感情


海馬Co.直属の研究場内。

不動博士が2階の廊下を歩いていると1階中庭の方でルドガーが他の研究チームの責任者と口論をしていた。

その間を何とか仲裁しようとしているレクス。

その光景を暫し見ていた。

不動博士と熱く口論する事は、あっても他者と口論なんてしないルドガーが怒りを露にしているのだ。

そしてその相手も怒りを露にして剥きになっている。

(大人気無い)

と冷静にその様子を見ながら

(レクスも大変だな・・・)

そんな2人の間で慌てふためいているレクス。

何が原因なのか・・・

暫くその光景を見ていた不動博士だったが研究室に残して来た遊星の事を思い出しその場を離れた。

 

 

+++

 

研究室に不機嫌な顔で戻って来たルドガーに疲労しているレクス。

そんな2人を出迎える不動博士。

2人に珈琲を煎れ差し出す。

「ルドガーだいぶ熱くなっていたな。そしてそんな2人の間に居たレクス御苦労。」

開発途中のモーメントを背に不動博士は、腕組みをしながら2人を見る。

「見ていたのですか?」

「博士、人が悪い。どうして止めに入ってくれなかったのです?」

何の事を言われたのか瞬時に理解した2人は、各々言葉にすると。

「ああ・・・見ていたともお前が熱くなる様も慌てふためくお前の様もな。何時も他者の前で冷静なお前達が

怒り慌てふためく様は、新鮮だったしお前達の様な切れ者を相手にしていた奴に同情もしていたのさ。」

遊星以外に関心を抱かない不動博士が人に関心を抱く様がルドガーを不愉快な気持ちにさせる。

「珍しいですね。博士が人に同情するなんて。」

苦笑しながらレクスが言うと

「ああ・・・私は、同情なんて言葉は嫌いだからな。」

「だったら何故?相手に同情なされたのです?」

不動博士の言葉にレクスが問うと

「同情なんて言葉、相手を見下している様な気持ちになるから嫌いなんだ。だが今回ばかりは、この言葉を

使うのが適切な様な気がした。」

「「?」」

何故と顔に出す2人に

「この私が一目を置いているお前達に勝てる奴なんて居ると思うのか?

それ故にお前達と口論していたあの男に同情してしまうのだよ。」

「「!!」」

「そんな奴が居たら会ってみたいものだ。」

自分達が尊敬し憧れている相手に認められている事に2人は、驚きの表情を見せる。

傍から見れば不動博士の態度は、不遜なモノかもしれないが2人には関係が無かった。

不機嫌だったルドガーの表情が何時もの表情に代わりレクスの疲れも癒された感じだった。

不思議な気持ちに支配される。

「フゥ〜。不動博士の前だと嫌な事も浄化されてしまいますね。兄さん」

「本当だ。貴方は、本当に不思議な方だ。先程まで感じていた不愉快な気持ちが落ち付いて来た。

否それだけじゃない優しい気持ち嬉しい気持ちにさせられる。だがそれだけに貴方は、不思議な力を持っていると

言えよう。」

和んだ空気の中、煎れて貰った珈琲を啜りながら暫し雑談を楽しんだ。

 

 

 

ルドガーが感情を剥き出しに熱くなったのは、理由があった。

相手は、モーメントや遊星粒子について難癖を付けて来たのだがそれだけなら何時もの事なので無視をする

つもりだったが自分達が尊敬している不動博士の悪口まで言って来たのだ。

これには、流石のルドガーも切れた。

もしルドガーが切れなかったらレクスの方が切れたかもしれない。

逸早く切れたルドガーに驚いたレクスは、切れるタイミングを逃し兄と相手の仲裁に入るしかなかった。

丁度そんな所を不動博士に見られていたのだ。

2人は、博士にその事を告げなかったし博士自身も聞いて来なかった。

例え話したとしても

「そんな事、捨てておけばいい。ただの僻みや妬みに耳を貸すな。時間と脳の無駄だ。」

等と言われるのがオチだろうから。

 

 

「兄さん 我々も博士から同情されないように精進しましょう。」

「そうだな。」

あの方が嫌う言葉が我々に使われない様に・・・


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