私達から貴方達へ
はれてマスターが一緒に住む事になり互いの気持ちを確認しあった。
それを喜んでいる者が居た。
彼等のエースドラゴン達である。
恋人同士でありながらもマスター達の都合で一緒に居る事の出来なかった2匹。
それが一緒に住める事になるのだから喜ぶのも当然である。
2匹の喜ぶ姿を見てジャックも遊星も自分達の所為で辛い思いをさせていた事に申しワケ無い
気持ちでイッパイだった。
2匹は、今迄己がマスターの姿で居たのに何故か今は、双方のマスターの姿へとなっている。
それは、互いのマスターの姿が好きなのと己がマスターがもっとも愛する者の姿だからだ。
「スター何しているんだ?」
朝からキッチンに篭っているスターダスト。
マスター達は、朝から出かけていて夜7時頃迄帰って来ない。
2人っきりの時間・・・
それなのにスターダストが傍に居てくれない事に不機嫌そうな表情しているレッドデーモンズ。
「ん?明日は、バレンタインデーと言うモノらしいんだ。」
「バレンタインデー?」
そう言えば毎年2月24日になるとジャック宛てに色とりどりの包装紙に包まれたチョコレートが贈られ
来ていた事を思い出す。
「ジャックが毎年沢山ファンから貰っていたな・・・」
呟く様に言うと。
「彼は、キングと呼ばれていたからね。老若男女問わず彼に好意を抱く人は、多いと思うよ」
笑みを浮かべて意気揚揚と作業を進めるスターダスト。
「・・・で何をしているんだ?」
明日がバレンタインデーだと言う事は、解ったがでもスターダストが行っている行為とが結びつかない。
「バレンタインと言えばチョコレートだよ。」
「チョコレート・・・」
「そう。固形のチョコを湯煎で溶かし自分の好きな型に流し入れて固めるんだ。」
何処か嬉しそうにしているスターダストに申しワケ無いが何故そんな事をするのか解らない。
だってワザワザ固形のチョコを溶かして型に入れ固め直すのか。時間の無駄だし行為の無駄にしか
思えない。
それにその手作りチョコを誰に渡すつもりなのか?
考えがそこに行きつくとレッドの不機嫌そうな顔が次第に緩み出す。
スターダストは、自分の為にチョコレートを作っているのだ!!と思ったのだ。
しかし・・・
「遊星喜んでくれるかな〜」
スターダストの口を突いて出て来たのは、彼のマスターの名前。
「ゆ・・・遊星の為に作っているのか?!」
幾分声を荒げて問うと
「そうだよ?だって遊星は、大切なマスターだもん。あげるのは、当然だと思うよ。」
あっけらかんと言われてしまう。
スターダストは、口に出していないがジャックの分も作っている。
勿論レッドデーモンズの分だって作る。
そんな事を口に出さなくてもレッドデーモンズには、解って貰えると思っていたがそんなスターダストの気持ち
に気付いていないレッドデーモンズは、ショックを受けていた。
確かにスターダストが遊星の為に作るのは、理解出来るけど・・・出来る事なら社交辞令でもいいから
「レッドの為だよ」って言って欲しかった。
意気消沈のレッドデーモンズにやっと気が付いたスターダスト。
スターダストは、満面の笑みを浮かべながら
「一緒に作ろう。きっとジャックも喜ぶよ。」
「ジャックが喜ぶのは、遊星からのチョコだけだ。」
そして自分が喜ぶのは、スターダストのチョコだけ・・・
「ふ〜ん。まぁ遊星からジャックに上げるのは、本命チョコだもんね。そりゃ喜ぶのは、当然だけど・・・
オレ達があげるのは、義理だから別に喜んでもらえなくてもいいや。
あっでも遊星は、義理でも自分の為に作ってくれたって喜んでくれると思う。」
相変わらずのプラス思考。
そんなスターダストが羨ましい。
「義理チョコ作りに時間裂くのかよ。俺との時間より大事なのか?」
何だかモヤモヤとしたモノが胸の辺りで渦巻く。
「義理チョコの為に時間なんて使わないよ。何怒っているの?本命チョコを作る為に時間を裂くんじゃない
か?もしかしてレッドは、オレにチョコくれないの?」
あっけらかんとしているスターダスト。
「・・・もしかして俺の為にチョコ作ってくれているとか?」
「当たり前でしょ?もしかしてオレが意地悪してレッドにあげないなんて事すると思っているの?
