密か
一緒に住んで暫く経つがジャックには、気になる事が一つ有った。
遊星がレッドデーモンズと買い物に行っている間にその気になる原因のモノを探す事にした。
自分と遊星の部屋・・・
一緒の部屋を使っているとは言え個々の共有出来ない所有物に関しては自分達専用のクローゼット
に入れ管理している。
やっては、イケナイ事だと重々承知なのだがどうしても気になり知りたいと思っている事があったので遊星
には、申しワケ無いと心の中で謝りながら遊星が管理する所有物を勝手に捜索した。
だが気になるモノを見つけ出す事が出来なかった。
深々と溜息を吐き諦めモードで居ると
「ジャック何してるの?」
掃除機片手に部屋に入って来るスターダスト。
どう言うわけか自分の意志で家事全般を請け負っている変ったヤツだ。
「ノックぐらいしたらどうだ?」
「ノックなら何回もしたし声も掛けてみたけど無反応だったから入って来たんだ。
それより遊星のクローゼットなんか開けて何してるの?」
スターダストの問い掛けに一瞬ドキッとしたが
「遊星に預けていたモノが有る事に気が着いて探していただけだ。」
「フ〜ン だったら遊星が帰って来るまで待っていればいいのに・・・」
そう言いながらスターダストは、プラグにコンセントを差し込み掃除機のスイッチを入れる。
その動作を見ながら今尚アナログな物を使う事に呆れていた。
「そんな物いい加減処分しろ。新しいのを買ってやる。」
見るに耐えがたい事だったのだ。
しかし・・・
「ダメだよ。だってこれは、遊星が修理したモノなんだもん。遊星は、何時も『直せば使えるんだから』って言って
いろんなの修理して使っていたよ」
確かに遊星は、昔から何でも修理して使っていたしジャンクの中から使える部品だけを取り出し新たに命を創造
していた。
主が主なら僕も僕と言う所か・・・
「ジャック邪魔だからリビングにでも行っててよ。」
オカンモードのスターダスト。
スターダストが母親ならさしずめレッドデーモンズが父親と言う所なのか?
ジャックは、部屋を出てオヤジモードのレッドデーモンズを想像したが如何せん今のレッドデーモンズは、遊星の
姿を借りているのだ。
想像した内容が遊星とだぶってしまいそうになる。
それよりも今自分がしたい事、確認したい事を優先しなければならないのだ。
1人悶々と考えているジャックの目の前に差し出されたマグカップ。
そこには、熱い珈琲が注がれている。
「ミルクと砂糖は、自分で入れてね。」
そう言うとスターダストは、ジャックの向いに座り暫くジャックの方を見つめると。
「ジャックが何を気にして何を探しているのか何となくだけど解った。」
ズズズ・・・とミルク入りの珈琲を啜る。
「何が解ったと言うのだ?」
眉間に皺を寄せ訝しむと
「2年前の事・・・でもそれ以上は、言わないよ。だってそれは、ジャックと遊星の間での事だもん。
例えオレが知っている事でも遊星の許可無くして教えてあげられない。」
スターダストの言葉に一瞬ドキッとしてしまう。
確かに自分が気にしている事、探しているモノそれは2年前に遡る。
もしスターダストの言葉がハッタリでなければ自分が探しているモノが何処に在るのか知っている筈。
しかし己が忠誠を誓いし主の許可無くして主が隠しているモノの所在を教えるなんて在りえない。
そんな忠誠が今は、忌々しく思えてし方が無い。
「遊星が帰って来たら確認したら?」
そう言うと飲み終えたマグカップを片手にキッチンへと向う。
昼食までに戻って来ると思っていたのに遊星は、戻って来なかった。
一応昼食に間に合わないと連絡が入った。
だが気になる事が有るので時間が伸びれば伸びる程確認したい気持ちが苛立ちに変り遊星とレッドが
帰宅した頃には、『超』が付くほど不機嫌なジャックと対面してしまう。
夕食中も不機嫌なジャック。
遊星が声を掛けるも素っ気ない返事しか返って来ない。
何が彼を不機嫌にしているのか思い当たらない遊星は、戸惑うばかり。
ジャックの不機嫌な理由をスターダストから聞いていたレッドは、呆れ顔。
食後のお茶も気まずい雰囲気で折角入れてくれた珈琲の味なんて解らない。
痺れを切らせたのか
「あっそうだ!!」
何かを想い出したかの様な声を上げスターダストが遊星の耳元で何かを囁き出す。
