キングとペンギン-6-
「『遊星』ちゃん今日は、アトラス様とお出かけするのね」
相変わらず顔に施されたマーカーは、そのままにされているのが可哀想に見えて来るが何も知らない
『遊星』は、新しいネームプレートを大人しく狭霧に付けて貰っている。
その姿は、まるで園児がお母さんにボタンを留めて貰っている光景に見えて来る。
「何処に連れて行ってもらえるのかしらね?」
「アーラ」
大人しかった『遊星』は、羽をバタ付かせ伸びをする。
多分リラックスでもしているのだろう。
動物園から引き取られて初めての外出。
『遊星』が怪我をしない様にと外出をさせていなかったのだ。
だがある日テレビで一般家庭で飼育されているペンギンが散歩している光景を目の当りにし自分も
させたくなったのか狭霧にスケジュールの調整を指示し『遊星』と散歩を楽しむ時間を作る事にした。
だがただの散歩の筈なのに何故車を用意し遠出をしないとイケナイのだろうか?
疑問を抱きつつも調整を取った。
「『遊星』!!出かける準備は、出来たか?」
「アーラ」
「おお!!何時もにも増して可愛いぞ!!」
確かに『遊星』は、可愛かった。可愛かったがその可愛さは、何時もと同じで倍増は、していない。
ここまで来れば親バカと言う言葉が似合うかもしれない。
だが溺愛し盲目となっているジャックの瞳には、日に日に『遊星』は、可愛く写っているのだろう・・・
傍から見れば何の変化も無いのに。
「『遊星』行くぞ!!」
「アーラアーラ」
言葉を少しは、理解しているのか扉に向うジャックの後を追いかける『遊星』。
だがジャックが扉の向こう側に行った時、後を追うのを止める。
「アーラ」
「どうしたの?『遊星』ちゃん?」
外に出様としない『遊星』に狭霧は、首を傾げる。
「ああ・・・そうね『遊星』ちゃんは、外に出た事が無いから外の世界が怖いのね」
答えは、直に出た。
外の世界を知らない『遊星』は、警戒しているのだ。
警戒心の強い動物なら己のテリトリーから出ないのは、在りえる行動かもしれない。
「アトラス様・・・」
『遊星』が出て来ないので迎えに来たジャック。
「『遊星』貴様が怖れるモノは、何も無い!!この俺が貴様を守ってやる!!」
頼もしい言葉を言いながら小脇に『遊星』を抱き抱える。
(ああ・・・小脇になんか抱えたらまるで『遊星』ちゃんがヌイグルミに見えてしまう〜)
小脇に抱えられながらも大人しい『遊星』。
本当に見事な出来栄えのヌイグルミにしか見えない。
車の後部座席でジャックに抱き抱えられ大人しくしている『遊星』・・・本当にリアルなヌイグルミの様だ。
動物園に付くとジャックは、お土産売り場に向い限定賞品の中から『遊星』に似合いそうな物を探し出す。
会計を済ませた商品のタグを外し急いで『遊星』の元へ・・・
首からかけられたのは、可愛いペンギンのポシェット。
紐が長いので応急処置として肩の処で団子の様な結び目を作る。
「アーラ」
両手をバタバタさせまるで喜んでいるかの様に見せる『遊星』にジャックの顔もほころぶ。
「さぁー『遊星』思う存分動物園を堪能するがいい」
意気揚揚のジャック。リードの付けられていない『遊星』は、ペタペタと気の向くままに歩く。
「アトラス様どうして動物園なんかに?」
「『遊星』は、動物園なんて来た事がないだろうからな」
得意気に話すが狭霧の気持ちは、複雑だった。
(アトラス様忘れてません?『遊星』ちゃんは、動物園生まれの動物園育ちだって事・・・)
そんな最中可愛い『遊星』が歩いている処へ来園者が取り囲み触れ様としてくる。
警戒心が強いイワトビペンギンの性なのだろうか『遊星』が攻撃体勢に入ると慌てて子供が『遊星』に触れる
前にジャックが『遊星』を抱え上げた。
てっきり『遊星』が子供を襲わない様に配慮しての行動かと思ったが
「コイツに触れていいのは、俺だけだ」
等と宣言しているでは、ないか!!
