Balance
「アァ・・・ダァ〜」
「美味しいのかい?」
「ウ〜」
遊星の世話を甲斐甲斐しくするルドガー。
そんな光景を何処か不機嫌そうに見ている不動博士。
「ルドガー 君は、遊星に何を食べさせているのだい?」
クマの絵柄が入った前掛けを着けブルーの歩行器に乗りルドガーから白い物体を食べさせてもらっている遊星。
不動博士が眉間に皺を寄せているのは、遊星が自分を見ない事じゃない。
愛息子が食べているモノが気に入らないのだ。
「何を・・・ってプレーンヨーグルトですが」
「解っている。息子にそんなモノを食べさせないでくれ。」
片手を振って拒絶する。
「大腸内を健康に保つ事が如何に大切な事か御解りにならないのですか?」
「解っている・・・」
「解っていません。もし遊星の身に何か在れば貴方は、仕事そっちのけで遊星の傍に居るでしょう。
もしそうしなくても心配で研究所じゃないでしょう?」
そう指摘され言葉を失う不動博士。
ココ最近 不動博士の研究室には、新しい小型の冷蔵庫が設置された。
それを購入したのは、不動博士では無くルドガーだった。
そしてその冷蔵庫には、遊星のおやつと思しきモノが入っており扉には『研究材料禁止』と書かれた張り紙がして
あった。
「遊星の健康管理を徹底的にしないと貴方は、安心して研究に没頭出来ない。
そうなると助手としてな大迷惑な事、この上無い。否 助手としてでなくても一般スタッフとしても迷惑なのです。」
己が上司にハッキリと意見するルドガーに不動博士は、更に言葉を無くす。
「それに幾ら貴方が乳製品が御嫌いとは、言えそれを遊星に押しつける様な事は許しませんよ。」
「別に押しつけては・・・」
「では、俺が遊星に食べさせるモノについてアレコレ言うのは、止めて頂きましょう。」
これでは、どちらが実の親なのか解らない。
「だったらせめてプレーンなどと味気ないものを食べさせず少し甘味無いし何かしら味の付いたモノを食べさせて
やってくれないか?」
「味付けには、充分気を付けています。今日は、たまたまプレーンですがそれ以外にも苺やブルーベリーの入った
ヨーグルトや菓子類を与えています。」
遊星の口の回りに着いたヨーグルトを拭いながら傍に在った持ち手の着いたマグカップを遊星に持たせる。
小さな飲み口の着いているマグカップを受け取ると小さな口でウングウングと咽を鳴らせ美味しそうに飲みだす。
「ちなみに遊星は、今何を飲んでいるんだい?」
否な予感を感じ憂鬱そうに訪ねると
「乳酸飲料です。」
(そう言えば冷蔵庫にボトルに入った白い物体が在ったな・・・もしかしてアレか?)
「遊星の健康を考え俺が作ったモノです。余計なモノが入ってない分安全ですよ。」
返って来た答えに不動博士は、何か得体の知れない疲れを感じてしまう。
「もしかしてヨーグルトや他の菓子も君の手作りかい?」
「勿論です。先程も申し上げましたが遊星の身に何か在るといけませんので」
「そこまで君が拘わらなくても・・・」
「別に拘わっているつもりなんて在りませんよ。俺は、俺にとって大事な時間を無駄にしたくないのです。」
(貴方と共居る時間を無駄にしたくない。何モノにも貴方との時間を邪魔されたくない。強いて言えば俺にとって
遊星も邪魔な存在。だが遊星は、貴方に誰よりも近付く事が出来る唯一の手段。その手段を多いに利用
させてもらう)
「その大事な時間と言うのは、遊星との時間なのかそれとも他の時間の事なのか興味が在るね」
憂鬱そうだった表情が何処か楽しそうにしている。
何かを期待しているのかそれとも期待していると見せかけているのか・・・
時にこの不動博士は、不思議な一面を見せる。
当初この博士の類稀なる頭脳に見せられ憧れを抱き傍に居る事を望んだが今は、この人の持つ魅力に魅了
され翻弄される事に快感を抱き傍に居たいと望んでしまう。
「そんな事を知ってどうするんです?俺が拘わるのは、あくまでも貴方だけだ。貴方は、それだけ知っていれば
いいのですよ。」
「秘密なのかい」
「秘密にしているつもりなんて在りませんよ。」
俺は、貴方が傍に居るだけで精神バランスが取れる。
貴方が遊星との時間を大切に己がバランスを取るように・・・
もし・・・貴方との時間を失う様な事になれば俺は・・・
遊星のおやつは、ルドガーさんの御手製です。
ちなみに不動博士の飲むお茶もルドガーさんが淹れています。
裏ネタにするつもりが失敗してしまいました。