次第に赤くなる遊星。
「そっそれは・・・」
「別にいいじゃない。どうせ一緒に住んでんだし・・・」
「だけどな。」
何かを恥じらう遊星が可愛く思えるも何を話していたのか気になる。
「直接着けて貰うのもいいかもしれないよ。」
「ちょ・・・直接って・・・」
何を想像したの解らないが沸騰寸前と言わんばかりに真っ赤になっている。
それを余所にスターダストは、後を向き何かしら作業をしている。
そんなスターダストを覗き込んでいるレッドデーモンズ。
「お前が持っていたのか?」
呆れた声でレッドがスターダストに言うと
「預かっていただけ。」
そんな会話をしながらジャック達の方に向き直る2匹。
「ジャックから遊星の首に掛けてあげて」
そう言って手渡されたは、ループリングのペンダント。
2年前ジャックから遊星にプレゼントした物・・・
ジャックが気にして探していた物。
「遊星 お前は、これをモンスターにくれてやったのか?」
沸沸と湧き起る怒り。
モンスターにくれてやる為に遊星に渡したのでは無い。
どんなに離れていても自分の心は、遊星のモノだと言う意味で渡したのに。
「オレ貰ってないよ。遊星から預かっていたの」
「お前は、黙っていろ。これは、俺と遊星の問題だ。」
「遊星口下手なの知っているでしょ?上手くジャックに説明出来ると思う?」
ムス〜とした表情で問われてグッと詰まってしまう。
確かに遊星は、口下手で上手く自分の感情を現せない。
ジャックが一方的に捲し立てる様に言ったら更に何も言わないだろう。
「フ・・・だったら何故お前が持っている?」
一息入れて気持ちを少し落ちつかせてから言葉を紡ぎ出す。
「遊星から預かっていた。何時もは、肌身離さず首にしているんだけどジャックの前だけ外してオレに預けてい
たんだ。」
「何故?俺の前だけ。」
微かに眉間に皺が寄る。
「気恥かしいから。」
「は・・・恥かしいだと?」
カッとしてしまうジャック。
「そうカッカするなよ。お前がそうカッカすると遊星が言いたい事言えなくなるだろう。」
少しは、学習しろ。
「遊星は、言った方が良い。もう大人なんだから言いたい事、伝えたい事は、自分の口で言わないと」
「・・・解った。
フ・・・何時も知らない誰かとデュエルをしている時は、着けていたんだ。」
深呼吸をして気持ちを少しずつ話す。
普段は、肌身離さず身に着けているループリングのペンダント。
何時もジャックを傍に感じて居たいから。
デュエルでピンチに陥った時このループリングのペンダントがある御影で何度も切り抜ける事が出来た。
何時もジャックが傍に居て見守ってくれていると思っていたから。
だが本人を前にして着けている事が急に恥かしくなった。
ジャックにループリングのペンダントを着けている事がバレルのが怖くなった。
「女々しい」なんて思われたら?と思う様にさえなった。
ジャックの事がどれだけ好きなのか思い知れば思い知るほど今の自分が恥かしくさえ思えた。
それにジャック本人が傍にいるのに面影のジャックを見る必要性が無いと思った。
だからスターダストに預けたのだ。
ジャックが傍に居る間だけ・・・
言葉を選びながら紡がれる想い。
次第にジャックの方がどう反応していいのか迷い出した。
この場に自分と遊星だけならきっと嬉しさの余り遊星を抱きしめただろう。
愛おしさの余りキスをするだろう。
だが今この場には、スターダストやレッドデーモンズが居る。
僕だろうが気にする事なんて無いと思うのだが赤面し俯いている遊星が自分の所為で蕩けた様な表情になる
様を見せるのは、勿体無く感じるのだ。
もう苛立ちなんて無い。
遊星を愛おしく想う気持ちだけ。
気にしてた事が解決されて気が付いた。
遊星がループリングのペンダントをしていない事で不安になっていた事を・・・
そしてそれを確認し身に付けていない理由をしり安堵している事を・・・
「じゃぁ〜ジャックが遊星の首に着けて上げてよ。」
そう言うとスターダストは、ジャックにペンダントを手渡しレッドを連れてそそくさと退散していった。
スターダストなりの気遣いなのだろう。
そして本当に彼は、ジャックが気にして探していた物を知っていた。
どうして解ったのかは、解らないけど今は感謝するしかない。
