心縛-1-
「貴様の仲間とやらを預かっている。返して欲しければ俺の言う事を聞くんだ。」
悪役ならではのお決まり台詞を吐くジャック。
そのジャックを忌々しく見詰める遊星。
今朝方仲間達からセクトが何者かに拉致されたと連絡があった。
セクトを拉致したヤツが『赤きD・ホイールに乗りし者に伝えよ。今夜シティとサテライトの境界まで1人で来いと』
言っていたらしい。
このサテライトで赤いD・ホイールを乗っているヤツなんて珍しく無いが多分犯人が言う相手は、遊星しか居ない
と仲間は、判断し遊星の元に連絡を入れたのだ。
「オレに何の用だ?あんたとのデュエルは、あの時に付いた筈。」
犯人に指示された場所に居たのは、絶対王者ジャック・アトラスだった。
(まさかジャック・アトラスがセクトを拉致した犯人?)
孤高の王者が何故拉致なんて犯罪を?
しかもサテライトの住人なんかを。
身代金なんて要求しても払う能力なんて無いのに。
せれ以前に何故自分を指名して来た?
絶対王者のデュエル相手なんて出来るワケないのに・・・。
【奴隷】
そんな言葉が遊星の脳裏に過る。
それなら拉致の理由として在りえるが自分を指名してくる意味が全く解らなかった。
「セクトは、無事なんだろうな?」
「貴様が俺の言う事を聞けば無傷で返してやろう。」
「もしオレがあんたの言う事を聞かなかったら・・・」
そんな事聞かなくても解っている筈なのに何と陳腐な事を聞くのか?
ありきたりの台詞しか何故思いつかない?
「命が無いだけだ。」
「・・・」
「『絆』とやらを大事にしたいのだろう?それともそれを捨て己が身の保身を図るか・・・それは、貴様が決めれば
いい事だ。」
遊星が断らない事は、百も承知。
ジャックにしてみれば遊星さえ手中に収めればセクトの命なんてどうでもいい。
「解った・・・聞こう。だがそれは、セクトが無事だと確認してからだ。」
「いいだろ。では、着いて来い。クズの元に案内してやる。」
悔しそうな顔を見せる遊星。
遊星の屈辱な顔は、ジャックの心を楽しませるモノでしかない。
(もっと貴様の屈辱に歪んだ顔を俺に見せろ。・・・貴様が仲間の前でさえ見せない全ての表情を俺だけに
見せるがいい。)
心が踊る。
ジャックは、自分のD・ホイールに跨がるとエンジンを掛け颯爽と走り出す。
遊星も遅れまいと自分のD・ホイールに跨がりジャックの後を追う。
サテライト出身の自分がまさかシティを駆けるとは、思いもしなかった。
サテライトでは、見た事の無い綺麗なビル群。
こんな昼間からシティを駆けるなんてセキュリティーのバレでもしたら教育プログラムを受けさせられサテライトへ
戻されるだろう。
自分をシティに招いたジャックもタダでは、済まないかもしれない。
ジャックの後を追いながらいろんな事を考えてしまうがこのままシティに住もうとは、全く思わない。
遊星の頭には、セクトと共にサテライトに帰る事だけ。
ジャックは、高速を抜け地下へと続くトンネルに入る。
そのトンネルが何処に繋がっているのか全く解らないが今の時点では、セキュリティに見つかる心配が無い。
走っていると何処かの地下駐車場に着いた。
ジャックがD・ホイールから降りると遊星にも降りる様に促す。
D・ホイールを降り大きな扉の前に立つと扉は、音も無く左右に開く。
中は、大きくて広い個室。
驚いている遊星を目の端に止めながら。
「絶対王者がこんな所でD・ホイールを止めるワケがなかろう。貴様も早く入れ。」
遊星を促す。
幾ら大きくて広い個室でもD・ホイールと一緒に居る所為で狭く感じる。
無駄な音無くスピディーに上昇する個室・・・エレベーター。
中から外の景色が見えるが外からでは、中の様子が見えない。
「貴様 名は、何と言うのだ?」
外を見たまま訪ねられる。
「・・・不動遊星・・・」
「不動遊星・・・不動・・・」
(まさか・・・そんな事在り得んな不動と言う名は、ありふれているのだ。)
遊星が名乗るのに一瞬間があった。
それは、いきなり訪ねられて驚いた所為なのか本当の名前を名乗るべきなのか?偽名を名乗るべきなのか?
