御内裏様と御雛様
今日は、桃の節句。
女の子の節句だと言うがそんなの関係無い。
ジャックは、花屋で購入した花が咲きだした桃の枝を抱き抱え遊星の家に向かっていた。
片手には、可愛い花弁を散りばめた紙袋。
その袋の中には、白い液体の入った瓶が2本入っている。
白い液体は、白酒。
子供が飲むようなモノじゃない。
ちゃんとアルコールの入っているヤツだ。
ジャックは、イベント事に遊星との時間を大事にしていた。
イベント事は、何かしら邪魔が多いからだ。
その邪魔を排除して作り出す時間。
だがその邪魔を幾ら排除しても排除しきれない相手が居るのだ。
多分今日もその人物が居るだろう。
あのガタイのデカイ男を従えて・・・。
想像するだけで頭が痛いが苦難を乗り越えて最愛の者と過す時間も各別で在る事をその人物に教えられた
所もあるので無碍に出来ないのだ。
ピンポ〜ン。
呼び鈴を押すと鳴るチャイムと同時に現れる掌サイズ猫耳二頭身キャラ。
毎回何かの踊りを踊っている。
以前遊星に聞いた所「意味は、無い。父さんの趣味だ。」との事だった。
(遊星のお父さんは、一体何を考えているんだ???)
科学の世界では、羨望の眼差しを向けられている科学者で科学に詳しく無い人でも知っている学識者なのだ
が・・・。
「は〜い!!ジャック〜よく来たね。君の事だから今日も来ると思っていたよ。さぁ〜中に入って。」
勢い良く開いた扉から出て来たのは、歪な紙型をした中年の男性。
「博士・・・」
「博士だなんて堅苦しい呼び方止めて『お父さん』でいいよ。君は、私にとってもう1人の息子なんだから〜。」
「あっ・・・はぁ・・・」
公認なのは、嬉しいが普通息子の恋人が男なら反対しないか?
「あっ・・・これ・・・」
「うわ〜桃の花じゃないか!!気が利くね〜。さっそく花瓶にいけないと!!」
ジャックから桃の枝を受け取る不動博士。
何時も自分が来た時出迎えてくれる筈の遊星の姿がない・・・。
「お父さん・・・遊星は・・・?」
「遊星なら居るんだけどちょっと手が離せないんだ。あれ?その紙袋は?」
「遊星と後で飲もうと思って・・・。」
「あっもしかして白酒??」
「そうです。」
「じゃぁそれも預かるね。ルディー!!ジャックを連れていって」
「はい。」
ジャックの背後から聞こえる声.
その声にジャックは、身を固める。
「・・・と言う事だ。こっちに来てもらおうか。」
何が・・・と言う事なのか解らない。
ジャックの肩を掴むとルディーと呼ばれた男は、力任せにジャックを連れて行く。
そして何の説明も無く、有無を言う事も出来ずジャックは、ルドガーに連れて行かれる。
『ルディー』とは、ルドガーの愛称らしい。
ジャックが排除しても排除しきれない相手・・・遊星の父親不動博士とその助手ルドガー・ゴドウィン。
この2人は、ただの主従関係では無いようなのだが。
連れていかれた部屋には、着物用のハンガーに吊るされた着物。
束帯衣冠。
「君には、それを着て貰う。」
ルドガーの言葉に
「俺が!?こんなの着た事が無い!!」
驚いているが
「安心したまえ。博士の指示で私が着付けをする事になっている。」
ズイズイと近付いて来るルドガーにジャックは、後ずさりで逃げる。
「ぎゃぁぁぁぁぁぁ・・・・・・・」
数分後・・・
「博士着替えが終わりました。」
淡々と博士に報告するルドガーの後ろでゼェゼェ・・・と荒い息を吐いていると
(遊星にでさえ脱がされた事が無いのに・・・遊星に脱がされる前に男に脱がされるとは!!こんな事なら遊星に
脱がす事を強要・・・イヤ 遊星を調教し俺を求めさせる様にしておけばよかった〜!!)