「遊星 これは、お前が俺の事を忘れない様にする為とお前が俺のモノだと回りの者達に知らしめす為のモノ
だったんだ。」
優しい表情で遊星に語り掛けると
「そんな事しなくてもオレがお前のモノだって皆知っていた。だからオレがサテライトを抜け出す時、皆が応援
してくれた・・・」
「フッ・・・確かに連中には、気付かれていたかも知れんがアイツ等以外に気付いているヤツなんて居ない。」
確かに仲間以外自分達の関係に気が付いて居る連中は居なかった。
ジャックが居なくなった後ひっきりなし遊星にデュエルを申し込む輩が多くなった。
そしてそう言う連中の開口一番が「もしお前(貴様)が負けたら俺の言う事をなんでも聞く事」だった。
連中にしてみればジャック無き後、高い知能を持った遊星は狙いやすかった。
遊星以外デュエルを出来るモノなんて遊星の仲間には、居なかったから。
だから挑まれたデュエルは、遊星自身が己が身を守る為のものだったのだ。
だが遊星の胸元に光るループリングのペンダントを見れば大抵の者は、諦めて行ったのも事実。
去り際に言われる一言も「ジャックの姫だったのかよ。」「ジャックに仕込まれてたんじゃなぁ・・・」とか最低な
言葉だと「ジャックに突っ込まれなくて寂しいんじゃないのか?」「ジャックに突っ込まれてどんな声を上げていた
んだ?」とかがあった。
それの大半がこのペンダントの所為だとは、思わなかったが。
「遊星 今度は、俺がお前の首にコレを着けてやる。その意味は、解っているな?」
これをジャックから直接着けて貰うというのは、自分の全てをジャックに託すと言う事・・・
改めてそう思うと不安と嬉しさが入り混じってしまう。
「お前もコレと同じの持っているんだろう?」
先程までのジャックの言い方だともう1個存在していてもオカシク無い。
「ああ・・・そのリングの片割れを持っている。」
差し出された左手薬指に嵌められているリング。
大きさこそ違えど紛れも無く遊星のループリングと同じモノ。
「それ・・・」
「何時も身に着けていた。おかげで煩わしい事から逃れる口実となったがな。」
口実・・・いや事実だろう。この身は、既に遊星のモノなのだから。
「このリングをお前が俺に着けてくれ。」
そう言うとジャックは、自分の薬指に着けられていたリングを外す。
長年着けていた証としてその指には、クッキリと指輪の痕が付いていた。
「だったらこのリングのチェーンは、いらない。」
そう言うと遊星は、ジャックの手に握られていたループリングのチェーンを外しジャックの掌にリングを置くと
「オレの指に嵌めてくれ。」
左手を差し出す。
この行為がどれだけ遊星にとって勇気が居る事なのか今の彼を見ていれば充分に解る。
「ああ。これでお前は、俺の・・・俺だけのモノだ。」
そう言いながら遊星の左薬指に指輪を嵌める。
そして遊星もジャックの指輪を彼の左薬指に嵌めたのだった。
一方2匹のドラゴンと言えばその身を小さなドラゴンに変え自分達の部屋のベッドでシーツに包まっている。
「なぁ 何でジャックの考えている事が解ったんだ?」
不思議そうに訊ねるレッドに対し
「う〜ん・・・感かな?ジャックがもし何かを探すとしたらそれは、自分と遊星が関係するモノだと思ったんだ。
2人に関係するモノ・・・デッキじゃないだろうしD・ホイールでもないし・・・そこで思い出したんだ2年前ジャック
が遊星にループリングのペンダントを渡していたのを。」
渡したと言ってもジャックが遊星の首に掛けてあげた訳では無い。
包装紙に包まれ遊星のデッキホルダーに入れられていたのだ。
当初遊星は、ジャックの忘れ物だと思っていたがリングの内側に『J
or Y』と刻まれている事に気が付き
それがジャックから遊星へのプレゼントだと知ったのだ。
それ以後 遊星は、出来るだけ肌身離さずペンダントを着けていた。
「でも もうコソコソと着ける事無いんだ。」
「密かに想い続ける事も無いしね。」
まぁ元々恋人同士なので密かに想い続ける事も無い。
「スターこれからも一緒に居ような」
「急にどうしたの?」
「密かに想っていた事を口にしただけ」
「マスター達が一緒に居る限りオレ達は、何時も一緒だよ。」
その夜、誰にも知られぬ事無く誓い合い秘め事が行われたのは、言うまでも無い。