私から愛しい貴方へバレンタイン
今年も近付くバレンタインデー。
昨年あげる事の出来なかったチョコレート。
今年は、渡したい・・・しかも『手作りチョコ』を!!。
チョコレートは、菓子作りで何度か使用した事がある。
別に菓子作りが趣味では、無い。
ただ博士に食べてもらいたくて覚えたのだ。
喜ぶ顔が見たくて・・・。
それに博士の口に何を使っているのか解らないモノなんて入れたくなかった。
自分の全ては、博士の為に存在しているのだと思うと甘い気持ちになる。
チョコレートを溶かす祭には、湯煎を使うのだがルドガーは、耐熱容器に粉々に砕いたチョコレートを入れそのまま
電子レンジに入れ600ワットで30秒程温めてからかき混ぜ再度レンジで30秒加熱した。
それを繰り返して適度に溶けたチョコレートに砕いたアーモンドを混ぜ合わせ色とりどりの小さなアルミ容器に流し入れ
固まるのを待った。
アーモンドの入っていないチョコレートには、スプレーチョコでデコレーション。
小さく切ったバームクーヘンにもチョコレートを塗ってコーティング。
余ったチョコレートは、苺やバナナに着けた。
アルミ容器は、カラフルな小さい円のものを使った。
本当は、ハート型のを使いたかったが流石に買う勇気が無かったのだ。
(私は、何をしているのだ?博士は、毎年沢山のチョコに埋もれて仕事をしているでは、ないか・・・)
博士に憧れを抱いている女性スタッフからの恋叶わぬと解っているのに本命チョコ。
義務的に配られる義理チョコ。
(そう言えば・・・)
男性スタッフからも貰っているのを見た事が在るのを思い出す。
(アレは、どう言う意味が在るんだ???)
出来あがったチョコを見て在る事に気が付いた。
ラッピングする素材が無いのだ。
チョコの材料を買うのに気を取られラッピングまで気が回らなかった。
それに自分の様にガタイのデカイ男がラッピング用のナイロン袋や紙袋・箱を買うのは目立って仕方が無い。
途方に暮れてしまう。
タッパに入れるのは、味気ないしまるで余りモノの様な感じがする。
ルドガーは、暫く悩んだ後 意を決しスーパーへと出向く為にエプロンを外し上着を手にしようとした時
「あれ?兄さん出かけるのですか?」
丁度帰宅して来たレクスに会う。
「あっ・・・ちょっと忘れ物を・・・」
まさかラッピング素材を忘れたとは、言えないで居ると。
「兄さんこれ。」
差し出される買い物袋。
それを受け取り中身を確認すると
{!! レクス・・・これ・・・」
「兄さんは、一つの物事に気を取られる所が在りますから多分チョコレート作りに頭が一杯になってラッピング
素材の事を忘れていると思ったんです。」
紙袋の中身は、可愛い箱型のラッピング素材。
「それに兄さんの様な怖い顔をした男がラッピング素材の傍に居ると女性が怖がってしまうでしょ?第一兄さんに
そんな場所は、似合いませんし」
「こ・・・怖い顔って私の顔は、そんなに怖いのか?」
(場所的に似合わないのは、お互い様だと思うのだが・・・)
そう思いながらラッピング素材を置いている売り場に居るレクスの姿を思い浮かべると店員に上手く言って選んでいる
光景が浮かんだ。
大方『娘に頼まれて』とでも言って居ない身内でも作ったか『知人に・・・』とでも言ったのか?