男に脱がされる悍ましさや後悔がジャックを襲う。
「ジャック!!」
聞き慣れた愛しい者の声。
「遊星!!」
その声の方に顔を向けるが・・・
「お前その姿・・・・」
畳の上に座っている遊星。
その姿は、十二単に身を包んだ遊星の姿。
しかも冠を額に頂き、色重ねを何枚も重ねその上に上着、さらに上に唐衣を着て裳袴を締め、袴を穿いている。
ただ紙型が垂髪でないだけ。
朱に染め俯く遊星に思わず鼻血が出そうだ。
ジャックは、遊星に近付くと
「可愛いぞ遊星。お前は、何を着ても可愛いと思っていたがまさか十二単までだとは、思ってもみなかった。
流石未来の俺の嫁だ。」
「誰が嫁だって?」
「お前以外に居ないだろう?お父さん公認なんだから。」
真顔で言ってくるジャック。
そんなジャックを他所に遊星は、博士を睨むと
「だって白人で金髪で長身のイケメンなんだよ。それが自分の息子の恋人だと思うと手放すの勿体無いでしょ?
だったら公認して早く身を固めてくれたら万々歳じゃない。」
「博士・・・」
「父さん・・・」
呆れている遊星とルドガーに対し
「あっ安心して褐色でガタイのデカイは、既にGETしているからそんな事言えるんだよ。」
キャッキャッとハシャギながら言う博士。
そんな博士に遊星は、
「父さんにとって後不足しているのは?」
と訪ねると
「後娘が欲しいかなぁ〜。でも母さんとの間に作っても成人した頃には・・・」
自分の年齢を考えたのだろう言葉に詰まっているがそんな博士に対しジャックが
「遊星は、俺のモノです。女なんかに渡しませんよ。」
遊星を抱きしめながら言うと
「勿論解っているよ。だから不足している娘の部分は、遊星に補ってもらう事にしたんだよ。
だってこんなに可愛いんだよ〜息子として楽しむ以外に娘としても楽しめる御得な子を利用しない手が無いじゃ
ない。」
「父さんもしかしてジャックとの事を公認したのって『娘を嫁にやる父親』をやってみたいから・・・と言うんじゃない
だろうな?」
身動きしないまま遊星は、博士に問う
「勿論それを味わいたいのもあるしこんなイケメンを息子として持ちたいと言う気持ちも在るからだよ。」
脱力する遊星。
さっきから身動きしない遊星にジャックが
「どうして何もしない?この俺がお前を抱きしめているのにお前は、何故抱きついてこない?もしかして『恥ずかし
い』と言うんじゃないだろうなぁ?」
もしそうだとすれば初々しいくて可愛くて撫で撫でしたいでは、ないか!!
「違う。この衣装が重くて簡単に動けないんだ。」
「十二単は、総重量約20キロ在ると言いますからね。平安時代の貴族女性の動きが緩やかだと言われる理由
の一つです。しかもそのまま布団の代わりにしていたとも言われています。」
動くのが辛そうにしている遊星に説明をするルドガー。
不動博士は、桃の枝を見ながら
「橘も欲しいなぁ〜」
「「「橘?」」」
「あれ?知らない『左近の桜 右近の橘』って言うんだよ。ルディーまで知らないなんて・・・」
「申し訳御座いません。」
本当に申し訳なさそうに頭を下げるルドガーに不動博士は、
「仕方が無いよ。日本人でさえ知らない人多いから。これから学べばいい話しなんだし。」
笑みでそう答える。
「博士在りがたき御言葉。」
感激するルドガーを他所にジャックは、遊星の全身を舐める様に見つめる。
それに居たたまれない遊星は、
「そっそんなに見るな。」
顔を朱に染めジャックから視線を外す。
「気になって居たんだが・・・どうしてそんな恰好をしているのだ?」
「・・・今日は、何の日か知らないのか?」
「『桃の節句』だ。」
「『桃の節句』と言えば『お雛様』だろう?父さんは、オレとお前を使ってリアルお雛様をしているんだ!!」
「リアルお雛様!!流石遊星の父親。息子を使ってそんな事を思いつくなんて・・・」
「関心するなぁ。オレは、こんな恰好イヤだ!!」
「イヤだと言うがお前は、それを着ているでは、無いか。」
「父さんに一服盛られたんだ。」
「だって一服盛らないと遊星。十二単着てくれないじゃないか。」
