』を奪うと今確実なる答えをとっさに導き出す。

「無性卵だと・・・」

「そうです。冷静になって下さい。この部屋には、我々以外出入りは、してないんですよ。

当然他のペンギンだって来てません」

「しかしだな俺達が居ない間にだな・・・」

「そんな事在りえません。普通に考えてください。この扉のドアノブの位置では、『遊星』ちゃんでは、到底

開ける事は、不可能。それを言いかえるなら他のペンギンだって無理です!!それに他人が入ろうにも

セキュリティが在る以上勝手には、入れません!!」

グッとつまるジャック。

「だがどうして・・・」

「自然界においての摂理だと思います。他の鳥類でも無性卵は、生みます。」

そしてそれが有性卵だと信じ温めるのだ。

「『遊星』ちゃんの場合も同じ事だと考えられます。ねっ『遊星』ちゃん」

「アーラ」

「では、この卵が無性卵かどうかを早速調べさせる。」

そう言ってジャックは、卵を2個抱え上げると足早に立ち去ろうとするが

「待って下さい。2〜3日待って下さい。」

「何故だ?」

「疑卵の用意をしないと『遊星』ちゃんは、また無性卵を生みます」

「!!!」

明らかにショックを受けているジャック。

2〜3日では、ダメだ。明日中に用意しろ」

それだけを言い卵をクッションの上にそして狭霧の腕から『遊星』を取り返すと

「今回だけは、許してやるが次回は、許さないからな」

何が???と突っ込みたい所だがココまで落ち込んでいるジャックを見た事が無いので突っ込みを入れる

事が出来ない。

仕方が無いが『遊星』の事をゴドウィンに報告をすると

「そうですか・・・メスでしたか・・・それでキングの様子は?」

落ち着いた様な言葉使いで訊ねて来るがどうやら想定されていたようだ。

そして促されるまま報告をすると

「キングの様子を暫く見ていてください。奇行に走られる可能性が在りますから」

奇行って・・・まさかアトラス様と『遊星』ちゃんが・・・狭霧の脳内で1人と1羽の在らぬ光景が映し出される。

「解りました。」

途絶える通信の先でイェーガーが

「彼女、大丈夫ですかね・・・」

「・・・」

「心労絶えませんね。」

「ハァ〜・・・」

「心中お察しします。」

 

 

++++

 

報告を終えるると早速疑卵の用意をすべく思案をするが元々『遊星』は、動物園に居たのだ動物園に問い

合わせてば疑卵を譲って貰えると思い早速連絡を取ってみる。

交渉の結果疑卵を譲って貰えるとの事で早速引き取りに行く。

そこで知ったのだが『遊星』には、まだペアとなるペンギンが居なかった事そして今迄一度も卵を生んだ事が無い

事。

無性卵とは、言え今回が初めての出産だったのだ。

急ぎ帰りジャックにその事を伝えると意気消沈だったジャックに幾分生気が戻りつつあった。

「『遊星』貴様は、まだ男を知らない生娘だったのか・・・」

ジャックが『遊星』を抱き抱えている間に疑卵に取りかえる狭霧だったが内心。

(ペンギンにも生娘って言葉が当てはまるのかしら???)

と疑問を抱いていた。

卵は、ジャックの了解を得。一応検査にまわし無性卵だと判明すれば処分される事になった。

孵る事のない卵を抱かせつづけ腐敗による雑菌の増殖で『遊星』の身体に何かしらの影響が出てからでは、

遅いとの配慮故だ。

しかし当の『遊星』は、そうとは露知らず大人しく疑卵を温めている。

その姿が痛々しく思えて仕方が無い。

 

「『遊星』そんなに卵を温めたいのなら今度は、俺と貴様との間に生まれた卵を温めるといい」

「アーラ」

(アトラス様・・・御自身の体格と『遊星』ちゃんの体格を考えて下さい。『遊星』ちゃんの躰に入るワケ無い

でしょ!!死んじゃいます!!)

 

奇行ならぬ奇想に走るジャックと狭霧。

人間の言葉を全く理解していない『遊星』の運命は・・・


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