不満
モーメント開発用に用意されたシミュレーション室。
この部屋では、モーメント稼動によるエネルギーの供給率の計算にシミュレーションや効率よくモーメントを
稼動させる為の配線等実験も行えた。
実際にモーメントを使って行えない実験をココで行いその結果がよければモーメントに使う様にしている。
不動博士は、思いついた計算式に基づきモーメントへの外部からのアクセス方法とそれにともなうセキュリティを
試したくてシミュレーション室へと向かった。
そこで見たくも無い光景を目にした。
ルドガーが他の研究ルームの女性スタッフと抱きしめあっていたのだ。
「ルドガーも隅におけないね。あんな可愛いお嬢さんとお付き合いしているとは」
そうは、思いながら胸の中に湧き起こる不愉快な感情。
(君が誰のものなのか解らせる必要があるようだね)
膨大な資料に囲まれている不動博士に見かねたルドガーが
「博士 お手伝いしましょうかz?」
と声をかけると
「そうだな・・・否いいよレクスに手伝ってもらうから。君は、もう帰っていいから」
一瞬資料から目を離すもルドガーの方を見ようとしない。
また資料を見ながら片手を振る『さようなら』と言う意味で。
そんな不動博士の行動にショックを受けていると
「レクス この資料を見直しておいてくれ」
レクスに指示を出し不動博士が席を立つ。
「博士 何処に行かれるのです?」
「シミュレーション室に行ってくる。」
「解りました。」
研究室を出て行く不動博士の後ろ姿を何処か遠くで見ている気持ちになる。
「兄さん何をしたのか知らないけど博士の機嫌を取るなら今がチャンスだと思うよ。」
何が原因で博士の機嫌を損ねたのかあえて聞かない様にしながらも兄の背中を押す弟の言葉にルドガー
は、一瞬我に返るが
「博士は、何が原因で機嫌を損ねておられるのか解らないのに・・・」
「そんな事言ってたら何時まで経っても今のままだと思うよ。兄さんに何が在ったのか知らないけど博士に機嫌
を治してもらう事を考えた方が賢明だと思うけど」
レクスに言われ重い足取りでルドガーは、不動博士の後を追いかけた。
「全く世話が焼けますね。兄さんは、鈍いし博士は、素直じゃないし・・・」
レクスは、不動博士から言われていた資料を抱えながら自分の席に着き資料の見直しにかかった。
(まぁ・・・既婚者に未婚者・・・複雑ですね。しかし・・・これって不倫と言えるのですか?)
不意に降って湧いた疑問。だが突き詰める事より今は目の前に在る仕事を片付ける事に意識を集中する事
にする。
+++
-シミュレーション室-
カタカタ・・・思い付いた計算式を手際良く入力する。
「・・・博士・・・」
「ん・・・君には、帰って良いと言ったはずだよ。」
ルドガーの方を見る事無く話しをする不動博士。
「私の何処が博士を不機嫌にさせているのか解らないのです。もし私に落ち度が在るのなら教えて頂きたい」
「そうだね・・・それは、君の胸に手を当てて自分でよく考えなさい。」
研究室から1度も名前を呼ばれていない。
それがどんなに辛い事か。しかもしれが最愛の人なら尚更辛い。
だが辛い反面どうしても愛おしい気持ちになってしまう。
「胸に手を当て思い出そうにも思い出せない。私が貴方を不機嫌にさせた理由を聞かせて下さい。」
逡巡した後
「君は、今日ココで何をしていたんだい?」
そう言われルドガーは、暫く考えた。
(今日・・・ココで・・・?・・・!!・・・まさかアレを見たのか)
一つだけ思い当たる事が有った。
数時間前の事・・・
それ以外思い当たらない。
「博士・・・アレは、関係ない事です。」
慌てて釈明しようとするが彼の君を納得させる事が出来るのか疑問でしかない。
だがこのままだと先に進まない。
そんなルドガーの焦りを感じたのか
「そうだね。私には、関係無い事だがこの部屋は、いろんな人達が出入りをしている。恋愛をするならもっと
別の場所でしたらどうかね?」
ルドガーがあの女性と何の関係も無い事ぐらい解っている。
女性の方から抱きついた事ぐらい容易に想像出来る。
ルドガーの身も心も自分のモノだ。だが簡単に抱きつかれ他者に誤解を招く様な事は、謹んでもらいたい。
下世話な話しを好む輩によって背びれに尾びれ等着けかねられない。
でっち上げの既成事実によって足元を掬われかねない。
「博士!!私が不誠実な男だと思っておられるのか?我が心は、貴方のモノ。私にとって貴方が全てだと言う
のに・・・」
自分の心を疑われたと思ったのだろう不誠実な男だと思われたとでも思ったのだろう何時も堂々としているルドガー。
そんな彼の狼狽した姿を不動博士は【楽しい】と感じていた。
大きな躰が小さく見える。
シュンとした犬の様なルドガーを見てこれ以上意地悪するのは、可哀想だと判断し
「ルドガー 君は、優し過ぎるのだよ。だがそれが時として仇になる事ぐらい覚えておくんだ。」
