思慕
やっと見つけましたよ不動博士・・・
ゴドウィンは、局長室から窓の外を眺めながら過ぎ去った過去を思い出していた。
その過去は、モーメント1号機が暴走する前迄遡る。
若かりし頃、初めて彼を見た時好意を抱いた。
誰しもを惹きつけ離さないのに決して心開く事無く誰も信じず、誰も心から愛せなかった哀れな男。
そんな彼の心を自分に向けさせようと彼が望む事なら何なりと叶えて来たつもりだった。
彼が結婚した時でさえ祝福をし子が誕生した時でも祝いをした。
彼の誕生日だって贈り物をしたぐらいだった。
今思えば彼を振り向かせ自分のモノにしようと躍起だっていた事に苦笑せずには、おけない。
「若いっていいですね。何も恐れる事なく突き進める。例えその先に破滅が待っていても。」
私は、貴方が欲しかった。
私は、貴方の才能よりも貴方自身が・・・貴方の心が欲しかった。
だが貴方は、誰にも心を渡さなかった。
貴方の妻である女性にさえその心を開かず渡さずにいた。
何が彼をそうさせていたのか解らなかったがそんな彼が唯一心を開き無償の愛を注いだ相手が居た。
彼の子息『遊星』・・・。
不動博士が大切にしていた愛し子。
「貴方は、自分自身しか愛せなかったのですね。」
正確に言えば遺伝子の方かもしれない。
『遊星』は、唯一不動博士の遺伝子を受け継いでいるのだから・・・。
しかしそんな不動博士の前に1人の男が立ちはだかった。
それが学会の発表で知りあったアトラスと言う男。
不動博士が自らヘッドハンティングをしてまで手に入れた相手だ。
誰も信じず誰も愛せない孤高の不動博士・・・。
そんな彼の心を本の僅かだとは、言え動かした天才博士アトラス。
誰も出来なかった事を・・・。
それを妬ましく思った。
自分は、不動博士の心を自分に向けさせる為にどれだけの時間と御金を費やした事か。
それなのにアトラスは、本の僅かな時間で彼の心を本の僅かだが動かした。
「貴方は、何故彼だけに心を許したのです。?」
例え僅かな事だったとは、言え彼の心の片鱗を手にしたアトラスと自分がどう違うのか・・・。
同じ人間だと言うのに・・・。
だが答えなんてとても簡単であっけないモノだった。
不動博士は、何事に対しても受動的だったのだ。そしてアトラスは、その反対の能動的だったのだ。
アトラスより先に一歩踏み込めていたら不動博士は、アトラスより自分に心を開いたのかもしれない。
そう思うと躊躇し踏み出せなかった事を今更ながら後悔した。
しかしアトラスより先に一歩先に踏み込めたとして本当に不動博士は、心を開いてくれたのだろうか?
もしかしたら更に心を閉ざしてしまったのかもしれない。
「貴方は、本当に不思議な方だ。」
あの事故で不動博士の息子は、養護施設に送られたが環境が適さなかったのか施設に居た子供2人と一緒
に施設を脱走。
尽力の限り探したが見つからずじまい。
見つけた時には、サテライトの環境に適応していたのだった。
トップスに生まれ両親が健在なら今頃両親の後を継ぎ優秀な博士の道を歩んでいただろう。
「不動博士 私は、貴方を諦めたワケでは在りません。」
貴方の子息で在り貴方がもっとも愛し貴方の遺伝子を持ち貴方の生き写しである『遊星』。
貴方に注ぎ込めなかった私の思いを彼に注いでいきましょう。
だが不意に脳裏に過ぎるのは、不動博士と共に逝ったアトラスの存在。
彼の優秀な遺伝子を受け継ぐ子が『遊星』の傍に寄り添い父親同様熱い想いを注いでいた。
だが彼の存在を忌々しく思う事は無い。
彼の存在が在る以上『遊星』を失う事は、無い。
「ジャック 貴方には、彼の盾になってもらいましょう。」