(アトラス様子供の為じゃ無く独占欲の為ですか???)
心が狭い・・・と感じてしまう狭霧だった。
「向こうで可愛い行進があるらしいよ」「この動物園名物・・・」「見た〜い」
所々で上がる声。
老若男女が一斉に移動を開始する。
当然何の騒ぎかとジャック達も移動を開始する。
移動した先では、キングペンギンがヨチヨチを行進をしていた。
この動物園は、毎日違うペンギンが飼育員と一緒に園内を散歩しているのだ。
『遊星』より大きなペンギンは、ヨチヨチ歩きでありながら何処か畏怖堂々としているようにも見える。
チョコンとジャックの足元でキングペンギンの行進を見ていた『遊星』。
その可愛さに眩暈を起こすジャックだった。
「『遊星』あれがキングペンギンだ。よく見ておけ」
ジャックが『遊星』の方を見るが足元に居た筈の『遊星』の姿が何処にも無い。
慌てて見渡すとヨチヨチと歩きながらキングペンギンに向っているでは、無いか。
「アトラス様!!『遊星』ちゃんがキングペンギンに向って行ってます!!」
血相を変えている狭霧の横で
「流石は、『遊星』!!己より大きいキングペンギンに突き進むとは、見上げた根性!
それでこそこのキングと共に居るのに相応しいペンギンだ!!」
「アトラス様!!何を呑気な事言っているんです!!相手は、『遊星』ちゃんより大きいペンギンなんで
すよ。もし『遊星』ちゃんの身に何か有ったらどうするんです?!」
狭霧の言葉に我に返り慌てて『遊星』の元に駆け寄るジャック。
急いで抱き上げると
「『遊星』よく見ておけと言ったが傍に行けとは、言ってないぞ!!お前の様な小さなペンギンが大きい
ペンギンに向ったて勝てるワケがなかろう?」
「アーラ」
「エレレレレ」
『遊星』の鳴き声に呼応する様に鳴き声を上げるキングペンギン。
ジャックに抱き抱えられながら動物園の出入り口へ・・・
流石に『遊星』を歩かせていると何処に行くのか解らない為なのと短い足だと何時まで経っても
出入り口に着きそうに無いからだ。
車中ジャックは、『遊星』に向って。
「『遊星』ライバル宣言でもされたのか?」
と訪ねるものの人語を理解していない『遊星』は、鳴き声をあげる事無くウトウトしている様子。
『遊星』は、キングペンギンに興味を持って近付いただけであり呼応する様に鳴いたのも偶然だったのだ。
自然界では、決して会う事が無いのだから。
「疲れたのか『遊星』。ゆっくり寝るが良い・・・
そうだな今度は、もっと良い所に連れて行ってやるぞ。」
ジャックに靠れかかりながら眠る『遊星』。
ジャックの目には、『遊星』が穏やかな表情で寝ている様に見えたらしい。
一先ずジャックの希望通り『遊星』との散歩(お出かけ)は、無事に終える事が出来た。
しかし次の予定を模索するジャック。
そんなジャックと『遊星』を鏡越しに見ながら
(アトラス様を飼い主に持ったばかりに『遊星』ちゃんの気苦労は、これから先倍増するかもしれないのね)
ついつい『遊星』を憐れんでしまう狭霧だった。
本当は、コウテイペンギンにするつもりだったんですが資料が余りにも無い!!
そこでコウテイペンギンより少し小さな(小さいと言っても世界第2位の大きさです)キングペンギンに
しました。
でも大きさを統一し可愛さで『遊星』と張り合うペンギンも良かったんですがね・・・