との迷いからか・・・もしくは、別の事を考えていた所為で答えるのに間が出来たのか。
遊星の場合後者が正解なのだ。
遊星の頭の中は、セクトの事でいっぱいなのだ。
遊星の心を占めているのがセクトの事だと気が付いているジャックにしてみれば面白く無い。
自分は、誰しもが憧れる『絶対王者』なのだ。
そんな自分を前に憧れの眼差しを見せない遊星が許せなかった。
そしてそんな遊星の心を占めているセクトも許せなかった。
(貴様のその心この俺に向けてやる。そして俺だけを見、俺だけを求める様にしむけてやる)
目的地に付いたのか扉が開かれる。
「ここは?」
「今頃聞くのか?ここは、俺のプライベートハウスだ。」
「プライベート・・・」
ビルの最上階に建てられた3階建ての邸宅。
プライベートと言うには、大きすぎる。
D・ホイールを押しながらジャックの後を着いて行く。
D・ホイール専用の駐車場に止め遊星は、ジャックの後を着いて行くしかなかった。
このプライベートハウスには、セクトが居るかもしれない。
早くセクトを見つけ出しココから抜け出さないと・・・。
しかしこの最上階に来るまでに使ったのは、エレベーターのみ。
辺りを見渡しても階段らしき物が見当たらない。
多分エレベーター以外無いのだろう。
逃げ道を考える遊星。
「ココから簡単に逃げられると思うな。」
遊星の考えを見透かしたように言うジャック。
遊星は、無意識の内にキョロキョロと辺りを見ていたのだ。
それで傍から見ていて気が付かないのは、余ほど間抜けだろう。
「まぁヘリでも無い限り空から抜け出せぬしエレベーターも指紋認証でしか作動せん。」
遊星は『退路は、絶たれている・・・』と言われている気がした。
確かに退路は、絶たれているがこの建物自体人の手によって作られたモノ。
だとしたら何処かに退路を見出す事が出来る。
誰しも完璧なモノなんて生み出せないのだし作り出せない。
何処かに綻びが在るものなのだ。
だが抜け出すにしてもセクトを見つけ出さなくては、何の意味も無い。
(遊星 貴様を逃がしは、しない。貴様は、この俺に飼われる運命なのだ。)
案内されたプライベートハウス内。
(この建物の何処かにセクトは、居る筈。何としてでも見つけ出す。)
「遊星 一先ずシャワーを浴びて貰おうか」
「何故?」
「貴様は、俺の指示に従っていればいい。」
何の理由も告げられる事無く遊星は、シャワールームへと案内される。
「余計な事は、考えるな。俺の意志に従わねばクズがどうなっても知らんぞ。」
「セクトに手を出すな!!」
「貴様次第だ。」
高笑いをしながら脱衣所を出て行くジャック。
遊星は、忌々しい気持ちで一杯だった。
セクトを助ける為 今は、ジャックに従うしかない。
遊星は、衣服を脱ぎシャワーを浴びに内に入って行く。
サテライトでは、決してお目にかかれない高級なシャンプーにコンディショナーにボディーソープ。
遊星は、シャワーのコックを捻り温度調節をした後シャンプーボトルに手を伸ばす。
2〜3回ポンプを押し乳白色の液体を取り出し頭に着けワシャワシャと洗う。
流石に高いだけの事は、在る。
良い香りがするのだ。それに手触りだっていい。
サテライトの粗悪品とは、比べ様も無い。
こんな暮しをしているヤツにしてみればサテライトの住民なんて取るに取らない存在だろう。
+++
薄暗い室内。
電気がつかないワケでは、無い。
カラン・・・
グラスに注がれた琥珀色の液体。
その液体に口づける。
まさか自分が人間を飼う事になるとは・・・。
シティの富裕階層には、一部人間をペットに飼うヤツが居る。
ジャックは、今迄そんなヤツ等を『下衆』とさげずみ忌み嫌った。
それなのに自分がそんな『下衆』の仲間入りをしようとは。
しかも飼ったのがサテライトのオスの若者。
イヤ・・・綺麗な蒼い瞳をしたしなやかな肉体を持ちデュエルの腕もたつ有能なオスと言うべきか?
