木の下で・・・


花の色づく孤島。

本来この孤島は、無人島。

人一人住まない場所だったのに物好きな人間が安値で売りに出されていたこの孤島を買取りどう言う神経なのか

こんな辺鄙な所にアカデミアを建てた。

しかもデュエリストを養成する為の学校を・・・

何処までM&Wに肩入れをしているのだ?と思いは、したもののそれを言う自分だってデュエルが好きでこの学校に

入学したのだが・・・

入学した頃、多分退屈な毎日を送るだろうと思っていた。

人生何処でどう変わるかなんて誰も想像だに出来ないだろう。

当事者である自分でさえ思いもしなかったんだから・・・

 

 

 

---入学式当日---

 

鮫島校長が壇上で新入生に歓迎の挨拶を言っている。

それを何処か遠くで聞いている。

どうして歓迎の言葉や贈る言葉は、こうも意味が無く長いのだろう?

何度同じ発言を耳にするのだろう?

立ったまま聞いているだけなのに何年間分の疲れが一気に押し寄せて来るようだ。

退屈で眠い。

座っていたら寝ていたかもしれない。

早く終わって欲しい。

クラスメートなんてどうでもいいデュエルをしてくれる相手さえ居れば・・・

それ以外なら寮に戻って寝たい。

そんな事を思いながら藤原は、ボンヤリと鮫島校長の話しを聞いていた。

長い歓迎の言葉が終わりクラスへと向かう。

1年生は、オベリスクブルーもラーイエローもオシリスレッドも同じ教室で勉強をする。

強者と弱者が同じクラスで勉強して何になると言うのだろう?

ただオベリスクブルーの実力をオシリスレッドの連中に見せつける事になるだけなのに。

まぁオシリスレッドの連中にしてみたら己の不甲斐なさを見せつけられ落ち込むか向上心を狩りたてるか。

オベリスクブルーの連中にしたら自己顕示欲を満たすのに丁度いいのだろう。

そんな喧騒なんてどうでもいい。

なんだか教室に行く気も薄れ藤原は、校舎を出て裏山へと向かった。

山と行っても優しい坂ばかりじゃない寧ろ険しい部類かもしれない。

それでも足を休める事なく進むと少し開けた場所へと辿り付く。

そこには、綺麗な花を着けた木が誇らし気に立っている。

傍に近づき見上げてみれば無人島には、不似合いな桜の木。

誰がこんな辺鄙な場所に植えたのか・・・。

しかし何故だかこの木を見ていると気持ちが和んで来る。

我知らず自ずと笑みが零れて来る。久しぶりに感じる穏やかな気持ち。

もっとそれを感じて居たいと思っていたのに

「ねぇ 君って何て名前なの?」

急に背後から抱き付かれ陽気な声で尋ねられる。

余りの出来事に藤原は、驚き身を捩り抵抗するがなかなか離れてくれない。

迂闊だった。桜の木に見蕩れていたとは言え人の気配を感じ取れなかった。

それにしても何と言うしつこい男なんだ。どんなに見を捩り抵抗していてもスッポンの如く離れてくれない。

雷でも必要なのか?と思った瞬間、藤原は勢いよく相手の足の甲を己が踵落としをした後、相手が怯んだ

隙を付いて鳩尾めがけて肘鉄を食らわす。

余りの見事な連携に自分を拘束していた男は、離れお腹を抱えながら噎せている。

『可哀想』だなんて思わない。寧ろ自業自得だ。

「酷いよ〜。足を踏んだ後に肘鉄だなんて・・・」

「急に人に抱きつく変態には、丁度いいと思うんだが?」

冷ややかな瞳で噎せている相手を見下すと。

「君が余りにも可愛いから声をかけたくなったんだ。」

余ほど痛いのだろう男の笑みが苦痛に歪んでいる。

「ねぇ 君の名前を教えてくれない?」

「慣れ慣れしい男だな。普通自分の名を名乗ってから相手に名を尋ねるもんじゃないのか?」

何処か古めかしいこだわりだろう。と思いは、するもののつい口を吐いて出てしまう。

「僕?僕は、天上院吹雪。君は?」

下心が無いのだろう。男は、あっさりと自分の名前を明かす。否偽名かもしれない。

しかしこんな孤島で偽名を語っても意味が無い。じゃぁ本名なのだろう。

「オレは、藤原優介。」

「藤原優介・・・優介ね。可愛い名前だね・・・って君って男なのぉ〜?」

驚いた様な声と表情。そんなに驚く必要も無いと思うし何処をどう見たら自分が女に見えるのだろうか?

自分の体形を思わずキョロキョロと見てしまう。

だが何処を見ても女らしい所なんて見当たらない。しいて言えば目の前の男より身長が低く細身と言う点だけ。

それに気が付いたのか吹雪が

「幾ら見ても無駄だよ。君の可愛さが僕の視覚を惑わしたんだから。」

「か・・・可愛いって・・・そんな台詞女の子に言えばいいだろ?」

吹雪の言葉に眩暈を起こしそうになる藤原。

「う〜ん。藤原には、女の子に無い可愛さが在るんだよね。僕を魅了してしまった藤原に責任を取って欲しいん

だけど」

あっけら感と言われ。

「責任って勝手に勘違いして来てそんな事言われてもオレには、どうしようもないんだけど・・・」

「あはっ・・・そんなの簡単だよ。僕と付き合ってくれたらくれたらいいんだよ。」

(付き合うって・・・友達になろうって事なのか?)

