甘い罠


「ん・・・」

同じ姿勢で作業をしていた所為か躰を伸ばすと気持ちがいい。

そしてオレが躰を伸ばすのは、一日の作業を終え就寝準備に入る時。

だから仲間達は、オレが伸びをすると

「疲れただろう?マッサージしてやろうか?」

「もう寝るのか?」

等と聞いてくる。

ただ一人を除いては・・・

「すまない・・・今日は・・・」

仲間達の心遣いは、有り難い。それ故に断る事に罪悪感を感じてしまう。

「そうだな。もう夜も遅いしオレ達も帰って寝るか」

タカがそう言うと

ナーヴやラリーも帰る準備をする。

ただパソコンのモニターと睨めっ子しているヤツを除いて。

「ジャック!!帰るよ!!」

大声で呼ぶも何の反応も返さない。

あたかもパソコンのモニターに食い入る様に見ているフリをして・・・

だが彼のそんなフリにオレ以外誰も気が付いていない。

何故ジャックがそんなフリをしてまで帰らないのかオレは、知っている。知っているからオレは、何も言わない。

オレ自身それを少しばかり期待しているから。

 

 

仲間が帰りオレは、簡易シャワールームで簡単に汗を流し半乾きの髪のままベッドへと身を委ねる。

どれぐらい横になっていたのか解らない。

ただ目を閉じ待っていた。時間が過ぎるのを・・・時間が来るのを・・・

そして微かに聞える足音。壁の代わりに牽かれた布が擦れる音。

ジャックが腰掛けたのだろう微かにベッドが軋み少し沈む。

 

待っていた時間が後数秒後に訪れる・・・

 

柔らかい感触が何度も頬に押し当てられる。

それは、少しずつずれて唇に重なる。

何度も何度も啄む様に離れては、触れて来る。

オレが寝ているとでも思っているのかジャックは、オレの頭を横に向かせると耳の後に微かにだが吸いつく。

彼がオレの耳の後に何をしているのか解らない。

鏡では、見えない場所だから・・・

 

そしてまたベッドが軋む。彼の重さが消えたのだ。去って行く気配。

待っていた甘い時間が終わりを告げる。

足音が遠ざかり聞えなくなる。

それを見計らって目を開けそっと唇に指先を触れさせる。

「今度は、起きている時にしろよ・・・」

思わず口を吐いて出た小言。

 

彼ならきっと力づくで欲しいモノを手にする・・・と言うイメージがあった。

だから彼から施されるキスの優しさに最初は、驚いた。

しかも誰も居ない。オレが寝ている時にされるのだ。

 

今度彼がキスをして来た時、目を開けたら驚かれるだろうか?

もしかしたら2度とキスをしてもらえないかもしれない・・・

もしかしたら起きている時にキスをして貰える様になるかもしれない・・・

 

不安で複雑な心境は、苦しくて辛い筈なのに何故か甘い感情に支配される。

ジャックの事を考えない日なんて無い。

短いキスが甘い罠となってオレの心を捕らえて離さない。

 

 

 

寧ロ コノママおれノ心ヲお前デ埋め尽くしてクレ・・・

お前ノ事以外見エナイ様ニ・・・お前ノ事シカ考エラレナイ様ニ・・・

 

囚レタ心ノママニ。


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