絆(ジャック・レッドデーモンズ)
夜空に輝く満天の星。
シティで星が見れる事なんてそうそうに無い。
下を見れば宝石箱から零れ落ちた宝石の様な輝きを放つネオン。
星々でさえこのネオンの輝きには、その姿を隠す程適わないのだろう。
だが目に見える星々よりもネオンよりも美しい存在を自分は、知っている。
プライドが高く我儘な存在だが・・・
それでも美しいと思った。
「レッド・デーモンズ 夜景なんか見てどうした?」
シャワーでも浴びて来たのだろうバスローブ1枚羽織ったジャックが話し掛けて来た。
数日前に病院を退院したばかりで今は、静養している。
レッド・デーモンズは、話し掛けて来たジャックの方を見ようとしない見なくても話しは、出来るからだ。
そんなレッド・デーモンズの態度に気にする様子も見せないジャック。
レッド・デーモンズの視線は、夜空に向けられていた。
「星が見える。」
ポツリと呟く様に言う。
「星?」
「このシティでも星は、見えるんだな。」
シティに来て2年になるが空を気にした事なんて無かった。
気にしなくても見上げなくても自分だけに輝く星は、直傍に居たから。
「大方 ソリッドビジョンだろうがな。」
レッド・デーモンズの瞳に夜空が映ってない事ぐらい容易に想像出来るがそれでも造り物の夜空だと言う
「フ〜ン」
と空返事を返すレッド・デーモンズ。
「スターダストが気になるのか?」
レッド・デーモンズが如何にスターダストの事を想っているのかジャックにだって解る。
解るからこそスターダストを公式のデュエルで1回も使わなかったのだ。
「気になんかならない。・・・ただスターの気が揺れた・・・」
何処に居てもスターダストの気を追う事が出来る。
そう言えばジャックには、言ってないけどジャックが入院中、遊星が何度も見舞いに来ていた。
ただ逢い難いのかジャックの病室には、来なかった。
見舞いの品は、全てジャックの秘書である狭霧に託し帰っていた。
狭霧は、何度も遊星にジャックに逢って行く事を進めていたのだが・・・
結局首を縦に振る事は、無かった。
それ故に遊星からの見舞いの品は、1ファンからのモノだとジャックに伝えられ処理されていた。
何時もジャックの瞳は、外に向いていた。
ジャックは、何も言わないが遊星が来る事を心待ちにしていたのだろう。
何の柵も無くなった今となっては、遊星への想いを隠し通す必要が無いのだから。
それに自分もスターダストに逢いたかった。
折角病院に来ているのだから会いに行けば逢えたのだ。
だが自分が病室を離れればジャックに変に思われる。遊星の気持ちを察し会いに行かなかった。
逢いたい気持ちを抑えながら。そしてそれは、スターダストも同じだと思った。
遊星を一番に想っているスターダストの事だから・・・
「遊星の身に何か有ったのか?」
そんなレッド・デーモンズの気持ちを知らないジャックは、スターダストの『気が揺れた』との言葉に焦っていた
のだろう・・・表面上冷静さを保ちながら。
「いや・・・そんなんじゃ無い。」
何かしら危害を及ばされた様な感じのモノじゃない。
何か精神的にショックを受けた様な感じのモノだ。
(まさか遊星のヤツ。スターの心を傷つける事を言ったのか?)
遊星の事を想っているスターダスト・・・
「ジャック お前は、遊星をこのままにしておくつもりなのか?」
もし遊星がスターダストを傷つけるような事を言ったとしたらそれは、解れ話しだと直感した。
どうして?と問われれば自分がジャックから言われたく無いから。
それ以外なら?と問われたらスターダストの事だ。
だが遊星は、決してモンスターの事を悪く言わないだろう・・・そう考えれば解れ話し以外思い付かないのだ。
「どういう意味だ?」
ジャックの片眉がピクッと反応する。
だがガラスに映ったジャックを見る限りそんな些細な動きなんて解るわけが無い。
「言葉のままだ。折角遊星がこのシティに居るのに傍に置く事もしない。逢いにも行かない。
このままだと遊星は、黙ってサテライトに帰ってしまうかもしれない。」
遊星には、このシティは似あわない。
シティは、巨大な都市だが自由なんて無い。
裕福な生活を送る市民と言えど見えない鎖で繋がれ見えない檻で囲われ飼われている只の動物。
『キング』と呼ばれているジャックにだって本当の自由なんて無かった。
ジャック自身もまた檻で飼われている道化でしかないのだ。
それを傍で嫌と言うほど見てきた。
貧しいとは、言えサテライトの方が自由なのかもしれない。
だが今の彼は、もう『キング』では無い。彼を縛るモノは、もう無い。自由なのだ。
「お前がそんな事を気にするとは、思わなかったぞ。」
「気にて居る訳では、無い。何も行動を起こさないお前を見ていて疑問に思っただけだ。」
「ククク・・・この俺がみすみす遊星を手放すと思っているのか?」
ああ・・・そうだったなコイツは、一度手に入れたモノを簡単に手放す様なヤツじゃない。
だから2年も『キング』の位に君臨出来たのだ。
人一倍強い執着心で。
(そんなコイツが気に入って傍に居るんだった。)
「追いかけるのか?」
「当然だろう?キングとは、《追われる者》。ヤツは、今そのキングなのだ。」
(コイツは、全くもって正直じゃない。ただ遊星と離れたく無いだけだろうに)
だがそんなコイツも気に入っている。
ああ・・・そうか俺とコイツは、似ているんだ。
何処が?と問われれば答えに困るけど。
似ているからこそコイツを助けたい・守りたい等と思うんだな。