オレは、遊星にもジャックにもレッドにも食べて貰いたくて作っているのに」
公平にあげたいと言うスターダスト。
そんなスターダストの気持ちを知って嫉妬していた自分が急に恥かしくなって来た。
「なぁ・・・俺も一緒に作っていいか?」
今から材料の調達なんて遅い気もするしスターダストと離れたく無い。
一緒に作業をしたらきっと楽しいと思う。
そんなレッドに
「良いのに決まってるでしょ?だからさっき一緒に作ろうって言ったのに」
笑顔を崩さないスターダスト。
デュエルでは、あんなに酷い目に在っているのにそれを微塵にも出さない。
何時も笑顔で優しい雰囲気を振りまく
以前スターダストに
「どうしてデュエルで酷い目に在っても笑顔を崩さないのか・・・」
って訊ねた事があった。
そんな問いに対し
「えっ?デュエルで一番酷い目に遭っているのは、遊星の方なんだよ。オレなんか大した目に遭ってない。
オレが笑顔で居るのは、遊星の傷付いた心を少しでも軽くして少しでも癒してあげたいから。
だってオレが辛くて悲しい顔をしたら遊星の心が沈んで悲しい気持ちにしてしまうだろ?」
それが嫌だと言う。
「なぁスター・・・」
「ん?」
一緒にチョコ作りをしながら
「俺には、本当の顔を見せて良いんだからな」
「急にどうしたの?」
「俺の前では、作り笑いとか必要無いって言ってるんだ。」
「そんな事しないよ。だってオレ遊星の前でもそんな事した事ないもん。」
不思議そうな顔をしつつもレッドデーモンズの気持ちを察したのか
「レッドもオレの前では、本当の顔を見せてね」
笑顔を浮かべる。
その顔に思わずドキッとさせられた。
「と・・・当然だろう・・・」
今更ながら惚れている事を再認識させられる。
「さぁ早く作ろう。明日まで遊星達に隠して居たいから」
本当に嬉しそうにしているスターダスト。
「ああ・・・そうだな」
思わずつられてレッドデーモンズも笑顔になってしまう。
+++
---翌日---
何時チョコレートを渡すかタイミングを見ている2匹。
思わず何度も時計を見てしまう。
(たかがチョコを渡すだけで何でこんなにドキドキするんだよ〜。)
(こう言うのって何時渡せばいいんだ??)