ただルドガーから言えばレクスは、口がたつのだ。
「選んでいる時の顔が怖いのですよ。兄さんは、何にでもそうですが一つの事に集中すれば回りを見ようとしない。
博士に対しても同じですよ。博士に盲信する余り回りが見えてないでしょ?」
「確かに・・・回りが見えなくなる時があるがそれと何故博士が関係してくる?」
「博士に盲信し過ぎて兄さんに好意を抱いている女性の存在に気が付いていない・・・と言うんです。兄さんも
いい年なんだし自分の事を少し考えたらどうです?」
「私は、博士が1番大切なのをお前は、知っていよう・・・あの人の事以外興味が無い。あの人が見ているモノを
私も見たい。浮いた話しなんて興味が無いんだ。レクス・・・私の前で余計な話しは、するな・・・博士の前でもだ!」
胸が苦しいどんなに想っても自分の気持ちは、ワンウェイ決して交わる事も共に横に進む事も無い。
だが彼の事を諦めるなんて選択しは、存在しない。
「クス・・・冗談ですよ。兄さんが誰を想っていても私には、それを止める権利は在りません。当然回りに居る人達
にも。兄さんが想う様にして下さい。ただ博士に嫌われない様にだけは、して下さいね。
あっそうそうストーカーになんて堕ちないで下さい。セキュリティに連行されても身元保証人として行くのイヤです
から。」
「レクス・・・男が男にチョコを渡すのは、変かな・・・」
去年男性スタッフが博士にチョコを渡しているのを見た。
その時は(何故男が男にチョコを渡しているんだ?)と微かな嫉妬を抱きつつ疑問に思った。
「別に変じゃないですよ。今時チョコを渡す祭に本命だの義理だの拘わる必要なんてありませんよ。
今は、本命・義理・友チョコ・御褒美チョコ・逆チョコが在るんですから男だって『憧れ』や『尊敬』や『御礼』を込めて
同性に渡してもいいんじゃないんですか?」
「逆チョコ???」
頭にクエスチョンを掲げているルドガーに対しレクスは、淡々と
「さっき兄さんは『私は、博士が1番大切なのを・・・』と言って置きながら何に拘わっているのか私には、解りません。
兄さん博士の事が好きなら渡せばいいじゃないですか。
男が男にチョコを渡すのは、変では在りません。自信を持って下さい。」
そう言いながらレクスは、片手を振りながらその場を去る。
弟にいい様に遊ばれた様な気と本気で悩みに答えてくれた事に感謝した。
レクスの言う通りなんだ。
自分は、何を拘わっている?
自分の想いが禁忌なのは、解っている事。
だがそれがチョコを渡す事と何か関係があるのだろうか?
レクスが言っていた『憧れ』や『尊敬』や『御礼』の気持ちで渡してもいいじゃないか。
だがその反面本当にそれで良いのか?と言う気持ちも在る。
妻子ある人に盲信している現状。気持ちを抑えられている今は、大丈夫だろうがその想いを抑えきれなくなった時
彼を手に入れる為に自分は、犯罪を犯すかもしれない。
聡明な弟は、そこを気にかけているのだ。
「その時は、その時で運命を受けいれるしかない・・・」
悲しい笑みを浮かべながらルドガーは、チョコをラッピングして行く。
甘いチョコと苦い想いを抱いて。
翌日・・・バレンタインデー。
「おはようございます。」
何時もの様に出勤すると何かしら違和感を感じる。
少しばかり考えてみた。
そして気が付いた。
毎年チョコレートに埋もれている博士が自分のデスクの前にチョコンと椅子に座っている。
博士の回りに在るはずのチョコの姿が無いのだ。
「今年は、断ったんだ。私は、ただ1人からのチョコが欲しいからね。」
それは、夫人の事だと思ったが博士の手が自分に向けて伸びている。
「頂戴。」
「私からですか・・・」
「君以外からのチョコなんて必要無いよ。」
「夫人からのチョコを待っているんじゃ・・・」
「妻からのをココで待ってどうする?それは、それで家で貰えばいいじゃないか。」
確かにそうだ。
同じ屋根の下で過しているのだ。わざわざ研究室まで持って来させる必要なんてない。
「私の様な者から博士に・・・恐れ多い・・・」
カバンの中に昨日作ったチョコレートが入っている。
渡したいのに渡すのが躊躇われる。
「先日・・・レクスに言ったんだ。今は、チョコを渡す時 本命や義理に拘わって渡すやり方ばかりじゃないってね。
友チョコ・御褒美チョコ・逆チョコが在るんだよ。
友チョコは、友達同士で交換。御褒美チョコは、自分自身に対するチョコ。逆チョコは、男から女にチョコを渡す。
