Valuable ring


旧モーメントを背にルドガーは、黒いマントを羽織り青く透き通った天を眺めた。

数十年に1度起こる皆既日食を待っていた。

ただの日食だったら待つ事も無いが今回の皆既日食は、特別だった。

今回の皆既日食は、数分とは言え月が太陽に綺麗に重なるのだ。

日食時間は、ほんの数分間。

 

 

「おお 博士御覧になっておられますか?」

欠けて行く太陽を眺めている。

何時いかなる時でも雄雄しい太陽。

何時までも輝きを失わない存在。

雄雄しいとは、言えないが何時までも自分の中で失う事無く輝き続けている人物と重ねる。

そしてその輝きに憧れ一時でいいから自分だけのモノにしたいと願いその輝きを自身にだけ浴びる月に自分

重ねていた。

 

太陽と月が綺麗に重なった瞬間にしか見る事が出来ない美しい光の輪。

その光の輪を背にしルドガーは、旧モーメントに向き直ると

「不動博士 我が人生において最初で最後の貴方への贈り物です。

どうかお受け取り願いたい。」

皆既日食の時にだけ見られるダイヤモンドリング。

どれだけの富と権力を持とうがどれだけの金銀財宝を前にしようが決して手に入れる事が出来ない天空の

ダイヤモンドリング。

決して指にはめる事叶わないが心に留めて置く事なら出来る。

 

生前、互いに柵の中に身を投じどれだけ想い合っていても決して結ばれる事なんて許されなかった。

何かを贈るなんて事は、夢にしか過ぎずただただ想いだけを募らせた。

互いに身を滅ぼしこの世の者と無くなった今、自分達を縛る枷も柵も無い。

何かに遠慮する必要なんて無い。

生前に告げられず遂げられなかった想いを込めて最初で最後のプロポーズをする。

返事なんて返って来ない事ぐらい百も承知。

自己満足と言われても構わない。

それでも自分の想いを今口にしたかった。

『永遠に愛している』と・・・

 

 

 

 

 

 

そしてルドガーのそんな想いを旧モーメントの光の中から不動博士は、優しい眼差しで肯き受け取っていた。

『ルドガー 私もお前と同じ想いだよ』

やっと繋がりあった想い。

旧モーメントの光の中、左手を出し薬指にダイヤモンドリングを重ねる。

はめる事の出来ない指輪だけどその光景を自分の心に焼き付ける。

 

 

 

『これで私達は、繋がりあった心と共に何時までも一緒に・・・』


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