2匹のらしからぬ行動に痺れを切らせたジャックが
「お前達何を気にしている?」
ソファの上で雑誌を読んでいる遊星を抱き寄せ寛いでいるジャック。
「えっ・・・いや・・・何も・・・」
「思いっきり挙動不信だぞ。」
疑いの目を向けられ戸惑う2匹。
菫色の瞳に全てを見透かされてしまいそうで気が気でなかったが
「なぁ・・・」
「うん・・・」
諦めたのか今がチャンスと感じたのか2匹揃ってキッチンに向う。
そして隠していたチョコを持ってリビングへ。
「「これ俺達から・・・」」
2匹から指し出されたのは、拙いラッピングをされたモノが2個。
眉間に皺を寄せるジャックに対し遊星は、キョトンとした表情で
「オレ達にか?」
それを受け取る。
「見た目は、不細工だけど味は保証する。」
ジャックの態度が気になったけど突っ込まない事にしたレッドデーモンズ。
そんな事を気にして場の雰囲気を壊したく無かったのだ。
スターダストからチョコを受け取った遊星は、ジャックの方を見る。
「仕方が無い・・・」
ジャックの溜息混じりの言葉を合図に遊星は、立ち上がり受け取ったチョコをジャックに渡すとそのまま
リビングから出て行く。
数分して戻って来た遊星の手にはレジ袋。
(まさか・・・)とは、思った。
チョコを貰える?と言う嬉しい気持ちと市販のチョコと言う残念さが入り混じった思い。
「これは、オレ達から」
そう言ってレジ袋から取り出されたのは、拙いラッピングをされたモノが2個。
だがそれは、手作りを意味していたので・・・。
しかし何時の間に作ったのか不思議だった。
何時も一緒に居た。
作っている所なんて見た事が無い。
「遊星・・・」
驚き故に唖然としているスターダスト。
まぁ貰えるなんて思っても居なかったので仕方が無いかもしれない。
「昨日作ったんだ。」
「「昨日?」」
レッドデーモンズの視線を受けてバツが悪いと思ったのかソッポを向くジャック。
「でも昨日は、オレ達がキッチンを使っていて・・・」
作れない筈・・・
「十六夜だ。」
ぶっきら棒に言葉を挟んできたジャック。
「だいぶと前に十六夜に頼んでいたのだ。」
「料理なら出来るけどお菓子作りとかは、やった事が無いから。
アキなら作った事があるんじゃないか・・・と思ったんだ。」
自分達の為に・・・そう思うとスターダストの感情が昂ぶって来て
「ゆうせ〜!!」
思わずギュ〜と抱きつく。
喜びを顕に抱きついて来るスターダストに少し戸惑いの表情を見せる遊星に対しジャックとレッドデーモンズは
「俺の遊星にそうやすやすと抱きつくな!!」
「スター抱きつくなら俺に抱きつけ!!」
嫉妬の声。
その夜ベッドの中で
「まさか遊星達から貰えるなんて思ってもみなかった。」
嬉しそうに言うスターダスト。
「あいつ等も俺達と同じ考えだったんだな。」
ジャックが眉間に皺を寄せた理由が解った。
きっとあのタイミングで渡されたら自分も同じ様な表情をしたかもしれないから。
「今度は、ホワイトデーだね。」
「えっ!!まだ何か作るつもりなのか?」
「バレンタインの御返しだよ。」
「・・・別に御返しなんていらないんじゃ・・・」
互いにチョコを渡しあったんだからそれが返しじゃないのか?と思う。
「気持ちだよ。」
「気持ちね・・・」
(でもスターに御返しをあげるのも悪く無いな・・・)
御返しを貰って喜ぶスターダストの姿を思い描きながら先程スターダストから貰ったチョコレートを思い浮かべる。
本当は、頭元に置いて眺めて居たかったのだけど「恥かしいからダメ」と言われ渋々サイドボードの上に置いた。
「もう寝よう。」
「おやすみスター」
「おやすみレッド」
クスクスと笑いながら眠りにつく2匹。
シーツの中では、互いの手を握りしめながら・・・
その頃・・・
「まさかスターやレッドから貰えるなんて思っても見なかった。」
「まぁ俺達と一緒に居た分思考が似て来たのだろう。」
「それじゃ来月は、御返しが来るかもな。」
「う〜・・・用意してやるか。」
「勿論」
「遊星 早くこっちに来い。」
「ゆっくり寝させてくれるんだろうな?」
「何もしないで寝るのは、不健康だが流石に俺も疲れているから何もしない。」
ジャックの言葉に少々の不信感を抱きつつもそれを表に出す事無く遊星は、ジャックの横に入ると急に抱きしめ
られ
「今夜は、冷える。お前は、湯たんぽの代わりだ。」
耳元で囁かれる。
確かに今夜は、冷える。互いに抱きしめあいながら体温を別けあうそれだけでもいいかもしれないと思う遊星だった。