「当たり前だ!!女の子がこんな恰好するならともかくオレは、男だ。」
「だから一服盛ったんだよ。寝ている遊星は、可愛いのに・・・まぁその遊星の着替えをルディーに頼んだんだけど
ね。」
博士の言葉にジャックは、目を見開きルドガーに
「お前!!遊星の肌理細やかな肌を見た上に触れたのでは、ないだろうなぁ!!」
食って掛かるが
「博士の御指示故に見たり触れたりしたが何の興味も無い。」
ルドガーにとって興味を抱く相手は、博士のみ。
幾ら遺伝子を受け継いでいようとも遊星は、博士では無いので興味を抱かない。
「寝ている遊星を見て何も感じないだと!!あんな愛くるしい表情を見ても・・・」
信じられない心境に陥る。
自分なら迷わず遊星を襲うだろ。
しかし寝ている遊星が愛くるしいのは。当然だが行為に及んでいる時の遊星の表情は、どんな男でも狂わせる
程の魅力を秘めている。
(もしこの男が遊星の魅力に気が付いたら・・・いや・・・それは、在ってな事は、ならない遊星は俺だけのモノなん
だ。遊星の魅力を知っているのは、俺だけで充分。)
遊星の魅力的な表情を思い浮かべるジャック。
それを見ながら引く遊星。
「ルドガーちょっといいか?」
ルドガーを呼び寄せる遊星。
何かルドガーに内緒話をしている様だ。
「・・・本当にそれを実行するのか?」
「見てみたくないか?」
「そっ・・・それは・・・」
「今を逃せば何時見れるか解らない。」
「うっ・・・」
「ジャック!!」
遊星とルドガーの様子を面白く無いと言わんばかりの表情を浮かべて睨んでいるジャックを呼び寄せるとルドガー
の時と同じ様に何か内緒話をしている。
「遊星・・・何を内緒話しているんだ?父さんも仲間に入れてくれないか?」
蚊帳の外に置かれている不動博士は、寂しそうにシュンとしている。
「ジャックは、見てみたくないか?」
遊星の蒼い瞳に見つめられ「グッ・・・」っと息を飲む。
そんなジャックを見て。
(哀れな。この男もまた私同様に言いなりになってしまうのだろう。何と罪作りな博士の遺伝子なんだ。)
まるで自分を見ている気持ちになる。
そう思いながらも遊星に頼まれた事を実現させる為に準備に移る。
「その前にお父さんに頼みたい事が在るんだが・・・」
「頼みたい事?」
小首を傾げる遊星を前にジャックは、眩暈を覚えるが・・・今は、博士の元へと気持ちを切り替える。
「お父さん」
「ん?」
「このまま遊星と祝言を上げたいのですが御了承願えますか?」
博士の両手を手に取りズイズイと近付く。
「ジャック!!何を懇願しているんだぁ〜!!」
「本気なの?」
「勿論です。結婚する時遊星は、着てくれないでしょうから。ついでに言えばウエディング衣装も着せたいのですが
・・・」
「君って面白いね。良いよ、私としても遊星のこんな姿そうそうに見れないからね・・・って・・・あれ?????」
「油断しましたね お父さん。・・・ルドガー今だ!!」
「っえ???ジャック???ルディー????」
後ろ手に羽交い締めされる博士。
本来なら助ける所なのだが遊星に頼まれている事を実現したいという気持ちが先行してしまう。
「なっ・・・何???」
困惑している博士だったがルドガーが手にしているのを見て顔を引きつらせながら
「冗談だろう????」
「本気です。」
「本気だ。」
「ええええ・・・君達!!遊星〜」
「自業自得」
愛しい息子に手を差しだすも息子は、十二単の重さで身動きが出来ない上に今の現状の策士なのだから助け
る筈が無かった。
数分後・・・
「まさかルディーがもう一着レンタルしていただなんて・・・私までこんな恰好をさせられるとは、思ってもみなかった。」
「自分で着た感想は?」
「遊星程似あってない・・・」
鏡を前に愕然とするも
(もしワケ御座いません。しかし博士充分にお似合いです。)
そう思っている輩も居た。
「今度ルディーとジャックが十二単を着てみたら?私達が束帯衣冠を着てさ。」
「「断る!!」」
ハモル2人の声。
