甘えん坊-4-
何時も目が覚めたら俺が起きるまで傍に居るように言っているのに今日もまたアイツは、居ない・・・
目が覚める時、隣に居る筈の相手を探し腕を伸ばすものの何の感触も温もりも感じる事が出来ない。
慌てて目を開ければ隣は、物抜けの空。
そこに在るのは、相手が居たと言う証の皺だけ。
目が覚めた時相手の温もりを感じたくて「俺が目覚めるまで傍に居ろ」と何度も言っているのにそれが叶った
試しが無い。
相手より先にジャックが目覚めた時は、相手の躰を抱き寄せ寝顔を堪能をしている。
だから昨晩も意識が完全に飛ぶまで執拗に攻めたのに・・・自分より先に起きられてしまった。
だったら自分が起きるまで待っていて欲しい。
そう思うと沸沸と湧き起る怒り。
たぶん相手は、寝起き様顔を会わせるのが恥かしくて自室に戻っているのだろう・・・
〔以前「寝起き様に顔を会わせるのは恥かしいんだ」と言われた事があるから〕
最初は、余りの初々しさに頬を緩めていたがこうも頻繁にだといい加減慣れてもらいたい。
不機嫌なまま上半身裸でズボンを穿いた姿のまま寝室を出て行くと微かにだが軽快な音と共に良い匂い
がしてくる。
(まさか?)と言う気持ちがしてくる。
不機嫌だった気持ちが次第に和らぎワクワクと言う様な楽しい気持ちになってくる。
この家には、ジャックと遊星しか住んでないのだ。
楽しい気持ちを持ったままキッチンを覗けばデニム地の捲きエプロンをした遊星が朝食の準備をしていた。
寝起き様に抱いていた怒りが解け顔の肉が緩み嬉しい気持ちになってくる。
こんな遊星の姿を見るのは、サテライトに居た頃以来だ。
サテライトに居た頃は、仲間の分まで作っていた。
遊星の手料理を何時か自分だけの為に作って欲しいと何度願った事か・・・
そして遊星の手料理を当たり前に食う仲間に何度嫉妬した事か・・・
だがその願いが叶い今遊星は、自分の為だけに料理を作っている。
こんな嬉しい事が在って良いのだろうか?
料理を作る遊星の姿をキッチンの入り口で見ているとその視線に気が付いたのか遊星が
「テーブルの上に新聞を置いている・・・」
と朝の挨拶も無くこっちに顔を向けないままぶっきら棒に言って来る。
多分恥かしいのだろう。
そしてこの光景は、まるで・・・
ジャックは、遊星の傍に行き背後から抱きしめながら耳元で「おはよう」と言いその後小声で在る事を言うと
ボンッと言う音が聞こえて来そうな程真っ赤になる遊星の顔。
耳を押えながら真っ赤な顔で
「何を言っている!!んん・・・」
振り向き様に朝のキス。
やはり遊星の唇は、柔らかくて甘い。
このままここで遊星を襲うのも一興だが如何せん遊星の料理を食べるのは、サテライト以来なのだ。
今は、性欲より食欲を優先させたい。
ジャックは、遊星から離れるとテーブルの上に置かれている新聞を広げる。
但し文面なんて読まず遊星の姿を盗み見る為にだ。
(全くジャックのヤツ・・・何が「新婚生活みたいだな」だ!!)
だがよくよく考えてみればジャックの言う通りかもしれない。
そう思うと顔が更に赤くなっていくのが自分でも解った。
(それにしてもジャックのヤツてっきりココでもヤルのかと思ったけどすんなりと離れて行ったな。)
てっきり襲われる事を想像したのだ。
だから一緒に住んでも調理中両手が塞がっている事を良い事に襲われる事を警戒し料理を一切しなかった。
(これなら作ってやっても良かったかな?)
いい加減店や物を注文するのも飽きし偏った食生活は躰に悪い。それにたまに作りたいとも思った。
出来あがった料理を器に乗せテーブルの上に運ぶと既にジャックがお茶を用意して待っていた。
「今日が和食だったよく解ったな」
「匂いとさっき貴様を抱きしめた時に見えた食材から判断した。」
それにサテライトに居た頃遊星がよく作ってくれたのが和食だった。
箸が使えない自分に対しての嫌味かと思ったが確かにこの料理は、箸で食べる方が美味しいと感じた。
(箸の使い方が解らなかったから遊星に食べさせてもらったのだがな)
それから箸の使い方も教わりちゃんと持てる様になった。
遊星が料理をテーブルの上に置いて行く。
小皿に乗せた料理を向いあって食べる様に配置しても何故かジャックが隣同士で食べる様に配置をしなおす。
御茶碗も向い合わせで置いても隣同士に並べる。
どうしてか疑問に思うが今聞いてもどうし様も無い。
一応並べ終え席に着く。当然ジャックの隣に・・・
機嫌良く席に着くジャック。
ジャックは、遊星に自分の御茶碗を渡す。
御茶碗の中には、アツアツの御飯がよそわれているのに・・・多分食べさせろと言う事なのだろう。
そして何故隣同士に並べられたのか程無くし解った。
食べさせて欲しいのだと・・・
「箸使い方解っているんだろう?」
「それでもだ」
多分口論になってもジャックに勝てるワケが無いし朝から喧嘩するのも不愉快だ。
そう思い遊星は、渋々とジャックの御茶碗を手にして彼に食べさせた。
(まるで子供に食べさせている様だ)
子供の世話なんてした事が無いけど多分子供が出来たらこんな毎日が続くのだろうと想像する。
(まぁオレもジャックも男だから子供なんて出来ないけどな)
美味しそうに食べるジャック。ジャックが咀嚼している間に遊星も自分の口に食べ物を運ぶ。
時間がかかったものの遊星が作った料理は、綺麗に皿の上から消えていた。
「では、食後のデザートでも頂くか・・・」
満足気な顔をしているジャックだったが食後のデザートなんて用意していない。
どうしたものかと少し考えていると細く綺麗な指が遊星の顎を捕らえ少し上向かせると重なる柔らかい感触。
啄む様に軽いキスを何度もされるが口腔内に入って来る気配が無い。
「ジャック・・・」
「これ以上するとまたお前を襲いたくなる。お前には、昼食も夕食も作ってもらいたいのに寝たっきりにさせたく
ないからな」
そうまだ朝御飯しか作ってもらってないこの後昼食も夕食もある。
それなのに事に及んだ事が原因で折角の手料理を食べ損ねるのは、不本意なのだ。
「お前自身を食するのは、今晩だ。」
しっかり宣言されてしまい遊星は、顔を真っ赤にせざるおえない。
しかしジャックが自分の手料理を楽しみにしてくれている事が嬉しくなり早速華麗なる頭脳で昼食と夕食の
メニューを考える。
そうそうジャックの意見も取り入れる事を忘れずに。
この後、遊星の手料理を食べる回数が増えジャックのテンションも更に上がり不敗のキング伝説に拍車を
掛けた事には、言うまでも無い。