絆(遊星・スターダスト)
喧騒の中、足早に古びたビルに入る。
目の前の扉には、しっかりとカギが掛けられているが何処を見てもカギ穴なんて存在しない。
扉の横には、カードリーダーが設置されている。
そのカードリーダに雑賀から貰ったカードをかざすとピッと音がなり暫くするとカチャと言う音が鳴り扉のロックが
解除された。
扉を開けて入ると真っ暗な誰も出迎えてくれる相手が居ない部屋。
遊星しか使ってない部屋なのだから出迎えてくれる相手が居ないのは、当然なのだが・・・
廊下脇に設置されているスイッチを入れる。灯される部屋。
誰も居ない筈なのに・・・
「おかえり」
の声が聞えて来る。
聞いた事の有る声。
先程まで共にデュエルに興じていた大切な仲間。
そのまま室内に足を運び室内の電気も灯す。
そこには、決して人の目に映る事の無い相手が立っていた。
しかも自分と瓜二つの顔をして。
「スターダスト・・・別に出迎えは・・・」
スターダスト・ドラゴン。遊星のエースドラゴン。
遊星をマスターと慕っている。
「そう言うとは、思ってた。でもオレがやりたいと思ったんだ。」
だって部屋に入って来た時 遊星が少しだけ・・・多分本人自身が気が付いてないのだろうけど嬉しそうな表情
をしたのだ。
それにピリピリと張りつめていた気が柔らんだ。
遊星の表情と和んだ気を悟ったスターダストは、嬉しいと感じたのだ。
何時も誰も居ない暗い部屋に戻って来た時 遊星は、何処か諦めにも似た暗い表情を浮かべていたし重い気を
漂わせていた。
どうやったら遊星が喜ぶのか、どうやったら張りつめた気が和むのかスターダストは、考えたのだ。
そして以前遊星とサテライトに居た時の事・・・暫くジャックのデッキ内で過した時の事を思い出した。
遊星がサテライトに居た時 人間の仲間が沢山居た。ジャックにも人間が出迎えていた。
それを思い出した時「もしかしたら遊星を出迎えたら喜んでくれるかも・・・」と思ったのだ。
だが自分は、何時も遊星のデッキの中に居て何時も傍に居る。
それに自分には、電気を灯す事が出来ない。出来ないけど声をかけてやる事ぐらいなら出来る。
スターダストは、自分に出来る事を自分なりに考えた。
そして「おかえり」を言う事にしたのだ。それが唯一遊星にしてあげられる事だったから。
そんなスターダストの気持ちを察したのか遊星は、苦笑しながら
「お前に余計な心配をさせてしまったようだな」
「そんな事無い。オレは、自分でやりたいと思った事をやっただけだ!!」
図星を指されて焦ってしまう。
そんなスターダスト見ていると和んでしまう自分を何処かで感じている。
(忘れていた。気持ちが蘇って来るようだ。)
ふっとサテライトに居た頃の事を思い出す。
仲間と過した楽しい日々。貧しくて大変だったけどそれでも楽しかった。
シティに来てから久しく忘れていた。
黙ってしまった遊星にスターダストは、どう反応をしていいのか解らなかった。
遊星の纏うオーラは、幾分穏やかなモノだったが(もしかしたら少しでも気に触る事でも・・・)と気になってしまう。
(もしかしたら遊星は、アイツの姿で出迎えて欲しかったのかな?)