そのしなやかな肉体に今夜己を覚えさせる。
魅惑の時間とも言うべきか。
「この俺が心待ちにしようとは・・・」
早く抱きたいのだ。
遊星がどんな反応を見せるのか楽しみだ。
遊星の躰が汚されていない・・・とは、思わない。
攻めであれ受けであれサテライトに居れば清らかな躰では、居れないはずだ。
もし清らかなら貴重な存在だろう。
ジャックは、遊星がシャワールームから出て来るのを待っていた。
ドタドタ・・・と勢いの良い足音が聞こえて来る。
誰のものかなんて直に解る。
ココには、自分とアイツしかいないのだから。
「絶対王者(キング)オレの服を何処にやった!!」
「服?ああ・・・貴様が着てたヤツか。それなら処分した。」
「処分って・・・」
着替えなんて持って来ていないのに。
「案ずるな貴様の服は、調達中だ。」
(この俺のペットがあんな薄汚れたモノを身に纏っているなど許せるワケがなかろう)
ジャックは、手にしていたグラスをテーブルの上に置き遊星の元へと歩む。
「絶対王者(キング)・・・」
「ジャックだ。」
「ジャック・・・」
「俺と2人の時だけそう呼べ。イヤ・・・それ以外の時でもだ。貴様は、この俺の事を『絶対王者』と呼ぶ事を
禁ずる」
薄らと褐色に色づく肌に白いバスローブ。
そして自分を見上げる蒼い瞳。
今目にしているモノが自分を興奮させる。
ジャックが白いバスローブの帯を引っ張ると合わせ部分が左右に開く。
遊星が身に着けていた下着も全て処分した。
当然の事だがバスローブの下は、一糸纏わぬ生まれた時のまま。
遊星は、慌てて左右に開いた前身頃を閉じ躰を隠す。
「何をする!!」
朱に染まる顔を見て
(コイツのいろんな顔を見てみたい)
そう思った。
ジャックは、自分の気持ちに気が付いていたが認めたくなかった。
遊星に想いを抱いている事を・・・。
だから彼に執着している事を・・・。
だが認めてしまえば自分は、自分で居られない。
遊星に溺れた堕落した日々を送ってしまうかもしれない。
絶対王者である自分に起きては、ならないのだ。
遊星を傍に置きつつも一線を引く。
そしてその一線を踏み越えるのは、自分で無く遊星の方。
遊星を自分に溺れさせる事にした。
「前を隠すな。貴様に選択権なんてないのだぞ。」
ジャックにそう言われ遊星は、悔しい気持ちを抱きながらも両手を左右に下ろす。
開け放たれる身頃。
ジャックは、遊星の顔や首筋に手を添わせる。
その都度遊星の躰がビクッと反応する。
その反応が楽しい。
大きな手が身頃を掴み左右に広げると遊星の腕を伝い落ちる。
「そのまま立っていろ。」
遊星にそう命じるとジャックは、さっきまで座っていたソファに腰かける。
そして窓から入る光で遊星の躰を眺める。
色とりどりの光が遊星の躰に当たり何とも言えない美しさを醸し出している。
引き締まった肉体。だからと言って筋肉質では、無い。無駄な脂肪が無いのだ。
「後ろを向け。」