私は、前々から想っていたんだ。何の拘わりもなくチョコを渡しても良いのでは、ないか・・・てね。」
その言葉は、何処かで聞いた様な気がした・・・が当然だろう同じ様な言葉をレクスから聞いたのだ。
「博士その言葉は、レクスに言いましたか?」
博士は、キョトンとした表情を浮かべたかと思うと笑みを浮かべ
「言ったよ。君の弟は、聡明だね。この話しをした時直に私が何を望んでいるのか理解したらしく直に行動に移して
くれたよ。おかげで今日私の回りにチョコの姿が無い。」
ルドガーの前に差しだして居た手を両左右に広げチョコの存在が無い事をアピールした。
弟を誉めて貰うのは、兄として微笑ましい事だし誇りに思うが裏を返せば自分が弟より劣っていると言われている
様に感じた。
「だが彼は、君のように私に盲信しているわけでは、無い。彼は、私を科学者として尊敬しているだけだ。」
それ故に彼は、冷静に物事が考えられる。
「君は、私を盲信している。私以外考えられない。君の世界は、私中心で回っている・・・そうじゃないか?」
「はい・・・私の世界は、貴方中心です。」
何でこんな事を言っているのだろう。胸の中でしまっている想いなのに。
「私がそう望んでいるからだよルディー。」
『ルディー』と呼ばれルドガーは、カバンからチョコレートを取り出し博士の傍に行きその細い躰を抱きしめる。
「食べさせて・・・」
耳元で囁かれては、断れない。
「はい。」
ルドガーは、ラッピングを解きチョコを自分の唇に挟むと博士に口づける。
甘い蜜で誘われ張られた罠にかかった気持ちだった。
「甘い・・・そして美味しい・・・もっと強請っていいかい?」
腕の中で最高の笑みを見ながらルドガーは、またチョコを唇に挟み再度口づける。
(ああ・・・何て甘い・・・チョコより貴方の唇が甘い・・・私を狂わす。)
このまま甘い気持ちに酔っていたい。
互いの口腔内を行き来するチョコは、次第に小さくなりそのうち消えて無くなったのにもかかわらず互いに甘い
口腔内を犯していた。
「最後の一つは、口移しで食べさせられませんね。」
「・・・ん・・・どうして・・・」
ルドガーの膝の上。
横抱きにされながら不動博士は、ルドガーを見上げる。
その瞳は、熱に犯されて潤んでいる。
長いキスに不動博士は、全身の力が抜けたのだ。
「溶けないんです。」
「溶けない?」
バームクーヘンにチョコがトッピングされたプチケーキ。
それを見て博士は、口を開ける。
『食べさせて』と言葉に出していないのに催促をする。
「溶けませよ。」
そう言いながら小さく千切って博士の口に入れる。
満足そうに口を動かしながら
「君達兄弟は、どうしてそんなに料理やお菓子作りが上手いんだい?」
「私なんかレクスの足元にも及びませんが両親から離れて住んでいると自分達で自炊をしないといけないんですよ。
そうすると自ずと上達します。」
博士は、少し考えながら
「それは、料理の事だけどお菓子作りが上達する理由にならないよ。」
「そうですね・・・まぁ母が菓子作りが上手だったのが原因かもしれません。」
「もしかして手伝い?」
「はい・・・私なんかよりレクスの方がよく手伝っていました。」
「今度レクスにも何か強請ってみようかなぁ」
「私より美味しいお菓子を焼いてくれますよ。」
「嫉妬しないの?」
「出来ません。」
「何故?」
「レクスの実力を知っているからです。それにさっきも言ったでしょ?私なんかレクスの足元にも及ばないと・・・嫉妬して
欲しかったのですか?」
「・・・ん・・・わからない・・・」
「困りましたね・・・アレほど博士宛てのチョコを断ったのに聞き分けの無い女性や男性が居るなんて・・・」
小部屋で1つの段ボール箱を見つめるレクス。
通常博士宛てのチョコは、段ボール箱10個程あるので相当減らす事には、成功している。
「まぁ・・・元々お返しは、していないので今年も返す必要は無いのですが・・・」
一方通行のチョコにお返しをしない・・・と言うわけではない。
ただ余りにも量が多かったので財布の中身が持たないと言う事でお返しは、していないだけ。
「このチョコ達は、ケーキの材料にでもしましょう。」
(兄さん私から貴方へのバレンタインチョコ『不動博士』を受けとってもらえましたか?)
兄の為に不動博士宛てのメールも電話もシャットダウン。
誰も兄の邪魔をしないように手を打っていたのだ。
レクスは、段ボール箱を抱き抱え小部屋を後にする。
後日チョコ達は、チョコケーキに化け博士の口に収まった。