一目惚れ


「兄さん今度着任される不動博士ってどんな人なんでしょうね。」

「『遊星粒子』を発見された年若い博士だと聞くが論文を発表しただけで顔を表に出さない。人は、最初相手の

見た目を判断材料の一つにするがそれが出来ない。着任するまで謎だな。」

「顔を見せないのは、自分に自信が無い表れなのでしょうか?それとも研究以外に費やす時間が勿体無いと

思われているのでしょうか?」

そんな事を真剣に考えているレクスにルドガーは、

「それは、個人差と言うモノ。それに我々は、どんな人が来ようともその人に仕えなければならない。」

ルドガーは、巨大な円柱を見上げながら

「我々が開発しているモーメントには、不動博士の『遊星粒子』が必要不可欠。『遊星粒子』は、未知のエネルギー

で有る以上取り扱いに注意しなければならない。そうなるとこの研究には、不動博士も必要不可欠な存在。」

自分達で上司を選ぶ事なんて出来ない。

上司と折り合いが悪ければこの研究室を去らなければならない。

研究半ばで・・・。

ルドガーは、それを避けたかった。もしこの場を去らなければならないと言うのならその時は、この研究に関する資料を

廃棄するか情報をライバル企業に自分共々売るつもりだった。

 

「凄い実験装置だね。」

 

聞きなれない声に見慣れない姿。

歪な髪型の東洋人が巨大な円柱を見上げながらウロウロしている。

「ここは、関係者以外立ち入り禁止だ。出て行って貰おう。」

険しい顔付きで相手に言うと。

その東洋人は、屈託無い笑みを浮かべ

「自己紹介が遅くなってゴメン。私が今日からここの主任を任された不動だ。これからよろしくお願いする。」

出される手。

ルドガーは、その手に触れる事が出来なかった。

何故か不動と名乗る東洋人に魅入って居た。

「貴方が不動博士ですか?私は、レクス・ゴドウィンと言います。こちらに居るのが私の兄ルドガー・ゴドウィンです。」

博士の手を握り挨拶をするレクス。

だがルドガーは、その手に触れる事が出来ない。

自分如きが触れて良い相手だと思わなかった。

王侯貴族なら触れる事に何の躊躇いも無い・・・王侯貴族・・・そんなモノより遥か高みに居る存在・・・そう神

を前にしている気持ちなった。

だから触れる事が出来ない。触れる事が恐れ多いと感じた。

何時まで経ってもルドガーと握手が出来ない不動博士は、自分がルドガーに嫌われているのでは?と思った。

「そう言えば・・・どうして博士は、研究発表を終えた後インタビューとか受けないんです?」

大抵の人物は、自身が偉大だと認められると公の場でインタビューを受ける事が多いそれなのに不動博士は、

それが無い。

「苦手なんだ。」

一言漏らされる言葉。

「しかし科学の世界に置いて自身の名と研究成果を残すのは、大切な仕事の一つですよ。」

「そうかもしれないけど私の様に年若い科学者が表舞台で名や顔を売ると・・・」

「やっかみや僻みの対象になり研究の妨害を受けるかもしれない・・・。と言う事ですか?」

「察しが良いね。君の言う通りだよ。」

現に博士は、前の研究施設に居ずらくなるような僻みや妨害を受けた。

研究を続けたいのに続けられないジレンマに悩んでいると海馬Co.から誘われ迷う事無く移籍を決断した。

大好きな研究を続ける為に・・・自分が見つけた『遊星粒子』の可能性を知る為に。

だがその祭博士は、研究資料を破棄したりしなかったし情報共々自分を売る様な行為をしなかった。

只博士が行ったのは、研究資料を残す事無く自分共々売る事無く全てを持って来た。

まぁ研究資料を少しぐらい残して来ても問題は、無いのだが・・・不動博士の扱う研究は、他者がたやすく扱える

代物じゃないし暗号化してあったので解読が出来ない。

「自身を守るため貴方は、逃げて来たと言う事ですね。それも良いでしょう。私達にしてみれば貴方の『遊星粒子』

の研究成果が必要だしこれからの研究において貴方の持つ知恵が必要となる。ココに居る限り私達が貴方と貴方

の研究を守りましょう。」

余りな物言いだがルドガーは、研究を手伝うと言ってくれている以上不動博士は、何も言い返さなかったが

「心強いよ。」

とだけ言った。

 

 

 

+++

 

「兄さんの性格なら喧嘩して相手を追い出すんじゃ無いかって心配していましたけど」

博士が前の研究施設から逃げる様にして移籍をして来た事にレクスは、一抹の不安を抱いていた。

兄は、逃げる事を許さないからだ。

「我々の研究に博士の頭脳と『遊星粒子』は、必要不可欠。どんな理由であれ利害が一致している以上

我々は、博士に仕えるのみ。」

本当は、それだけじゃない。

自分の中に生まれた何とも言い様の無い想いに突き動かされたのだ。

<博士を手放すな>と言う想いに・・・。

 

兄の言葉を聞き己が耳を疑っていたレクスだが確かに不動博士の存在は、自分達の研究において大切な存在

である事は、言い様の無い事実。

それなら兄同様に自分も年若い不動博士に仕える道を選ぶだけ・・・。

 

「兄さん不動博士って一体御幾つなんでしょうかね?」

暫しの間不動博士といろんな話しをしていたが年齢に触れる事が無かった。

「我々より少し上ぐらいだろう。」

東洋人は、実年齢より若く見える。

後日レクスが博士に年齢を訪ねるとルドガーより2歳程上である事が判明。

その事をルドガーに告げると

「そんな事より博士の誕生日を聞くのを忘れるな。」

と言われたレクス。

研究者は、研究に没頭する余り自分の誕生日を忘れがちになる。

「兄さんは、本当に博士の事気に入ったんですね。」

微笑ましい気持ちになるが本当に『気に入った』なんて言葉で片付けられるのだろうか?

 

 

ルドガーは、隠し持っている博士の写真を手にしながら

「私は、貴方の全てを手に入れましょう。」

初めて会ったあの日・・・心を奪われてしまった。

一目見た時に恋心を抱いてしまった。

「貴方を傷つける全てのモノから貴方を守りましょう。私は、貴方を手放さない。」

貴方は、私のモノなのですから・・・。


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