幻夢〜桜が見る夢〜-番外編-
幻想的に舞い落ちる花弁。
海馬は、この光景が好きだった。
否 好きになってしまっていたのだ。
元々彼がこの世で唯一心奪われた者が好んでいたので自然と海馬も好きになっていた。
風が吹く度に起こる花吹雪。
その中に居るこの世の者とは、思えぬ美しさと儚さをあわせもつ存在。
何度舞い落ちる花弁に拐かされるのでわ?とヤキモキさせられたか解らない。
だがそんな気持ちもそう思わせる相手が居ると言う喜び。
舞い落ちる花弁を眺めている海馬の斜め後ろにピンクの濃淡の着物を身に纏った美しい真紅の瞳と燃える
炎を思わせる紅い髪を携えた少年が何処からともなく姿を現した。
「貴様か・・・余ほどその姿が気に入っている様だな。」
海馬は、少年の方を振り向く事無く話し掛けると少年は優しい笑みを浮かべて
『気に入ってます。私の孤独感を察し私を孤独から開放してくれた唯一の方ですから』
空気を振動させて聞こえて来る言葉と異なり心に直接話しかけてくる。
「貴様の頼みを聞き海馬邸から海馬Co.の所有する土地へと移したが・・・」
『あそこは、彼の君と出逢った運命の地。離れるにどれほど心迷わせたか・・・しかし私は、少しの望みに賭けた
のです。彼の君に今一度逢える事を』
海馬邸での大切な思い出。
心から愛でたあの方との思い出を置いて来る辛さ。
だが海馬邸に何時までも居ては、あの方に逢えぬと思い海馬邸を離れ別の地へと移った。
少しの可能性を胸に抱き・・・
「遊戯が貴様との記憶を持ってこの地に再度生まれて来る可能性なんてゼロに等しい。」
『されど彼の君がこの地に生まれて来る可能性は、ゼロでは在りません。記憶が無くても構わない。
彼の君に逢える能性が有るのなら私は、例え万に一つだとしてもそれに賭けてみたいのです。』
人ならぬ身故に私には、それだけの時間が在る。
風の声を聞き空を舞う鳥の声を聞き彼の君を待ち続けるだけの時間が・・・
「貴様が遊戯の姿を忘れぬ様に俺から貴様への贈り物だ。」
そう言って海馬は、桜の根元に小さな装置を一つ置き起動させた。
『これは!!』
そこに写し出された人物の姿に驚くのも当然。自分と瓜二つの人物がそこに居るのだから。
「これは、奴の残像。多少の言葉を話す事は、出来る様にはしてある。」
人を惹き付けて離さない紅。魅了されずには、居られない。
彼の君の紅蓮に魅入られてしまう。彼の君の虜へとなってしまう。
きっとこの人も彼の君の紅み魅せられ彼の君の虜となってしまったのだろう。
だからこれ程までみ彼の君を鮮明に再現出来たのだ。
「貴様にとって遊戯は、どんな存在なのだ?」
それを聞いて何になる?と海馬は、自分の心に問うてみた。
所詮己が傍に居るのは、人ならぬ桜の精。人では、無いのだ。
『私にとって彼の君は、常春の様な方です。貴方様にとって彼の君は、その様な存在では無いんですか?』
何故海馬がそんな問いをしてきたのか桜の精には、解らなかった。
何時も2人仲良く自分を見に来てくれていた。
2人の穏やかな表情が印象的で好きだったのだ。
「あいつは、俺にとって闇でしかない。」
己の闇を暴き断罪した存在。
しかし遊戯の纏う闇は、恐怖でも無く救いでも無かった。
何故か遊戯が纏う闇は、心地よかった。
『闇・・・』
たぶん普通の人が口にすれば恐ろしい言葉だろうが何故か海馬が口にすると恐ろしさを感じなかった。
桜の精は、海馬が言う闇を見たことも体験した事も無い。
だがその闇がどんなモノなのか解ってしまった。
彼の君の闇は、優しさを含んでいるのだ。
だが決して恐怖でも救いでも無い。自分と見詰め合う導きの闇なのだろう。
(ああ・・・貴方様は、その闇に導かれたのですね。己が夢に・・・自分の進む道に・・・)
「この装置は、貴様の思念によって遊戯を出現させる事が出来る様になっている。」
『私の思念』
「貴様では、この装置に触れる事なんて出来まい。」
そう精霊である以上モノに憑依しないかぎり触れる事なんて出来ない。
『貴方様は、御覧にならないのですか?』
「ククク・・・言葉が足らぬかったな。俺と貴様に反応して遊戯を映し出す。」
海馬邸の庭での出来事の様に・・・
(そう言えば、俺の言葉が足りず遊戯とよく口喧嘩をしたものだ。)
今となっては、楽しい思い出の一つとなってしまった。
(過去なんて俺に関係無いと思っていた。だが貴様と過した時間は、違った。貴様と過した過去は、俺にとって
関係が有り大切なモノなのだ。遊戯もし未来と言うモノが存在するのなら俺達は、そこで廻り合う事が出来る
のだろうか?)
自分らしからぬ思いに思わず苦笑してしまう。
『この装置が私の思念で動かす事が可能でしたら私の思いを入れる事も可能なのでしょうか?』
「そこまでは、実験していないから解らんが不可能では無い筈だ。」
強い想いを持っていれば不可能も可能にする力となるだろうから。
その言葉に精霊は、嬉しそうに笑みを浮かべ。
『ありがとう』
とだけ言い残し姿を消した。
(ありがとう・・・か・・・以前は、そんな言葉でさえ煩わしかったと言うのに今では、嬉しいと感じてしまう。
これは、貴様の所為なのか?遊戯)
そう思いながら海馬も踵を返し元来た道を進んでいった。
海馬亡き後、装置は壊れ修理する事叶わぬ状態になるが数十年後一人の科学者の手によって壊れた
装置は、修復をされ今一度美しくも儚い闇を映し出す様になる・・・