Rein
Storm
バタバタタタ・・・
窓に打ち付ける様な激しい雨音。
滝の様にガラスを流れる雨水を見ながら。
「酷い雨ですね。」
「博士 今日は、御自宅の方に帰られるのですか?」
デスクワークをしている不動博士。
雨によって外の景色が全く見えない。
「久しぶりに遊星の顔を見たいのだが流石にこの雨だと帰宅するのは、困難だな。」
パソコン画面から窓の方へと視線をずらす。
論文執筆の為不動博士は、1週間以上帰宅していな。
研究所内に設けられた宿泊施設を利用している状態。
研究室には、小さいながらも仮眠室が設けられているが「休む時ぐらい仕事の事を忘れてゆっくりしたい」と
言う博士。
仕事場に寝泊まりしたからと言って論文が早く書きあがるワケでは、無い。
寧ろ根を詰め過ぎてスランプに陥る場合だってある。
気分転換を兼ねて脳を休めたいのだろう。
そんな博士の身の回りを世話をする為にルドガーとレクスも宿泊施設に寝泊まりしているとは、言っても彼等に
だって帰る家は、ちゃんと存在する。
「それでは、今日も宿泊施設の方で?」
「そうだな・・・不本意だが・・・」
「解りました。博士が到着次第温かいお風呂に入れる様に準備して来ます。」
「レクス 君がそこまでしなくていいよ。」
「そう言うわけに行きません。もし博士の躰が冷えてしまい風邪でも召されましたら更に御子息に会えなくなって
しまわれる。」
唯でさえ1週間も逢っていない上に風邪など引かれて逢えない日を追加なんてさせられない。
不動博士にとって愛息子で有る遊星との触れ合いは、全ての欲において活力源なのだ。
それは、解っていてもルドガーにとっては面白く無い。
「兄さん 不動博士の事頼みますよ。」
「レクス?」
「私は、先に戻ってお風呂の用意をして来ます。ああ・・・そうそう兄さん博士を送って来たついでにってそのまま
送り狼には、ならないで下さい。論文の執筆に影響が出ますから。」
「レクス!!」
そんな兄弟のやりとりを見ながら不動博士は、クスクスと笑っている。
「博士! 笑い事じゃないですよ!!」
「失礼。そう言う意味で笑ったんじゃないんだが・・・頭脳明晰な君達でも『送り狼』とは、本来どう言うモノなのか
知らないのか・・・と思ってね。」
「どう言う事です?」
白衣を脱いで出かける準備をしているレクスは、その手を止め博士の方を見やる。
「狼が送らないと言うのですか?それとも襲わないと?」
「半分正解で半分は、不正解だな。」
「博士我々に解るように説明してくれませんか?」
興味があるかの様に説明を求めるルドガー。
「狼は、確かに送るらしいがそれは相手が自分のテリトリーから出て行くのを確認する為。相手がテリトリーから
出て戻って来ないのを確認すると帰るらしい。」
「では・・・襲わないと・・・」
「これは、オレの見解だがもし襲うとするならそれは、相手がテリトリーに戻って来た場合じゃないか?
まぁ襲うと言っても相手に手傷を負わせるか驚かすか・・・」
「相手が自分のテリトリーを出て行くのを確認するなんて気が小さいな。」
「ルドガーそれは、気が小さいんじゃない警戒心が強いと言うんだ。その警戒心が種を守る。」
「如何に警戒心が強かろうと狼は、滅びましたよ。」
「兄さん狼は、警戒心故に滅んだんじゃない。人間のエゴによって滅んだんですよ。もし人間がエゴに走らなけ
れば狼は、今も健在かもしれません。」
「フゥ〜狼が一概に滅んだなんて言うもんじゃない。純血種が滅んだだけで狼の遺伝子は、今も受け継がれて
いるんだよ。犬や狼犬達の中にね。おっ・・・だいぶ止んできたな」
他愛の無い話しをしている間に窓に打ちつけていた激しさがなくなり穏やかに降っている。
「このまま止むかもしれないがまた強く降られても厄介だ。今の内に施設も戻るとしよう。レクス荷物を持ってく
れないか?」
「解りました。」
「ルドガー帰る準備をしてくれ。」
「はい」
ふぅ・・・博士、雑学とは言え貴方直々何かの教えを請う時の我が心は歓喜に打ち震え暴風雨の様に荒れ
てしまう。
今も貴方にとって他愛の無い言葉だったでしょうが我が心は、荒れている。
もっと何でも良い貴方が知りうる事全ての知識を我等・・・いや俺だけに教えて欲しい。
後日・・・
博士から未だNo.1のメスが決まっていない新しい群れのNo.1のオスが発情するとメス達は一斉に発情し自分
がNo.1になるために争うらしい。
全くどうすれば貴方から教え頂いて居る間我が心が穏やかになるのかそっちを教えて頂きたいものだ。
(ルドガー・・・如何にオレと言えど人の心まで研究してないから君の期待に答えられない・・・)
(兄さんは、博士が話してくれた『狼』みたいな人だな。自分のテリトリーは、しっかり守り外から余計なモノが
来ると警戒をする。それでは、何時まで経っても博士との関係を縮める事なんて出来ませんよ)