1人きりのクリスマス-遊星編-


 何時も傍に居るのが当たり前だと思っていた。

 

初めて向える彼が居ないクリスマス。

毎年2人で見に行っていたイルミネーション。

2人で見て居る時は、綺麗に感じていたのに1人だと色あせて見える。

オレンジの温かい暖色も今は、虚しい寒色にしか感じない。

 

クリスマス料理を作っていた簡素なキッチン・・・。

2人だとキツク感じていた空間も今は、広く感じる。

楽しかった時間・・・。

クリスマスとは、言えプレゼント交換なんてない。

そんな金は、無いから。

でも彼は、普段から物では無く言葉をプレゼントしてくれていた。

だから充分だった。

それなのに彼は、オレと共に「シティに行こう」と言う。

彼は、オレがシティのトップス出身だと言う事を知っている。

そして両親の事も・・・。

今のオレには、関係無い事なのに・・・。オレは、サテライトに住む『不動遊星』で充分なのだ。

ただ、彼さえ傍に居てくれたら。

そんな話しを何度もしたのに・・・。

 

シンシンと降り出す雪。

この雪は、シティにも降っているだろう。

今頃、彼は新しい人生を謳歌しているに違いない。

 

遊星は、地下から出て空から舞い落ちる雪を眺めていた。

「遊星!!早く〜始まるよ。」

地下の階段から遊星を呼ぶラリーの姿。

細やかながら恒例のクリスマスパーティを行う為に。

「ああ・・・解ったすぐ行く。」

 

こんなにも彼の存在は、自分にとって大きなモノだったのか・・・

 

居なくなって彼がどれだけ自分の心を占拠していたのか思い知らされる。

胸が締め付けられる思い・・・

昨年まで彼と共に過ごし楽しかったクリスマスが思い出される。

(忘れないと・・・彼が居るのは、シティ・・・彼は、別世界の住人なのだ。)

遊星は、軽く頭を振り階段を降りる。

 

「遊星ぇ〜遅い。」

「すまない・・・」

「オイ。遊星こっちこっち」

テレビの前に集まる仲間達。

珍しくシャンパンにもクリスマス料理にも手を出していない。

手招きされるがままテレビの前に座れば派手なタイトルコールと共にデュエルスタジアムが姿を現す。

紹介される挑戦者。

そして『さぁここまで無敗の英雄。連戦連勝の王者。何時まで記録を更新出来るのか?彼の記録を止める

事が出来るのか?我等が英雄ジャック・アトラス!!!!』

吹き出す煙幕。

その煙幕を突っ走る白いD・ホイール。

「キングは、常に1人でなければならい。キングに相応しいのは、このジャック・アトラスのみ!!」

高等かに宣言するジャック。

その姿に遊星は、食い入る様に見た。

何時も見ているテレビ番組なのに・・・見慣れた光景なのに・・・何故か心が踊る。

こんなに楽しい気持ちでテレビを見た事が無い。

何故?と思いながらも魅入ってしまう。

ジャックがその気になれば勝敗が直についてしまうだろうが今夜に限って少し長い。

「何か自分の姿を少しでも見せて居たいって感じがする」

ボヤク様に言われ『ハッ』とした。

このデュエルは、ファンサービスや多くの人に見せる為に行われているワケでは無い。

この世でたった1人の人間に自分と言う存在を忘れさせない。

寂しい思いをさせない為に行われているデュエルだと気が付いたのだ。

遊星の為だけに行われているデュエル。

一緒に過ごせず寂しい思いをしている遊星に少しでも寂しい思いをさせない為に・・・。

「バカだな・・・」

思わず漏れた本音。

だが仲間達には、聞えないぐらい小さな声。

(お前からオレへのプレゼントのつもりなんだろうけどオレからお前に何もプレゼントしてあげられないだろう?)

ああ・・・そうかオレがお前の元へ行く事がお前への最高のプレゼントなんだな。

 

今製作中のD・ホイールを早く完成させお前に会いに行く。

そうだな理由を付けるなら奪われた「スター・ダスト」を取り戻す為・・・と言う事にして。

オレもお前も素直じゃないからそれぐらいの理由が在ってもいいだろう?

 

ジャック・・・お前は、遅いオレの返品不可能なクリスマスプレゼントを受け取ってくれるよな?

 

試合が終わる時間まで後数分。

残りの時間、ジャックを食い入る様に見つめた。

彼の姿を瞳に焼き付けるかの様に。

 

それが彼が自分に対するクリスマスプレゼントだと思ったから・・・

 

試合が終わりテレビ画面から彼の姿が消えたのに遊星の瞳の奥には、何時までもジャックの姿が映っていた。

彼からの最高の贈り物・・・

 

 

ジャック・・・必ず逢いに行くから・・・


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