そう言うと不動博士は、立ち上がりルドガーの元へ行くと彼の顎に手を掛け
「私は、君を1度も不誠実な男だと思った事は無いよ。人の心は、自由だし捕われる必要なんて無い。」
「博士 私には、貴方が『お前は、不用だ。不必要だ。』と言っておられる様に聞こえる。」
「それは、錯覚だし誤解だよ。君は、優秀な人材なんだ。私は、そんな優秀な君を手放す事なんてしない。
君の全ては、私のモノだ。その頭脳もこの逞しい躰も・・・」
蒼い瞳に見つめられ次第に冷静さを欠いてしまいそうになる。
目の前の存在に力強く抱きつき熱を感じたいと欲望に駆られてしまう。
だが伸ばした腕を簡単に払い除けられてしまう。
「ルドガー そうガツガツとするモノじゃない。さっき私が言った言葉を忘れたのかい?この部屋には、いろんな人達
が出入りするんだよ?」
「!!」
不動博士の言葉の裏に隠された意味を感じ取り
「私とした事が何と言う失態を・・・再度博士から注意を受けてしまうとは」
胸が高鳴った。
「ルドガー イケナイ事をするのに最適な場所を教えてあげるよ。」
そう言うとシミュレーション室を出て別棟に在る個室へと入って行く。
入り口には『関係者以外立ち入り禁止』の札が掛かっている。
「博士ココは?」
来た事の無い部屋。
汚れたタオルや白衣がカゴの中に入ったままだ。
「汚れた洗濯物を一時保管する部屋だよ。」
出した洗濯物は、全てその日の内に回収されクリーニングに出されると思っていたが余りの量の多さに1回では、
クリーニングに出す事が出来ず2〜3回に別けて出されているらしい。
「ココなら誰も簡単に立ち入る事なんて出来ない。しかもセックスをして汚しても問題無い。」
「しかしこの部屋とて管理責任者が居るはず・・・どうやってカギを・・・」
不動博士の指に無造作に絡められたカードキー。
「・・・手中に治められたのですか?」
「人聞きの悪い事を言わないでくれないか?私がスペアキーを貸して欲しいと言ったら相手がくれたんだよ。」
肉体の関係を持つ事無く蒼い瞳で相手を見つめ魅了し言いなりにさせる。
どれだけの者がその瞳に惑わされ言いなりになっている事か。
しかも言いなりになっても何の報酬も無い。ただ言葉で誉めて貰うだけなのだ。
「ルドガー」
名を呼ばれただけなのに背筋を電流が駆け昇った様な感じに陥る。
ルドガーは、不動博士の足元に跪き彼の君の足に縋る。
まるで神に縋る人の様に・・・
否 ルドガーにとって類稀なる英知を持つ不動博士は、神そのものなのかもしれない。
恭しく博士の手を取り口付けする。
神を汚す行為に恐れを抱きつつも愛情故に胸高鳴り汚れた洗濯物に押し倒してしまう。
「そうガッツクものじゃないよルドガー」
「貴方を抱くこの行為に理性なんて保てるワケが無い。」
早くその身に自分を刻みつけたかった。
不動博士の身を包む布を引き裂きたかった。だがそんな事を欲望のままにすれば後が大変なのと不動博士に
余計な恥じを与えかねない。
事更ゆっくり布を剥ぎ取り露になる肌理細やかな肌に触れる。
「美しい・・・」
眼下に晒された不動博士の躰。
無駄な肉が無く程よく締まっている。
指先で触れるか触れ無いかぐらいの強弱で躰を上下にゆっくりと触れる。
ビクビクと小刻みに反応する躰。
「擽ったいよ。」
と昂揚した様な表情で言われればオスの部分が反応してしまう。
「擽ったい?何を言われます。本当は、気持ち良いのでしょ?」
「ああ・・・そうだよ。ルドガーもっと気持ち良くしてくれないか。意識が飛ぶ程に・・・」
「勿論ですとも。私は、貴方のモノ。貴方が望むままに貴方に奉仕させていただきます。」
そう宣言するとルドガーは、不動博士の躰に自分の躰を重ね求めるまま彼の君を抱いた。
+++
「はぁ・・・う・・・」
室内は、吐く息と体温と汗とで茹るような熱さにみまわれる。
元々は、汚れた洗濯物を置く部屋なのだ換気設備が在っても空調設備なんて無い。
唯でさえ室内は、熱いと言うのに貫く内部の熱さと締めつけ具合に眩暈が収まらない。
零れ落ちる汗が不動博士の躰に当たると弾け飛び博士の汗と混じり合う。
「ルドガ・・・君は、誰のモノだい?・・・」
「あっクッ・・・貴方のモノですよ・・・我が心は、貴方のモノに他ならない・・・」
こんな行為の最中何と言う事を訪ねて来るんだこの人は。
そう思うが萎るなんて事なんて起こりもしなかった。
寧ろそんな言葉にさえ反応し嵩を増して狭い中を刺激してしまう。
(ルドガー もっと私に感じるといい・・・私から離れられなくなる程に・・・君が誰のものなのかその身に刻むと
いい・・・)
実際、ルドガーが誰と付き合おうと構わなかった。
だがそれは、自分の気持ちが彼から離れた時の事であって今の時点での話しでは無い。
その身を我に委ね。我に仕えよ。そして我の為に生きよ。