ドキドキのホワイトディー
カタカタ・・・と音を立てながらキッチンに居るルドガー。
「兄さんこんな朝早くから何しているんです?」
時計の数字は、AM08:10。
今日は、日曜日。一般では、休みの日であり今日は、研究所も休みなのだ。
ゆっくり出来る朝なのに。
何故兄は、こんな朝早くから起きているのだろうか?
その答えは、テーブルの上を見て解った。
テーブルの上には、菓子作りに使う道具が並べられているのだ。
しかも使用中。
「兄さん何を作っているのです?」
「あっ・・・いやこれは、そのあれだ・・・気分転換にだな・・・」
しどろもどろになりながら説明してくる兄。
レクスは、カレンダーを見て兄が何をしていたのか理解した。
「兄さん。バレンタインの時チョコを上げたのですからお返しを待ってみたらどうなんです?」
「まっ・・・博士からお返しを望むなんて恐れ多い!!博士から多くの物を頂いているのに。それに私は、ただ
博士の喜ぶ顔が見たいだけなんだ。」
博士は、自分達の知らない事を知っている。
それを惜しむ事無く我々に披露し我々の知識として蓄積されていく。
博士の傍に居てどれだけ多くの知識を頂き。どれだけ多くの事を学んだか解らない。
それなのにそのお返しがチョコだなんて陳腐すぎるが何をどう返して良いのか解らなかった。
イベントに恰好つけてお返しする以外思いつかない。
「そう剥きにならないで下さい。そうですね・・・博士の御陰で深海探索や大気圏ギリギリ無重力体験なんて
出来ましたから・・・後これで銀河系の中心部やブラックホールや土星の輪を見たいなんて言ったら切れますけど」
「ははは・・・幾ら博士でも銀河系やブラックホールや土星なんて言わないだろう。」
「銀河系やブラックホールは、言わないまでも土星は、言うかもしれませんよ。」
「・・・」
一瞬黙ったルドガー。
博士の性格なら本当に言うかもしれないと思ったのだ。
「でも本当に博士には、貴重な体験を幾つもさせていただいているのに何の御礼もしないなんて寂しい気がする
ので私も何か博士にプレゼントしよう。」
そう言いながらレクスは、イソイソと自室に戻って行った。
1人残ったルドガーは、作業を再開した。
「博士貴方の口に合えばいいのですが・・・」
博士の事を思い出せば甘い気持ちになる。
---翌日---
「はい。君達に」
何時もの様に出勤したら博士が満面の笑みを浮かべて2人にリボンの付いた袋を差しだした。
金と銀のリボンの付いた袋。
「私達にですか?」
「私にもあるんですか?」
驚きの顔を見せる2人に
「私からの気持ちだよ。2人には、何時も助けてもらっているからね。」
恐る恐る手を伸ばす。
手にした袋を落さないか心配だった。
緊張する・・・。
「見た目は、悪いけど味の保証は、するよ。」
そんな博士の言葉に
「「もしかして博士の手作りですか?」」
2人揃って声を発する。
「一応私だって作れるお菓子ぐらい有る・・・だから作ったんだ・・・。」
予想外な博士の言葉に2人は、驚いていた。
・・・がルドガーは、その袋を眺め鼓動が早く動くのを感じていた。
(まさか博士が手作りのお菓子を用意してくれるなんてこんな光栄な事は、あるだろうか?夢では、無いだろう
か?)