友達なんて必要無いと思っていた藤原にとって吹雪の申し出は、困惑と言うか迷惑でしかなかった。

断る口実を考えていると

「そんなに悩む事なんてないよ。返事は、待つから・・・あっでも出来るだけ早く貰えると嬉しんだけどね」

「返事を待つって・・・オレは、友なんて必要無い。君と親しくするつもりなんて毛頭に無い。」

ハッキリと自分の意思を相手に伝えると

「う〜僕は、藤原と友達になろうなんて思ってないよ。」

少しシュンとした態度を見せる吹雪に藤原は、己が耳を疑った。

(この男は、何を言っているんだ?友じゃなかったら何の返事を待つと言うんだ?)

言葉の意味が理解出来ない。

困惑している藤原に吹雪は、笑みを浮かべ優しく抱きしめると

「困った顔の藤原も可愛い。僕の可愛い藤原。僕だけの花であって欲しい」

藤原の耳元で囁く。

「なっ!!」

言葉の意味が何となくだが理解出来たのだろう。

みるみる内に藤原の顔が朱に染まりだす。

「オレにそんな趣味は、無い!!冗談を言うなら他の人にしてくれないか!!」

「冗談でこんな事言えないよ。それに僕だってそんな趣味は、無い。

僕の心は、藤原にしか反応してないんだ。」

吹雪の心臓の音が聞こえるんじゃないか?と思える程強く抱きしめられる。

余りにも恥ずかしくて藤原は、身を捩り逃げ様とする。

もしこんな光景を他人に見られたらアカデミー中の噂になってしまう。

しかもココは孤島。一度噂になれば逃げる術なんて無い。

そんなのは、御免こうむりたい。

「藤原の返事を聞くまで離さないよ。」

「ちょっと待て!!返事を待つんじゃないのか?」

先程そう言っていたじゃないか!!それなのに返事を返さないと離さないなんて我儘にも程がある。

「いい加減にしろ!!初対面の相手に・・・」

「誰かを好きになるのに時間なんて関係あるの?僕は、君に一目惚れしたって言うのに」

そう言われると返す言葉が無いがだからって男同士は、どうだと思う。

「男が男に惚れるんじゃない!!」

「性別なんて国境みたいなもんだよ」

「国境?」

何で国境と性別が関係するんだ?

「一線を越えたら怖いもの無し。」

一線を越えるまでは、ドキドキするが越えたらどうって事無い。

「ちょっと待てそれは、君の勝手な解釈であって一緒にしていいものじゃない。

オレは、普通に女の子と恋愛がしたい。」

「じゃぁ僕は、この腕を離さない。藤原が僕を選ぶまで・・・」

「はぁ・・・本当にいい加減にしてくれないか?じゃぁさ友達からってじゃ駄目かな?」

友達なんて作る気なんて更々無いのに・・・否 友達になったフリをしてだな・・・

「いいよ。だけど友達のフリなんてさせないよ。さっき藤原は『オレは、友なんて必要無い。君と親しくするつもりなん

て毛頭に無い。』って言ってたから。

僕の腕から抜け出す為に嘘を言っている可能性があるもん」

見透かされてどう言って良いのか本当に困る。

既に藤原の思考は、余りの事に停止しているのかもしれない。

「解った・・・本当に君と友達になる。デュエルの神に誓ったっていいよ。」

妥協しないといけないのか?だがこの男ならつまらないアカデミア生活を楽しいモノにしてくれるかもしれない。

そう思うと妥協するのも悪く無い気がしてくる。

「じゃぁ誓いのキスを・・・」

近づく吹雪の顔が近づいてくる。

それと同時に小気味良い音が鳴り響く。

「調子に乗るんじゃない!!」

頬を抑える吹雪。

その頬には、ハッキリとした手型が付いていた。

吹雪が頬を抑えることによって自由になった躰。

藤原は、吹雪から距離を取るとそのままその場を立ち去ろうとする。

「あっ!!ちょっと待ってよ〜。」

とっさに藤原の腕を掴み引き止める。

「何なんだ?」

「そんなツレナイ事言わないでよ。この花って何か聞こうって思ったんだよ。」

「はぁ〜?」

眉間に皺を寄せ吹雪の顔を見る。

本当に知らないのか冗談で言っているのか知り合ってまだ間もないので彼の性格が解らないが一先ず

「本当に知らないのか?これは、八重桜だよ。」

「へぇ〜これが八重桜か・・・初めて見るような気がする。じゃぁ極自然に見かける桜って何て言うの?」

「染井吉野の事?君って日本人?」

「う"〜それを言われると・・・一応日本人だけど・・・でも日本人の殆どの人が知っているなんて言いきれな

いよ。僕みたいに知らない人だって居ると思う」

「居るだろうね。でもテレビとかで染井吉野の名前は、出ると思うんだけど。ああ・・・君はテレビなんて見ない

のかもしれないね。寧ろ綺麗に着飾っている花達の事の方が詳しいかもしれないね」

「そんな事言わないでよ。僕は、美しいモノには、正直に反応してしまうんだから。」

「じゃ君には、桜なんて美しく感じなかったんだね。」

僕にとって桜は、綺麗な花なのに・・・

友達になって(それ以上の関係)欲しいと言って来ておきながら共有する話題や感情が無いなんて何だか寂しく

感じてしまう。

「これからいろいろと勉強しないと藤原と今以上の関係になりたいからね。」

ニッコと笑みを浮かべる。

そんな吹雪の笑みを見てドキッとしてしまった。

認めたくないけどその笑みが素敵に思えた。

だけどそんな事口に出さない。

だって悔しいじゃないか・・・

だから今しばらく・・・う〜ん、どれだけ焦らすのかは、解らないけど焦らすだけ焦らしてから気持ちを言う事に

した。

それをそっとこの木に誓って藤原は、歩き出す。

アカデミアに向かって・・・

 

「待って〜ふじわらぁ〜」

「早く来ないと置いていくよ吹雪」

「!!!」

 

もし上手く行ったら君に報告しに来るね。


戻る