魔法の水-1-
鬱蒼と生い茂る草木。
まるで童話とかに出て来そうな場所。
不気味な気持ちで歩いていると
「ど〜したの?迷子?」
背後から抱きついてくる物体。
何処かで聞いた事のある脳天気な声。
しかも変な所を迷う事なく触ってきているのだ。
背筋を這う否な虫みたいなのを感じ思わす肘鉄を相手に食らわす。
見事にヒットしたのか相手は、呻き声を上げ背中から離れた。
「イタタタ・・・」
振り向くとやはりヒットしたようで腹部を押えている人物が蹲っていた。
「急に人に抱きつくなんて失礼じゃないか!」
腕組をしながら蹲っている相手に言うと
「そんなぁ〜君の所為なのにぃ〜!!君が余りにも可愛かったからどうしても抱きしめたくなったんだよ。」
涙目になりながら訴えて来る相手の顔を見て藤原の眉間に皺が寄る。
(僕は、この人を知っている・・・まさかこんな破廉恥な男なんて僕は、知らない)
男は、自分を冷ややかに見下ろす視線に溜息と吐くと
「どうして君は、こんな森に居るの?」
質問する事にした。
「それは、僕が知りたい事だ。気が付いたらココに居たんだから」
そう自分の意志でココに来たんじゃない。気が付いたらココに居たのだ。
だから問われてもちゃんと答える事なんて出来ない。
「とにかく僕は、僕の居た世界に戻りたいんだけど」
「何処から来たのか解ってるの?」
「解らないよ。でも戻りたいの!!」
あくまでも相手を見下す態度を変える事無く言い放つ。
「何処から来たのか解らないのに戻りたいって・・・それってオカシク無い?」
「オカシク無いよ。僕は、当然の主張をしているだけだもん」
「君ってさぁ〜我儘な御姫様タイプだよね」
「僕は、御姫様じゃなくて女王様タイプなの」
そこまで言い切る藤原に男は、また溜息を吐くと何処から取り出したのか小瓶を藤原に差し出す。
(普通レベルアップをさせるか?)
「・・・これは?」
相手の手にある小瓶を見ながら
「これは、今君が叶えたいと思っている願いを叶えてくれる魔法の水だよ。」
「魔法の水?眉唾モノじゃないよね?」
その視線は、疑いの色を乗せている。
「ただしこの魔法の水には、ちょっとした副作用があるんだ。」
「副作用?どんなの」
「それは、個々それぞれでどんな副作用が出るのか解らない。これを使うかどうかは、君次第だよ。
一先ず君に渡しておくから自分で決めてね」
男は、藤原に小瓶を渡すと消えてしまった。
藤原は、暫く小瓶を見つめていた。
使うか使うまいか・・・
この不気味な森を抜ける為になら使いたい・・・だがこれを使えばどんな副作用が起きるのか解らない・・・
もしかしたら不気味なモンスターになったり動物になったり植物になったりするかもしれない。
最悪の場合ミンチになってしまうかもしれない。
副作用が起きるのならせめて人間の女の子あたりで留まって欲しい。
ギャギャギャ・・・・バサバサバサ・・・
何かの鳴き声と羽ばたき音。
一瞬だが背筋が凍る思いをした。
「ええい!!!これも僕の運次第!!」
そう言うと藤原は、小瓶に入っている魔法の水を一気飲みした。
「これでこの森から抜けられる。」
次第に自分の躰が薄れ消え始める。
光のトンネルを抜けて行く気持ちになる。
++++
「うん・・・」
ゆっくりと目を開ければ霞んで見えるが見なれた天井。
ゆっくりと躰を起こし辺りを見渡せば見なれた部屋。
「あれ・・・僕・・・」
目を擦りながら何があったのか思い出す。
(ああ・・・そうか勉強していて急に眠くなったんだった。)
それでベッドの上で仮眠をとるつもりだったのに本気で寝てしまった。
「・・・ふぅ・・・」
(それにしても変な夢見たな)
夢に出て来た男が吹雪にそっくりだった事を思い浮かべる。
そしてそんな彼から貰い受けた小瓶。
(夢の中でも吹雪は、御調子者なんだな。まぁ夢の中で変な水を飲んじゃったけど夢は、夢なんだし・・・)
現実に起るワケが無い。そう思いながらも腕に当たる違和感。
ムニュ〜
「・・・・・・・・・・」
モミモミ・・・
胸元に柔らかい感触。
急に顔が青くなっていく。背中に冷たい汗が流れ落ちる。
股間に手を持って行くと眩暈が起きそうだった。
そこに在るべき物が無いのだ。
恐る恐るベルトを外しファスナーを下げ中を覗き見る。
見馴れたモノが無い。
フリーズしてしまう思考回路。
しかし暫くして・・・
「ギャ〜!!!!!!!!!!!!!」
と声を上げてしまう。
(どうしよ!どうしよう!どうしてこんな事に・・・)
やっぱり夢の所為????
「どうしたの藤原?凄い悲鳴をあげて???」
藤原の悲鳴を聞きつけて急いで来た吹雪。
吹雪の顔を見るや否や思わず叫び声を上げて吹雪を廊下へと投げてしまう。
急いで部屋の扉にカギをかけバリケードとして家具を置く。
これで一安心かと思われたが・・・
「酷いよ〜。僕を投げるなんて・・・」
何処から入って来たのか背後から吹雪の声が聞えて来る。
背後を振り向けば吹雪の姿とその後に縄梯子が見える。
「ぎゃぁぁぁ!!!!吹雪 美食の魚達に美味食べられてね!!」
そう言うと吹雪の襟首を掴みベランダから投げ飛ばす。
暫くして聞えて来た水の音。
それを聞きながら藤原は、両手を合わせて
「安らかに眠ってね」
等ととんでもない事を口にしていたのだった。
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