Escape


初めて感じた恋心。

 

ジャックとルドガーのカゴは、遊星の部屋に隣り合わせで置かれている。

頻繁に博士に会えない事にショックを受けたルドガーは、シュンとしている。

ルドガーの事を当初疎ましく思っていたがジャックだったがそれも時間が経つに連れルドガーが博士に会う方法を

模索しだす。

報われぬ恋心を抱いたモノだからこそ同じ思いを抱くルドガーが哀れに思えたのだ。

何時もと様子が違うジャックに博士がこっそりと

「何を考えているんだい?」

と声を掛けるとジャックは、博士の方を無表情のまま見た。

博士は、ジャックが自分の問いかけに理解し反応したと思った。

何故そう思ったのか博士自身にも解らない。

 

夜が更けて遊星に就寝時間が近付いて来る。

母親が遊星に寝る様に促すと折角遊んでいたジャックをカゴの中に・・・

何処か名残惜しそうな遊星とジャック。

だがそれは、ルドガーも同じ。ジャックがカゴに戻される際、博士に遊んでもらっていたルドガーもカゴに戻される

のだ。

ジャックとルドガーにしてみれば初めて好きになった相手の温もりは、何時までも感じて居たいモノ。

しかしジャックは、大人しくカゴに戻る。

ある作戦が在ったから。

 

23時頃静まり返った遊星の部屋。

今迄大人しくしていたジャックが柵を伝い蓋の所まで行くと扉をガタガタと音を発てる。

『何をしているんだ?ジャック』

『散歩に出る。』

『そんな事をして遊星にバレタら・・・』

『そんな間抜けな事をこの俺がするとでも思うか?』

そんな事を言われてもジャックと言う男がどういう男なのかルドガーには、解らないので何とも言い様が無い。

ガタ・・・

少しずれた扉。隙間に鼻先を差し込み少しずつ扉をずらす。

そして自分の躰が出られるぐらいまで開けると懸垂でもするかの様に腕の力でカゴから出る。

『お前は、どうする?』

『どうする・・・とは?』

『不動博士に会いたいのか会いたくないのかどっちなんだ?』

『!!会いたい』

ジャックの問いに即答で答えた。

それを聞いてジャックは、ルドガーのカゴまで危ない足取りで行くと蓋の扉を少しずらしてやる。

本来単体動物のハムスターがこんな行動に出る事は、無い。

ジャックもそんな事をする気なんて更々無かったが誰かを思う気持ちが解るし自分が居なくなる事で最愛の

者が悲しむ事も解っている。それ故にルドガーが行動に出せない事も・・・

『何をしている出て来い。』

ジャックに促されてルドガーもカゴから出て来る。

2匹は、足場の悪いカゴの上を器用に歩いてカゴの端まで行くとこれまた器用に(?)カゴから落ちた。

2匹のカゴが置かれているのは、テレビラックと同じ高さの棚の上。

これは、遊星が世話をしやすい様にと言う事で低い棚の上に置かれたのだ。

だがこれは、口実。不動博士がジャックが脱走しても怪我をし難い高さを選んでくれたのだ。

更に置かれた棚の端には、床下まで届くロングカーテンが垂れ下がっている。

ジャックは、そのカーテンに捕まりゆっくりと降下して行く。

ルドガーも同じ様にカーテンに捕まり降下して行く。

2匹は、慎重に降りるとそのまま扉に向かって歩き出す。

ハムスターは、上るのは得意だが降りるのが下手な上に近視・・・

脱走の際、棚の上から落ちる事なんて当たり前なのだが落ちた際打ち所が悪くて大怪我をしたり脳に支障を

きたりしたり最悪の場合死亡にいたるのでハムスターが脱走しないように心がけないとイケナイ。

不動博士が扉を少し開けてくれていたお陰で2匹は、部屋から出て博士の部屋へと向かう。

不動博士の部屋は、2階に在るので何の障害も無く行く事が出来た。

「おや?よく来たね。」

臭いだけで不動博士の部屋を探し出した2匹。

『博士・・・』

最愛なる博士の声を聞きルドガーは、感無量だった。

急いで博士の元へと駆け寄る。

「ダメじゃないか。脱走なんてしてきたら。」

会いたい一心で脱走をしたのに怒られた事にショックだった。

クックックッ・・・

思わず怒りの声をあげてしまう。

「ほぅ〜。その鳴き声がハムスターが怒った時にあげる声か・・・初めて聞いた。」

何処か嬉しそうな博士の声。

別に博士は、怒ったのじゃない。ただ注意しただけ。

だが小さな頭のハムスターにしてみればそんな区別なんてつかない。

『ルドガー  博士は、怒ったんじゃないぞ。注意したんだ。』

長い事、遊星と一緒に居た所為で声の質だけで相手が怒っているのかどうか判別が付くようになったジャック

は、ルドガーに声を掛ける。

そうすると怒りの声を上げなくなったルドガー。

「しかしジャック 君が脱走するなんて珍しいね。もしかして彼に家の中を案内をしている最中だったのかな?」

博士は、足元に居るルドガーを抱き上げると扉付近から全く動かないジャックの所まで行くとジャックは、後ずさりを

しながら逃げ様とする。

しかし元々近視故に何処から博士の手が伸びて来るのか解らず簡単に捕まってしまう。

「逃げ様なんてしても無理だよ。」

大人ししているジャックだったがルドガーが

『ジャック お前もしかして俺の為に脱走なんてしたのか?』

『惚れた奴に会いたい気持ちが解らないワケでは、ないからな・・・』

短い時間でも博士に会わせてやりたかったのだ。

だから無謀だと解っていても脱走をしたのだ。

だから逃げ様と思った。何処に逃げるかだって?勿論遊星の部屋へだ。

それに博士が仕事の関係で1人部屋だって事は、解っていたから・・・。

「オイオイ、もしかしてハムスター語で会話しているんじゃないだろうな?あ〜あオレにもハムスター語が解ったら

面白いだろうな。」

ブツブツと呟きながら博士は、2匹を遊星の部屋まで連れて行く。

ルドガーにしてみれば至福の時間。

ジャックは、遊星にバレタ時の事を考えると憂鬱。

 

 

だが翌日2匹は、遊星に怒られる事が無かった。

博士が遊星に黙っていてくれたお陰なのだった。

そしてそれからも2匹の脱走は、行われたのだった。


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