「フン 華奢な躰だからこそ似あえどこのデカイ躰では、不気味極まりない!!」
「同感です。」
「それよりも・・・」
箱に残っているモノが気になる。
垂髪・・・。
ジャックは、垂髪を遊星に被せてみる。
「似合わん・・・」
「ジャック???」
「お前ならどんなモノでも似合うと思っていたが垂髪は、似合わん。お前にも似合わないモノが在ったんだな。」
しみじみ言うと
「私は、似合うと思うんだけどなぁ。寝ている遊星に着けてみたんだけどルディーも『遊星に垂髪は、似合わない』と
言って外したんだよ。」
「垂髪の所為で遊星が別人に見えましたので。」
(博士 貴方にも垂髪は、似合いませんよ。)
「でもジャックは、遊星をお嫁さんに欲しいって言ってたのに・・・」
「本気ですよ。このまま遊星を連れて帰りたいぐらいです。」
「来年 桃の枝と橘の枝を持って来てくれたら遊星を上げる。」
「父さん!!」
「博士!?」
「何故来年なのです。俺としては、今すぐにでも遊星と祝言を上げたいのに。」
「来年遊星は、18歳だからだよ。それに来年も遊星に十二単着てもらうから。」
「!! お父さん喜んで用意します。」
「父さん!!」
「ルディー 来年は、忙しくなるね。」
「博士 楽しんでいません?」
「勿論楽しんでいるよ。 あっこの事アメリカに居る母さんに教えてあげないと!!新しい息子が出来るって。」
「奥さまは、反対されませんか?」
「賛成してくれるよ。だって彼女、ルディーやジャックみたいに背が高くてガッチリした人好きだから。」
「父さんと真逆・・・」
「お母さんは、お父さんの何処が良くて結婚したんです?」
遊星が聞きたくても聞けない事をジャックが聞くと
「呼び鈴の猫」
笑顔で答えてくれるが
(父さん・・・)
(お父さん・・・)
(博士・・・)
(((それは、人で無いし貴方じゃない!!猫に負けたのですか?)))
「じゃ母さんは、ルドガーと父さんの関係を・・・?」
「認めていると思うよ。だってルディーの事気に入っているからぁ〜あっレクスの事も気に入っていた。」
「奥さま公認ですか。」
(嬉しいような嬉しくないような・・・)
複雑な心境を抱くルドガーだったがジャックも遊星も同じく複雑な心境だった。
「ねぇ。絶対来年桃の枝と橘の枝用意してね。来年は、妻もレクスも呼ぶから!!」
「あっはぁ・・・」
曖昧な返事をするジャックだったが
「「呼ばんでイイ」」
ルドガーと遊星の突っ込み。
「じゃぁ〜写真とって母さんとレクスに送るね。ルディーカメラのシャッター頼むね」
まったく2人の突っ込みに意を介さないマイペースな博士。
「ルドガーあんな父さんの何処が良くて一緒に居るの?」
「それを問われても・・・普段は、子供の様な一面を持ちつつも研究に関しては、誰もが羨む英知を持って
おられる・・・簡単に説明が出来ない不思議な所ですかね。」
少し困った様な笑顔を見せるルドガーに
「父さんは、誰か等も好かれているんだ・・・」
そう感じた。
束帯衣冠を着ているルドガーとジャックが交替でカメラのシャッターを押し合ったりタイマーを入れたり。
撮られた写真には、それぞれのパートナーとのツーショットや仲のイイ2人雛。
啀み合う束帯衣冠の2人。
様々な写真が撮られていた。
「全く博士・・・基お父さんの破天荒な発想には、恐れ入るがアンタもよくこんな人に付いて行けるな?」
十二単を身に纏ったまま眠る遊星を横抱きに抱えながら床に座るジャック。
床の上にそのまま座るのは、当然腰を痛めるのでクッションを敷いている。
「だからこそ目が離せないんだ。それに来年この人は、お前の義父になるんだ。」
博士は、白酒でしっかり酔い潰れルドガーの腕の中で熟睡。
「・・・」
「来年は、もっと賑やかになりそうだ。」
飾られている桃の枝。
来年は、その傍に橘の枝が飾られアメリカに居る夫人と弟がこの輪に加わる。
来年は、十二単と束帯衣冠をもう一着ずつ増やさなくては、いけない。
そう思うとルドガーは、楽しい気持ちになるが博士が義父となるジャックは、複雑だった。