何時も何時も博士は、いろんな事を教えてくれる自分は、博士から頂いた知識を自分のモノにして来た。
イベントは、そんな自分が博士に恩返しが出来る唯一の日。
そんなイベントに更に博士から頂きモノをするなんて想像していなかった。
「気に入らなかった?」
身動きしないルドガーを見ながら不安そうな顔をする博士。
「そっ・・・そんな事ありません!!寧ろ嬉しいのです。」
怒鳴るかの様に大きな声で自分の今の気持ちを訴える。
「そうなんだ〜。何も反応してくれないからてっきり気に入らなかったのかな?って思ってしまった。」
ホッとした様な表情をした博士に
(博士に心配させるなんて・・・私とした事が・・・)
後悔していた。
「そうだ折角頂きモノをしたので私から博士にお返しがあるんです。」
「お返し?」
レクスは、紙袋を博士に差し出すと
「私から博士にプレゼントです。青い包装紙が博士のでピンクが夫人の緑が遊星のです。」
「家族分用意してくれたのかい?」
博士は、その紙袋を受け取った。
「よろしければ青い包装紙を開けてみてくれません?」
「?・・・いいよ。」
不思議そうな顔をしつつも博士は、青い包装紙を開ける。
「おお!!これは。」
目を輝かせている博士。
その中に入っていたのは・・・
「レクス・・・お前、博士を何だと思っている。」
呆れた声でレクスに話しかけるルドガー。
「ははは・・・博士が喜んでいるからいいじゃないですか。」
白い猫耳のファーで出来た室内帽子。
しかも別個で猫耳と尻尾の着いたつなぎパジャマ。
「博士もこんな所でパジャマを着なくても・・・」
ルドガーが注意するも博士の瞳は、子供の様な輝きを放っていている。
「だって1度でいいからつなぎパジャマを着てみたかったんだもん。」
そんな博士を見ていると自分のプレゼントを渡す事が出来ない。
自分のプレゼントは、博士を喜ばせる事なんて出来そうにないから・・・。
意気消沈になりかけていると
「兄さんも博士に渡すモノがあるんでしょ?」
「・・・イヤ・・・私のは・・・」
レクスの振りにルドガーは、困った様な顔をするが
「ルディーも私に何かくれるのか?」
白猫の姿をしキラキラ輝く瞳で見詰められルドガーは、胸を締め付けられる思いがした。
「私のは、レクスの様に可愛いモノでは有りません。」
そう言うとルドガーも紙袋を博士に差し出した。
『持って来るのを忘れました。』
なんて言うと博士は、シュンと落ち込んでしまうかもしれない。
そんな事を思うと嘘を吐けなかった。
「見てもいいかい?」
「いいですが・・・」
ルドガーの言葉に詰まる。
だが返って来た声に嬉しくなった。
「凄い!!高級洋菓子店の御菓子を見ているような気持ちだよ。」
「兄さん腕を上げましたね。確かにこれは、高級洋菓子店の御菓子だと言っても誰も疑わないでしょう。」
細かく刻まれたゼランチを散りばめ1番上にミントの葉がチョコンと乗ったカップ入りスイーツにフルーツタルト。
その他にも数種類のスイーツが博士のデスク上に並べられた。
「そんな事を言われると恥ずかしい。私如きが作ったスイーツで・・・」
「ねぇ食べていい??」
まるで子供の様な顔をしてルドガーを見る博士。
「家まで待てないのですか?」
「待てない!!こんな美味しそうなスイーツを前に待てなんて出来ないよ。それに味が気になって仕事も出来
ない。」
「それは、困りましたね。ただでさえクライアントに提出する書類がまだ出来あがってないのに・・・」
「あっそれなら既に片付いて提出しておいたよ。それと先日の論文もチェックしておいたから明日にでも研究員達に
返しておいて。」
「「・・・」」
博士からの予想外な言葉。
なかなか先に進まなく1ヶ月も苦悩したクライアント宛ての書類を休みの間に片付けたと言うのだ。
しかも休み前にあった研究員のレポートもチェックしたらしいが提出されているレポートは、20通ぐらい有ったと思う。
「貴方の脳内スイッチは、何時オンになるのか解りませんね。」
「私にも解らないよ。それよりレクス紅茶煎れてルディーは、お皿用意して。あっ大皿1枚出してね皆で食べよう〜。」
博士の為に作ったスイーツだったが『作り過ぎた』と言う気持ちは、有ったので3人で食べるのに丁度良いかもしれ
ない。
「私の作ったクッキーもまだ有るんだ〜vvv」
イソイソと自分の手下げカバンから包みを取り出しルドガーが出して来た大皿に乗せていく。
「これじゃ仕事になりませんね。」
小さなテーブルの上には、所狭しと並べられたスイーツを良い香りを放つ紅茶。
「開店休業と言ったところですか?」
「別にこんな日が有ってもいいんじゃない?」
「「博士!!」」
クライアントに提出する書類も研究員達の報告書も既に目を通したし提出もした。
残っているのは、モーメント絡みの仕事と締め切りが先の書類だけ。
今慌てて取りかかっても良い結果が出せるワケではないし案外脳を休めた事によって良い案が出るかもしれない。
「さぁさぁ2人ともお茶会始めようよ。」
「それより博士・・・その恰好のまま1日居る気ですか?」
今尚白猫の着ぐるみパジャマを着たままの博士。
「そうだよ?可愛いでしょ。」
確かに可愛いが・・・
「その恰好のまま施設内を歩くのだけは、やめて下さいね。」
「どうして。」
「どうしてもです。」
「博士気に入って貰えるのは、嬉しいのですが一先ずココは,仕事場であって自宅や保養所では、有りません。
その所を考えてください。もしその恰好のまま施設内を歩くと言うのなら博士には、明日以降オヤツは、有りません
からね!!」
「え〜そんなぁ〜意地悪言わないでよレクス。」
「ダメです。」
「解ったよ。この恰好のまま施設内を歩かない。」
少しムス〜とした表情の博士を可愛いと思いつつも己が弟の博士さばきが上手いとつくづく関心してしまうルドガー
だった。