Vertigo


心臓が止まるかと思った・・・

 

 

「「おはよう御座います。!!博士!!」」

何時もの様に出勤して来たルドガーとレクスが目にしたのは、開発途中のモーメントを前に床に横たわる

不動博士の姿だった。

「博士!!レクス急いで医務室に連絡を!!博士」

「解った!!」

ルドガーは、博士を抱き寄せ息をしているかどうか確認をする。

微かにだが呼吸をしているし胸の上下している。

その様子に一安心だが一体博士の身に何が起きたのか博士の脳の損傷は?

それを思うと一緒に居なかった事を悔いてしまう。

だが博士が何時からココで倒れていたのか・・・

目紛しく無駄に動く思考に苛立ってしまう。

今は、博士の事を考えないとイケナイのに。

 

+++

 

暫くして訪れた医師にルドガーが解っている範囲で説明をする。

彼等が居るのは、不動博士の研究室の仮眠室。

本来なら設備等を考えて医務室に運ぶのが妥当なのだが博士が倒れていた位置から医務室まで距離が

あったので1番近い研究室の仮眠室に運んだ。

博士の診察を終えた医師がルドガーとレクスに告げた病名は、

「過労ですね。不動博士がどれだけモーメントの開発に心血を注いでるのか彼が書かれた『遊星粒子』の

レポートを読めば解りますがココで無茶をして躰を壊してしまえば元もこうも無いのです。」

「すみません・・・以後気を付けます。」

頭を下げて謝るルドガーとレクスに医師は

「別に怒っているワケでは、ありませんよ。私としても博士の研究に興味が有るんです。

興味と言うより博士に憧れ羨ましく妬ましく思ってしまう。底知れぬ英知・・・その英知を医学の方で発揮

して欲しかった。多くの人を救うのにその頭脳を使って欲しかった。

助手である君達にこんな事を言っても仕方がないのだがね」

諦めた様に苦笑交じりに言う医師に

「先生 博士の研究は、医学にも役立ちますよ。多くの人を救う力になるでしょう。私も兄も生きとし生ける

全てのモノがモーメントの恩恵を受けると信じています。」

自信に満ちた笑みで医師に答えるレクス。

しかしルドガーに笑みを浮かべて対応する余裕なんて無い。

博士の傍に居て彼が過労で倒れるまで何も出来なかった事に・・・彼がそこまで疲れている事に気が付け

なかった事に自身を責めていた。

「博士は、幸せ者ですね。こんなに自分を心配してくれる助手が居るのだから。」

「心配は、出来ても博士が疲れを為て居る事を倒れるまで気が付けなかった。倒れる前に気が付く事が

出来たら・・・そう思うと悔やまれます。」

「兄さん・・・」

「そう自分を責めるもんじゃない。君達だって不眠不休で博士と共にしていたんだろう?」

「「!!」」

「私は、医師だ君達の顔を見れば解るよ。君達も博士同様に無理をしている事ぐらい。」

「しかし・・・」

それでも気にしているルドガーに医師は、

「博士が目覚めた時、1番最初にそんな顔を見せるのかい?そんな心配そな顔を見た博士は、何と思う

かね?」

医師の言葉にルドガーが困った様な表情を見せたのでレクスが

「兄さん博士を安心させる為に少し笑みを浮かべようね。」

「だが不謹慎では、ないだろうか?」

「不謹慎じゃないさ。寧ろ自身の健康管理ミスで倒れてしまい助手に心配させて博士自身バツが悪いと

思うよ。だから博士が起きられた時そんな事を気にさせない様にしないと。それが我々の今出来る仕事だよ。」

「それじゃ私は、そろそろお暇させてもらおうか。」

「先生お送りします。」

「じゃ・・・入り口まで送ってもらおうか。」

そう言ってレクスは、医師の荷物を持ち仮眠室から出て行く。

「フゥ・・・」

今回ばかりは、レクスに感謝をしなければならなかった。

もし彼が居なかったら自分は、取り乱したかもしれない。

医師の言葉に耳を貸さなかったかもしれない。

軽い眩暈を覚える。

脳裏を過るのは、博士の倒れている姿。

 

彼が倒れているのを見た時、生きた心地がしなかった。

自分にとって彼がどれほどの存在なのか思い知った。

 

今目の前で眠っている博士の頬を撫でる。

少し痩せこけた顔。目許にクマが出来ている。

ルドガーは、博士の顔を撫でながら優秀な弟の存在にそして自分の良き理解者に心から感謝した。

 

レクスが言うように博士が目覚めたら笑顔で居よう。

博士が不安がらないように・・・

何時もの様に自信に満ち溢れた博士で居てもらうために・・・

ルドガーは、眠る不動博士の額に口付けながら

(無骨な俺が上手く笑みを浮かべられるかどうか解らないけど精一杯笑みを浮かべる事にしよう。)

 

レクスと一緒に・・・


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