アイツとは、遊星がサテライトに居た頃の恋人であり今は、シティでキングと呼ばれているジャック・アトラスの事
だった。
「遊星・・・ジャックの方が良かった?」
恐る恐る訊ねてしまう。
遊星が求めるならスターダストは、ジャックの姿にだってなれる。
だがジャックの姿にならなず遊星の姿で居るのは、遊星が大好きだからだ。
「どうしてジャックの名前が出て来るんだ?」
「遊星今でもジャックの事が好きなんだろう?やっぱり好きな人に出迎えてもらう方が嬉しいのかな・・・なんて
思ったんだ。」
少しシュンとしているスターダスト。
自分は、ジャックじゃないし人間でもない。遊星以外の人に見えるワケでも無い。外では、話し相手にもなれない。
多分ジャックには、自分の姿が見えるかもしれないけど・・・
「オレは、お前にはジャックの姿で出迎えて欲しくない。」
「?」
「オレとジャックは、別々の道を歩むんだ。ジャックの姿で出迎えられたらアイツの事忘れられなく無し離れられなく
なる。」
「!!」
遊星は、言外にシティを離れると言っているのだ。
「好きなのに離れるのか?」
人間界の事は、良く解らないがそれでも少しずつ学んでいる。
だから遊星の様なマーカーと呼ばれるモノを付けられている人がシティで生きて行くのが大変な事だって理解
しているし自分が遊星と初めて出逢ったサテライトが一番低い階級で在る事も・・・。
それでも好きと言う気持ちにマーカーや階級なんて関係無いと思った。
好きなら一緒に居ればイイ。
ジャックだって遊星の事が今でも好きなのだから。
「スマナイ・・・ココに居ればオレは、オレで無くなってしまうかもしれないんだ。」
息が詰る様な毎日。自由な街の筈なのに自由だと思った事が無い。
申しワケ無さそうな顔をしている遊星にスターダストは、何も言えなかった。
シティでの最初の出来事が最悪だっただけに仕方がないのかもしれない・・・そう思っていたから。
だがゆうせいの次の言葉でスターダストは、ショックを受けてしまう。
「お前の事は、ジャックに預ける。お前は、レッド・デーモンズと共にジャックの傍に居てくれ。」
やっと遊星に逢えたのに・・・やっと一緒に居られる様になったのに・・・また離れ離れになってしまう。
「お前がレッド・デーモンズの事を思っているのは、解っている。オレなんかと一緒に居たらレッド・デーモンズを
逢えなくなってしまう。」
2〜3日とかのレベルで逢えなくなるんじゃない。永久に逢えなくなってしまうかもしれない。
自分の勝手な都合でスターダストとレッド・デーモンズを永遠に離れ離れにさせたくは、無かった。
遊星にとって苦渋の選択だった。
俯きながらフルフルと躰を震えさせながら
「いゃ・・・」
「スターダ・・・」
「嫌だ!!遊星と離れ離れになるのは、嫌だ!!」
「スターダスト・・・」
「折角 遊星と一緒になれたのに又離れ離れになるのか?そんなの絶対に嫌だ。」
「でもレッド・デーモンズと」
「それがどうした?オレが遊星を選んだ時レッドと離れ離れになる覚悟ぐらい出来てた。それじゃなかったら
遊星の下に来てない。オレは、遊星と離れる気なんて更々無い。遊星が何処に行こうとオレは、遊星に
着いて行くからな。」
「レッド・デー・・・・」
「しつこい!!オレは、遊星と行くと決めたら遊星と一緒に行く。レッドだってそれを望んでる。」
「スター・・・」
「あのね オレは、遊星だけのドラゴンなわけ。他のヤツに使われるなんて寒気がするね。
第1オレは、遊星のエースモンスターになりたいの。でも遊星のエースモンスターの地位をジャンクウォーリアに
譲ってるんだよ。あっでもエースドラゴンの地位は、オレのモノだからね!!」
両手を自分の肩の位置まで上げて首を左右に振りながら否定しているスターダスト。
俯いているスターダストを見た時、泣くんじゃないか?と思った遊星だったが指を指され怒った表情をして遊星に
意見をするスターダストを見て遊星は、呆気に取られてしまった。
「もしかしてオレが俯いたのを見て『泣いてる』なんて思った?泣くわけないだろう?」
しかも遊星が何か言おうとするとそれを遮るかのように話して来る始末。何も言えない。
「こんな健気なオレを置いて行くのか?グレルぞ?それでもイイのか?」
ぐれたモンスターを見てみたい気もする。
「ああ・・・ジャックの下に行ったらあんな事やこんな事させられるんだろうな。」
何処か意味真発言をしながらチラッと遊星の方を見る。
何処か呆れ顔をしながら苦笑する遊星。
「解った。サテライトに戻る時は、お前も一緒だ。でもレッド・デーモンズに逢えないからって駄々を捏ねるなよ。」
「駄々なんて捏ねないよ〜。オレ子供じゃないもん。」
充分過ぎる程子供っぽいと思う。
スターダストの一面を垣間見た様な気持ちの遊星。
その日の晩は、遅くまで取りとめの無い話しをしていた。
ああ・・・コイツは、オレにとって掛け替えのない存在なんだ。
そうまるで家族の様な・・・